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5話
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次に目が覚めた時、目に飛び込んできたのは知らない天井だった。
そうだ、俺…晩餐会の後にリノと会って、ミカドに見つかって、罪に問うって言われてーーー
ハッとして体を起こす。
「おはよう。ミコト」
まるで起きるのを待っていたかのようにミカドが俺の顔を覗きこんでいた。
「お、おはようございます…?」
思わず挨拶が疑問系になってしまったのは、この挨拶が正しいか分からなかったからだ。
ミカドは俺をひと撫ですると体調はどうか聞いてきた。
昨日とは違ってすごく優しい声だ。
「大丈夫です。すみません、俺、最後まで起きてられなくて…」
「気にしないで。結構気を失う人が多いらしいから」
多いんだ…と思いながら、『祝福』の儀式の概要を思い出す。
厳しい箝口令が敷かれていると思っていたけれど、本当はみんな覚えていないだけかもしれない。
何故なら俺も、ミカドの部屋に入ってからの記憶が曖昧だから。
「あ…!」
ーーーそうだ、リノ!
「これで俺たち、罪に問われませんよね?」
「そうだね」
「よ、よかった~!」
俺は手を合わせて安堵する。
反してミカドは少し眉を顰めた…ような気がした。
「食事を用意したんだ。一緒に食べよう?」
しかしそれは一瞬だったので、もしかしたら見間違えかもしれない。
優しく腕を取られるまま、膝立ちでベッドの上を移動する。
「ミコトの好きなチョコチップが入ったスコーンもあるよ」
「食べます!」
色々考えなきゃいけないことはあるけど、チョコチップ入りスコーンを逃すわけにはいかなった。
だってあれは実家に帰省した時にしか食べられないのだから。
「これ、ミカド様が作ったんですか?」
目の前には朝ごはんとは思えない量の食事が並んでいた。
しかも一つ一つ手が込んでいて、まるでレストランのフルコースのようだ。
「ううん。食堂のシェフが作ってくれたんだよ。料理は全然したことがないんだ」
苦笑しながらミカドが椅子を引いてくれる。
彼は王子様だから今まで料理をする必要がなかったのだろう。
ミカドが引いてくれた椅子に当たり前のように着席して、気づく。
俺より彼の方が身分が上なことに。
「あ、あの。俺、椅子引きますよ」
「ん?大丈夫だよ。僕がやりたくてやったことだから」
軽く手で制されて、少し浮かせたお尻を再度座面に落ち着ける。
ミカドが手を合わせたので俺もそれに倣う。
口をつけたオレンジジュースはみずみずしくて、体に染み渡った。
少し慣れてはきたけど、やはり憧れの人を前にして少し緊張していたらしい。
「僕のことはミカドと呼んでほしい。敬語もいらない」
俺の緊張が和らぐタイミングを見計らっていたのだろう。
チョコチップ入りのスコーンを堪能しているとミカドが切り出した。
「え、でも…」
「壁を感じてイヤなんだ。身分に関係なく、親しい者には気軽に接するようにお願いしている」
王子様を呼び捨てにするのはさすがに抵抗がある。
しかも俺はほぼ平民みたいなもんだし、何より周りの不興を買わないだろうか。
ミカドは平民・貴族問わず人気があり、親しくなりたい者が多い。
上級貴族の不興を買ったら俺の家なんてすぐに潰されてしまうだろう。
「だめ?」
うっ…と、うめきそうになるのを我慢した俺を褒めて欲しい。
ずっと憧れていた相手にお願いされたら断れる訳がない。
「わかりま………、……わかった。ミカドって呼ぶね」
「ありがとう!ミコト」
嬉しそうにはにかんだ顔は式典で見ていた時よりもずっと幼く見えた。
俺が彼にその笑顔を与えたのかと思うとなんとも言えない気持ちになる。
「そうだ。ミコトに国王からプレゼントが届いているよ」
「俺に?」
俺よりも早く食事を終えたミカドは、そう言い残して部屋の奥に消えていった。
すぐに戻ってくると、その手には細長い高級そうなガラスケースが握られている。
「バラ?」
中には一輪の薔薇が入っていた。
きゅっと蕾はかたく閉ざされているが、茎にトゲがあるのでおそらくあっているだろう。
「うん。薔薇だけど、ただの薔薇じゃないんだ」
ミカドがソファの方のテーブルに薔薇を置いたので、俺もつられて移動する。
ガラスに入った薔薇はどこからどう見ても普通の薔薇で俺は首を傾げる。
色は多分、白だと思うが特に珍しい色じゃない。
「これは王族と貴族の子どもが16歳の誕生日に贈られる『祝福』なんだ」
「『祝福』って……昨日した儀式じゃないの?」
「儀式とプレゼントがセットなんだよ。そしてこれが、そのプレゼント」
見たことはなかった?と聞かれ、俺は首を縦に振る。
やっぱり、誕生日に花を贈るなんて珍しいことじゃない。
「この薔薇は王に結婚を認めてもらうのに必要な証明書」
ーーーーそして、僕らを学園に縛る鎖だよ
そうだ、俺…晩餐会の後にリノと会って、ミカドに見つかって、罪に問うって言われてーーー
ハッとして体を起こす。
「おはよう。ミコト」
まるで起きるのを待っていたかのようにミカドが俺の顔を覗きこんでいた。
「お、おはようございます…?」
思わず挨拶が疑問系になってしまったのは、この挨拶が正しいか分からなかったからだ。
ミカドは俺をひと撫ですると体調はどうか聞いてきた。
昨日とは違ってすごく優しい声だ。
「大丈夫です。すみません、俺、最後まで起きてられなくて…」
「気にしないで。結構気を失う人が多いらしいから」
多いんだ…と思いながら、『祝福』の儀式の概要を思い出す。
厳しい箝口令が敷かれていると思っていたけれど、本当はみんな覚えていないだけかもしれない。
何故なら俺も、ミカドの部屋に入ってからの記憶が曖昧だから。
「あ…!」
ーーーそうだ、リノ!
