花びらは散らない

美絢

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6話

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「結婚?なんで結婚が出てくるの?」





 誕生日と結婚と学園。

 俺は頭がよくないから因果関係が分からなかった。
 ちゃんと説明するね、と言ってミカドは向かいのソファに座る。


「この学園の卒業条件は知ってる?」

「必要な単位を取ることでしょ?」


 さすがに俺でも知ってるよ、と付け足すとミカドは小さく微笑んだ。





「平民の子たちはそうだね。でも、王族と貴族はもう一つ条件があるんだよ」





「条件?」





 ミカドは頷く。
 俺は少し緊張して隣にあったクッションを手繰り寄せる。

 胸にそれを抱きながら言葉の続きを待った。





「それはーーー結婚相手を見つけること」





 結婚相手を見つけること。


 ・・・





 ーーーけ、けっこんあいてをみつけること!?





「えええ!?なんでそうなるの!?」


 俺が顔を赤くするとミカドは声を出して笑った。
 結婚という言葉に反応したのがおもしろかったのだろう。

 なんだか恥ずかしくて、俺はクッションに顔を埋めた。



「王族や貴族が年々減っているのは知ってるよね?」



 正直に言うと、王族や貴族が減っていることは知らなかった。

 でも、これ以上話すとバカなことがバレてしまいそうだったので、俺はクッションに顔を埋めたまま頷いた。



「理由は繁殖力が低いから。貴族は平民のように簡単には子どもを成せないんだ」



 そんな話も、初めて聞いた。

 俺には貴族の友達も知り合いもいない。
 周りも平民ばかりだった。

 親も貴族関係の話題はまず出さない。



「それを憂いた王は貴族の血統を守るため、自らの特権である寿命を与えることにした」



 非現実的な話に、静かに顔を上げる。





「貴族の子どもが16歳の誕生日にーーー自らの血を下賜することによって」





 王の血を賜る行為が儀式化し、いつの間にか『祝福』と言う名が付けられたという。


 そして、『祝福』を受けた者は寿命が平民の十倍近くなり、老化も遅れ、子どもを成すために永く生きながらえさせるーーー







 ミカドが嘘を言っているようには思えなかった。

 だって、すごく真剣な表情をしていたから。

 でも、信じられなかった。


 あまりにも非現実的な話だから。

 この話が本当なら、俺は千年近い寿命を得たことになる。





「ーーーミコトはお姉さんがいるよね。会ったことはある?」



「ううん。姉さんたちは平民の家に嫁いだから、会っちゃだめって言われてて……」



 急に話題が家族の話に逸れたが、俺は寿命の話がショックで口元を手で覆う。

 俺には姉が2人いる、…らしい。

 なぜらしいかと言うと、実際に会ったことがないからだ。

 平民の家に嫁いで幸せにしているから、俺は会いに行かないほうが良いと言われていた。


 ーーー本当はすごく会ってみたいけど。



「基本的に貴族と平民が婚姻関係を結んだ場合、男女問わず貴族の家に嫁ぐように法律で定められている。でも、ミコトのお姉さんたちは嫁いでしまったよね」



 …何が言いたいんだろうか。



 話が読めず、俺は眉を顰める。


 俺の父は、戦で凄い戦果を挙げたらしく、褒美として王から『祝福』を賜ったらしい。

 その時すでに母と結婚していたから、母も一緒に『祝福』を受けたと聞いた。

 そして姉たちは平民に嫁いで行って、俺は貴族として『祝福』を



 受け、ーーーーて・・・





「…もしかして、姉さんたちは父さんたちが『祝福』を受ける前に生まれた子……?」





「そう。そして君の父上が『祝福』を受けたのは四百年前だと聞いている」





「う…っうそだ!!」





 俺は思わず立ち上がり、ミカドに感情をぶつける。


「本当だよ。直接聞いてもいい」

「じゃあ俺は子どもを残すために寿命をのばされたの?」



「……そういうことになるね」

「学園に入れられたのは結婚相手を探すためっ?」



「…………そうだね」



「なんだよ、それ………ッ!!」



 残酷な現実を大量に押し付けられて、俺の気持ちは限界だった。

 怒りでどうにかなりそうだ。

 そして、ある可能性が頭をよぎる。





「…………もしかして俺は、その結婚相手を見つけるまで学園から出られないの?」





 ミカドは静かに頷く。
 深い絶望が俺を襲った。

 『祝福』がこんな儀式だと知っていたら俺はあの日リノと逃げたかった。

 寿命を延ばしたいなんて願ったことはないし、今まで両親が自分を欺いていたのかと思ったら悲しくて仕方がない。

 ミカドは淡々と事実と現実を語っていただけだけど、今は憎らしくて仕方なかった。





 この想いを床に叩きつけてごなごなにしたくて、衝動的に目の前のガラスケースを手に取る。










「ミコト。それを僕に渡して」










 目の前にいたはずのミカドが、気づいたら背後に立っていた。

 後ろから抱きしめられてしまったせいか、怒りが少し落ち着いてきたからか。

 ケースは床に叩きつけられることなくミカドの手に渡った。



「…じゃあ、その薔薇はなんなんだよ…っ」



 声が震える。

 これ以上望まないものを強制的に与えられるのは苦痛だ。

 俺を慰めるようにミカドは抱きしめる力を強める。
 こんな時でさえ彼の匂いにときめく俺は頭がおかしいのだろうか。





「この薔薇は咲かせてもらうんだ。自分のことを愛してくれる人によって」










 ーーーその薔薇は自分を愛してくれる人が茎を握ると咲くんだって



 花を咲かせたのが平民だった場合は、その花を王に捧げることで相手に『祝福』を賜るんだって



 愛する人と永い時を過ごせるように、子が成せるように、ーーーー










「…きもちわるい」





 こんな花、早く枯れて散ってしまえばいいのに。
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