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4話
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結局俺に選択肢なんてなくて、ミカドからの『祝福』を受けるしかなかった。
リノが罪に問われるのは嫌だったし、俺も家族に迷惑をかけるわけにはいかない。
その選択をすると、ミカドは嫣然と微笑んだ。
「じゃあ、ベッドに行こうか」
『祝福』の儀式は謎が多く、王宮で行うこと以外情報がない。
だからベッドで行うと言われればそれに従うしかなかった。
無意識に胸元をぎゅっと掴む。
「ベッドでやるんですか?」
「ソファでもできるけど…ソファがいい?」
「えっと、ミカド様にお任せします」
心なしかミカドが嬉しそうに見える。
でも俺は嬉しい時のミカドを見たことがないから、本当に嬉しい顔なのかは分からないけど。
言われるがまま、ベッドに誘われる。
俺の部屋の倍はあるキングサイズのそれに、手を引かれるまま体をのせた。
そのまま寝転がるように指示されたので枕をたぐり寄せる。
「誘ったの僕だけど…ミコト、さすがに不安になるよ」
「え?」
「君は誘われたら誰とでもベッドに行くの?」
ミカドの問いの真意を探す。
たぶん物理的にベッドに行けるかという意味ではなく、誘われれば誰とでも寝るかという意味だろう。
俺がどんな気持ちでベッドに入ったのか知らないくせに…!と思ったら、悔しくて感情的になった。
「行くわけないだろ!俺は…!『祝福』がなんなのか知らないから…あんたの言うこと聞くしかないじゃん!!」
疲れと極度の緊張からか、気付けば頬を熱いものが伝っていた。
リノに想いを伝えあって…見つかって、罪に問われて、今は予定よりも早い儀式を迫られている。
なにより憧れていたミカドを前にして感情も心労も限界だった。
「ごめんね、泣かせたいわけではなかったんだ」
手の甲で涙を拭おうとすると、そっとその手を止められて代わりにミカドが涙を拭ってくれた。
そしてそのまま頬の輪郭を撫でられる。
「ミコトは本当にかわいいね。胸元をぎゅってするのはクセなのかな」
ーーーそうしながら、いつも僕のことを見ててくれたよね。
さすがにその言葉は予想していなくて、悪戯がばれてしまった子どものように狼狽えた。
いつの間にか体を跨ぐようにして距離を縮められていて、逃げ場を失う。
「な、んで知って…」
「知ってるよ。ずっと見てたから」
ずっと?ずっとって…いつからだろう。
俺がミカドを初めて見たのは入学の式典の時だから、ほんの数年前。
そして彼は、式典と一部の授業にしか参加していないから面識どころか話したこともない。
「………時間だね」
レトロな壁時計が、日付が変わったことを知らせる鐘を鳴らす。
まるで祝福のような響きに俺はなんとも言えない気持ちになった。
正面から見たミカドは、やはり美しかった。
夜に溶けてしまいそうな艶やかな漆黒の髪も、高貴さを讃えた紫の瞳も、シミひとつない真っ白な肌も想像以上の美しさだ。
胸元を握りしめていた指先を優しくほぐすと、指先をそのまま自身の口元に寄せた。
「怖い?」
指先に感じる熱が妙にリアルで、それ以外の現実感が徐々に薄れていく。
手の甲に軽くキスをされた背徳感に心臓の鼓動は加速する。
俺は言葉を発することができず、小さく頷いた。
「愛する君に、僕から『祝福』をーーー・・・」
視線が交わる。
鼓動は最高潮に達していて、このまま心臓が破裂してしまいそうだった。
「…?」
ミカドの顔が近づいてきたので、咄嗟に目をつむる。
唇にふにっと柔らかい感触がして、驚いて俺はミカドの体を反射的に突き放そうとした。
「やっ…!」
「拒まないで」
しかしミカドの体はビクともしない。
逆に更に距離を詰められてしまう。
大きな手のひらが後頭部に回されて逃げ場がない。
再度口付けられて、舌で唇を押されて、恐る恐る開けると熱い舌が口内にねじ込まれた。
「ふッ…、ん、んぅ…っ!」
頭がグズグズに溶けてしまいそうで、怖くて…俺はまた無意識に胸元を掴んだ。
ぼーっとする頭に反し呼吸はどんどん荒くなっていく。
まるで終わりの合図かのように舌をジュッと吸われた。
ーーー次の瞬間、舌よりも硬く、長く、蠢くものが無理やり口内に捩じ込まれる。
「っ……!?んむ、んぁっ……?!」
それが指だと理解した瞬間、口内に塩味のような鉄のような味が広がる。
舌に染み込ませるように、唾液とはまた違ったぬめり気を帯びた液体が口腔を侵食してくる。
ーーーこれって血…?
