花びらは散らない

美絢

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1話

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 総代として宣誓を読む声に、鼓動が早まるのを感じる。

 無意識にブレザーの胸の辺りを掴んで、その姿に見惚れていた。










 この世界には大きく分けて3つの階級が存在する。

 ーーー王族・貴族・平民である。
 王族は今は3人しか居なくて、その1人が彼だった。



「ミコト、礼、礼!」

「…あっ」



 俺は慌てて頭を下げる。

 どうやら彼に見惚れていてタイミングを逃したらしい。
 幼馴染であり、親友でもあるリノが声を顰めて脇腹を小突いた。

 気づいたら総代の挨拶は終わっていて、俺は脳内に焼きついた彼の姿を思い出す。

 現実に話すことは難しいけど、想うことは自由のはずだ。


「毎年思うけど飽きない?毎回フリーズしてるよね?」

「うぅ…だってカッコいいんだもん…」

「まあ、確かにミカド様はかっこいいよね。オレはタイプじゃないけど」


 式典後、渡り廊下を歩きながらまた彼の姿を思い出す。


 ミカドーーーそれが彼の名だ。


 王族であり、俺の想い人であり、全校生徒の憧れでもある。



「まぁでも、今年で最後だしね。見れてよかったね」



 リノの一言に脳内のミカドが霧散する。
 春に生まれた俺がこの学舎に居られるのはあと数日だった。

 3人の王族と、人口の0.01%を占める貴族と、大多数の平民。

 この中で唯一貴族にだけ、ある儀式を受けることが義務付けられている。





 ーーー16歳の誕生日に、王様から『祝福』という贈り物を賜ることだ。





 『祝福』の正体は箝口令が敷かれているらしく、調べたけれどよく分からなかった。





「…そうだね。どうして俺、貴族なんだろ」

「またその話~?『祝福』貰ったって別に学校が変わるわけじゃないでしょ?」

「そうだけど…リノとあまり一緒に居られなくなるじゃん…」


 『祝福』を受けた者は、専用の校舎で貴族としての専門的な知識を身につける授業が中心になるという。

 一般の平民が進学する先の授業も受けられるらしいが、どれくらい授業が受けられるかはわからない。



「ミコト…」



 いつもは明るく振る舞っているリノが、悲しそうに眉を八の字にした。

 そして人目がないことを確認した後、中庭にある桜の木の下に連れ出して、そっと俺を抱きしめる。



「…あの話、考えてくれた?」



 少し掠れた声が耳を擽る。
 顰められた声は先ほどの式典の時よりも真剣で、少し苦しそうだった。

 背中にそっと腕を回す。



「俺のために、いっぱい考えてくれてありがとう。でも俺、頑張れるから大丈夫だよ」



 俺が『祝福』の儀式が怖いと打ち明けた日、リノは一緒に逃げようと言ってくれた。

 国外には、身分制度がない国も存在するらしい。
 しかし国外逃亡は重罪で捕まれば死を意味した。

 俺個人のわがままで、この大切な友人に罪を犯させるわけにはいかない。


 耳元で、小さくため息をつくのが聞こえた。



「金曜の夜10時、ここに来てほしい」

「金曜日、って…」



 リノは俺を抱きしめていた腕をそっと解いた後、両肩に手を置いてそっと伸ばした。



「お別れが言いたいんだ。しばらく会えないかもしれないしね」



 金曜日は15歳最後の夜だ。
 翌日には王宮からの迎えがくるから、時間を取ることは難しいだろう。

 身分のせいで寮が分かれてしまってからは、渡り廊下近くの桜の木の下が俺たちが落ち合う定番の場所になっていた。



「わかった。絶対行くね」


「うん、待ってるから。あと…やっぱり逃げたくなったら、言ってね」

「ありがとう、リノ」


 今日の空よりも澄み切ったスカイブルー色の瞳に捉えられる。

 自分のくすんだ金髪とは違い、思わず目を細めてしまう程まばゆい金色は彼の人柄を表しているようだった。





「戻ろうか」










 リノの言葉に頷き、彼の後に続く。
 振り返って見た桜はすでに散り始めていた。
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