「これで俺たち、罪に問われませんよね?」
「そうだね」
「よ、よかった~!」
俺は手を合わせて安堵する。
反してミカドは少し眉を顰めた…ような気がした。
「食事を用意したんだ。一緒に食べよう?」
しかしそれは一瞬だったので、もしかしたら見間違えかもしれない。
優しく腕を取られるまま、膝立ちでベッドの上を移動する。
「ミコトの好きなチョコチップが入ったスコーンもあるよ」
「食べます!」
色々考えなきゃいけないことはあるけど、チョコチップ入りスコーンを逃すわけにはいかなった。
だってあれは実家に帰省した時にしか食べられないのだから。
「これ、ミカド様が作ったんですか?」
目の前には朝ごはんとは思えない量の食事が並んでいた。
しかも一つ一つ手が込んでいて、まるでレストランのフルコースのようだ。
「ううん。食堂のシェフが作ってくれたんだよ。料理は全然したことがないんだ」
苦笑しながらミカドが椅子を引いてくれる。
彼は王子様だから今まで料理をする必要がなかったのだろう。
ミカドが引いてくれた椅子に当たり前のように着席して、気づく。
俺より彼の方が身分が上なことに。
「あ、あの。俺、椅子引きますよ」
「ん?大丈夫だよ。僕がやりたくてやったことだから」
軽く手で制されて、少し浮かせたお尻を再度座面に落ち着ける。
ミカドが手を合わせたので俺もそれに倣う。
口をつけたオレンジジュースはみずみずしくて、体に染み渡った。
少し慣れてはきたけど、やはり憧れの人を前にして少し緊張していたらしい。
「僕のことはミカドと呼んでほしい。敬語もいらない」
俺の緊張が和らぐタイミングを見計らっていたのだろう。
チョコチップ入りのスコーンを堪能しているとミカドが切り出した。
「え、でも…」
「壁を感じてイヤなんだ。身分に関係なく、親しい者には気軽に接するようにお願いしている」
王子様を呼び捨てにするのはさすがに抵抗がある。
しかも俺はほぼ平民みたいなもんだし、何より周りの不興を買わないだろうか。
ミカドは平民・貴族問わず人気があり、親しくなりたい者が多い。
上級貴族の不興を買ったら俺の家なんてすぐに潰されてしまうだろう。
「だめ?」
うっ…と、うめきそうになるのを我慢した俺を褒めて欲しい。
ずっと憧れていた相手にお願いされたら断れる訳がない。
「わかりま………、……わかった。ミカドって呼ぶね」
「ありがとう!ミコト」
嬉しそうにはにかんだ顔は式典で見ていた時よりもずっと幼く見えた。
俺が彼にその笑顔を与えたのかと思うとなんとも言えない気持ちになる。
「そうだ。ミコトに国王からプレゼントが届いているよ」
「俺に?」
俺よりも早く食事を終えたミカドは、そう言い残して部屋の奥に消えていった。
すぐに戻ってくると、その手には細長い高級そうなガラスケースが握られている。
「バラ?」
中には一輪の薔薇が入っていた。
きゅっと蕾はかたく閉ざされているが、茎にトゲがあるのでおそらくあっているだろう。
「うん。薔薇だけど、ただの薔薇じゃないんだ」
ミカドがソファの方のテーブルに薔薇を置いたので、俺もつられて移動する。
ガラスに入った薔薇はどこからどう見ても普通の薔薇で俺は首を傾げる。
色は多分、白だと思うが特に珍しい色じゃない。
「これは王族と貴族の子どもが16歳の誕生日に贈られる『祝福』なんだ」
「『祝福』って……昨日した儀式じゃないの?」
「儀式とプレゼントがセットなんだよ。そしてこれが、そのプレゼント」
見たことはなかった?と聞かれ、俺は首を縦に振る。
やっぱり、誕生日に花を贈るなんて珍しいことじゃない。
「この薔薇は王に結婚を認めてもらうのに必要な証明書」
ーーーーそして、僕らを学園に縛る鎖だよ
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