ミカドはいつケガをしたのだろうか。
さっきはなんともなかったのに…
溶けた頭で一生懸命考えていると、ミカドは俺の首筋に顔を埋める。
頬に触れる髪がくすぐったくて目を細めると、次の瞬間衝撃が走った。
「………え?」
皮膚をつき破る音と、今まで経験したことがない痛みと、何かを啜るような音。
そして血が一瞬で沸騰したような感覚に襲われると、今度は急速に体が冷えていくのを感じた。
「み、かど………っ?」
死んだことはないけれど、まるで死に向かっていくような感覚が怖くてミカドに手を伸ばす。
だってこの場で頼れるのは彼しかいないのだから。
「……………おやすみ、ミコト」
でも指先はミカドに届かず、俺は眠るように意識を手放した。
リノが罪に問われるのは嫌だったし、俺も家族に迷惑をかけるわけにはいかない。
その選択をすると、ミカドは嫣然と微笑んだ。
「じゃあ、ベッドに行こうか」
『祝福』の儀式は謎が多く、王宮で行うこと以外情報がない。
だからベッドで行うと言われればそれに従うしかなかった。
無意識に胸元をぎゅっと掴む。
「ベッドでやるんですか?」
「ソファでもできるけど…ソファがいい?」
「えっと、ミカド様にお任せします」
心なしかミカドが嬉しそうに見える。
でも俺は嬉しい時のミカドを見たことがないから、本当に嬉しい顔なのかは分からないけど。
言われるがまま、ベッドに誘われる。
俺の部屋の倍はあるキングサイズのそれに、手を引かれるまま体をのせた。
そのまま寝転がるように指示されたので枕をたぐり寄せる。
「誘ったの僕だけど…ミコト、さすがに不安になるよ」
「え?」
「君は誘われたら誰とでもベッドに行くの?」
ミカドの問いの真意を探す。
たぶん物理的にベッドに行けるかという意味ではなく、誘われれば誰とでも寝るかという意味だろう。
俺がどんな気持ちでベッドに入ったのか知らないくせに…!と思ったら、悔しくて感情的になった。
「行くわけないだろ!俺は…!『祝福』がなんなのか知らないから…あんたの言うこと聞くしかないじゃん!!」
疲れと極度の緊張からか、気付けば頬を熱いものが伝っていた。
リノに想いを伝えあって…見つかって、罪に問われて、今は予定よりも早い儀式を迫られている。
なにより憧れていたミカドを前にして感情も心労も限界だった。
「ごめんね、泣かせたいわけではなかったんだ」
手の甲で涙を拭おうとすると、そっとその手を止められて代わりにミカドが涙を拭ってくれた。
そしてそのまま頬の輪郭を撫でられる。
「ミコトは本当にかわいいね。胸元をぎゅってするのはクセなのかな」
ーーーそうしながら、いつも僕のことを見ててくれたよね。
さすがにその言葉は予想していなくて、悪戯がばれてしまった子どものように狼狽えた。
いつの間にか体を跨ぐようにして距離を縮められていて、逃げ場を失う。
「な、んで知って…」
「知ってるよ。ずっと見てたから」
ずっと?ずっとって…いつからだろう。
俺がミカドを初めて見たのは入学の式典の時だから、ほんの数年前。
そして彼は、式典と一部の授業にしか参加していないから面識どころか話したこともない。
「………時間だね」
レトロな壁時計が、日付が変わったことを知らせる鐘を鳴らす。
まるで祝福のような響きに俺はなんとも言えない気持ちになった。
正面から見たミカドは、やはり美しかった。
夜に溶けてしまいそうな艶やかな漆黒の髪も、高貴さを讃えた紫の瞳も、シミひとつない真っ白な肌も想像以上の美しさだ。
胸元を握りしめていた指先を優しくほぐすと、指先をそのまま自身の口元に寄せた。
「怖い?」
指先に感じる熱が妙にリアルで、それ以外の現実感が徐々に薄れていく。
手の甲に軽くキスをされた背徳感に心臓の鼓動は加速する。
俺は言葉を発することができず、小さく頷いた。
「愛する君に、僕から『祝福』をーーー・・・」
視線が交わる。
鼓動は最高潮に達していて、このまま心臓が破裂してしまいそうだった。
「…?」
ミカドの顔が近づいてきたので、咄嗟に目をつむる。
唇にふにっと柔らかい感触がして、驚いて俺はミカドの体を反射的に突き放そうとした。
「やっ…!」
「拒まないで」
しかしミカドの体はビクともしない。
逆に更に距離を詰められてしまう。
大きな手のひらが後頭部に回されて逃げ場がない。
再度口付けられて、舌で唇を押されて、恐る恐る開けると熱い舌が口内にねじ込まれた。
「ふッ…、ん、んぅ…っ!」
頭がグズグズに溶けてしまいそうで、怖くて…俺はまた無意識に胸元を掴んだ。
ぼーっとする頭に反し呼吸はどんどん荒くなっていく。
まるで終わりの合図かのように舌をジュッと吸われた。
ーーー次の瞬間、舌よりも硬く、長く、蠢くものが無理やり口内に捩じ込まれる。
「っ……!?んむ、んぁっ……?!」
それが指だと理解した瞬間、口内に塩味のような鉄のような味が広がる。
舌に染み込ませるように、唾液とはまた違ったぬめり気を帯びた液体が口腔を侵食してくる。
ーーーこれって血…?
ミカドはいつケガをしたのだろうか。
さっきはなんともなかったのに…
溶けた頭で一生懸命考えていると、ミカドは俺の首筋に顔を埋める。
頬に触れる髪がくすぐったくて目を細めると、次の瞬間衝撃が走った。
「………え?」
皮膚をつき破る音と、今まで経験したことがない痛みと、何かを啜るような音。
そして血が一瞬で沸騰したような感覚に襲われると、今度は急速に体が冷えていくのを感じた。
「み、かど………っ?」
死んだことはないけれど、まるで死に向かっていくような感覚が怖くてミカドに手を伸ばす。
だってこの場で頼れるのは彼しかいないのだから。
「……………おやすみ、ミコト」
でも指先はミカドに届かず、俺は眠るように意識を手放した。
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