花びらは散らない

美絢

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7話

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 ミカドの話を聞いた後、俺はしばらく引きこもった。





 寿命のこととか、家族のこととか、ミカドのこととか…整理するには時間が必要だったからだ。

 文字どおり枕を涙で濡らす俺をミカドはずっと慰めてくれた。


 一気に話しすぎてごめんね、とか、僕がそばにいるから怖くないよ、とか。


 頭をヨシヨシしてくれたり、眠るときは抱きしめてくれたりした。





 ーーー次第に気持ちが落ち着いてきて、気づく。





 ミカドは事実を述べただけで、別に俺を不快にさせたかったわけではない。

 むしろ俺に逆ギレされた被害者なのではないか、と。



「チョコチップ入りのスコーンをもらってきたよ。今日は食べられそう?」



 夜が明けてはせっせとスコーンを持ってくる。

 最近知ったことだけど、ミカドはとても頭が良いのに少しズレている。

 確かに俺はチョコチップの入ったスコーンが大好きだけど、別に毎日食べたいわけではない。



「…………たべる」



 作ってくれた人にも悪いし…と返事をすると、ミカドが嬉しそうに目を見開いた。



「今紅茶を入れるね!」


 喜色をその美しい顔に乗せ、鼻唄を歌いながら茶器を取りに行ってしまった。

 俺はその様子を子どもみたい…なんて思いながら眺めていた。




















「手を出してくれる?」


 ミカドが淹れてくれた紅茶を味わっていると手を差し出された。
 カップを置いて俺も同じように指先を差し出す。



「この寮?校舎?の鍵を渡しておくね」



 ーーーなぜ、疑問系なのだろうか。



 俺が不思議に思っていると、片方の手でプラチナ色の細いチェーンを取り出した。


「俺、失くしそうだからいらない」


 話してる側から、いそいそとそれを俺の手首に巻きつけ始めた。
 アクセントに俺の瞳と同じエメラルド色の石が付いている。
 長さをアジャスターで調整すると満足そうに頷いた。





「今までの寮は顔認証で入れたと思うけど、ここの寮?学校?はそのブレスレットがないと入れないんだよ」





 え、なんでシステム衰退したの!?どう考えても顔認証の方が便利だよね!?





「顔認証だとシステムが誤認する可能性があるでしょ?世の中には同じ顔が3人いると言うし」





 本当にそんな理由なの…?

 俺は不思議に思ったが、嘆いても学校のシステムは変わらないのでとりあえず受け入れることにした。


「スコーンを食べたら寮と校内を案内するね!」

「あ、ありがとう。お手柔らかにね…?」


 ミカドはブレスレットをつけた手を握り、ブンブンと振ってくる。

 そんなに嬉しいことなのだろうか?


 ーーーもしかしてミカド、友達居たことないのかな…


 少し不安になって、俺は苦笑いをしながら手を握り返した。




















 ざっくり説明すると、この学校は4階建てだ。

 1階には食堂や保健室があって、2階に教室、3階には生徒たちの寮がある。

 そしてなんと、4階はまるごとミカドの部屋だった。



「いや、おかしくない?」

「おかしいかな?普通だと思うけど」



 いや、絶対普通じゃないよね!?


 ………と思ったが、ミカドは王族だ。


 彼の基準はおそらく王宮だからスケールが違うのだろう。

 ミカドがいない時にこっそり部屋を抜け出してみたが、どおりで外に出られないわけである。

 ベッドやお風呂場に何個か遭遇した時点で気づくべきだったのかもしれない。



 結局1日では案内しきれず、何日かかけて校内と寮を案内してもらった最終日。





 ーーーーー俺はその門と運命の出会いを果たすのである。










「み…ミカド!俺っあそこに行きたい!!」





「え?」





 校内案内2日目。

 俺は間取りを頭に叩き込んでいたが為にミカドに置いていかれ、パニックになるという事件を起こした。

 そこからは強制的に手を繋いで案内されている。

 たまに別の寮生に会って紹介してもらったり、ミカドの思い出話を聞いたりしながら。



「急がなくても、裏庭は最後に案内する予定だよ?」

「今がいい!ね、お願い?」



 目的地を指差しながら繋いだ手を少し強めに引っ張る。
 小柄な俺より20センチは背が高いミカドは、急に引っ張られたことに驚いて足を止めた。



「………いいよ。靴を持ってくるから、少し待ってて」



「うん!」



 絡めていた指先をそっと解くとミカドは下駄箱の方へと行ってしまった。
 俺はミカドを待つ1秒が惜しくてその場で足踏みをする。





 ーーー視線は目指す先から外さず。





「持ってきたよ」

「ありがとうっミカド!」



 ミカドから靴を受け取ると、踵が入りきる前に俺は駆け出していた。

 久しぶりに踏み締める芝生の感覚に以前の日常を感じる。
 桜はすっかり散ってしまっていて季節は夏に近づいていた。





「あれって…共生棟だよね!?」





 握りしめた鉄の格子は太陽の光を浴びたせいか少し熱くなっていた。

 でもそんなことが気にならない程、門越しに見える校舎に意識を奪われている。





「リノ………っ」





 俺はあの日別れた友人に想いを馳せる。

 16歳の誕生日になると貴族は専用の教育を受けるためにコースを外れるが、平民はそのままコースを進み学びの場を共生棟と言われる校舎に移す。

 授業のカリキュラムも職業に則したものから学問を深めるものなど様々だ。

 リノは既に進学テストをパスし、俺の誕生日の翌日に進学する予定だったから既にあそこにいるのだろう。



「ミカド!俺、共生棟のほうも見たいんだけど…」



「………ミコトはここの卒業条件を満たしてないから、行けないよ」



 遅れて門に着いたミカドが静かに言う。
 少し寂しそうに笑いながら俺の手に自分の手を重ねた。



「う~~~やっぱりかぁ…」



 ミカドの言葉に俺はうなだれた。
 予想はしていたが残念なものは残念だ。

 ミカドは俺の頭を撫でながら、重ねた手を門から剥がそうとする。


「ここの卒業条件ってなに?やっぱり薔薇咲かすやつ?」

「あれは学園の卒業条件。ここの卒業条件は純粋な学力試験だよ」


「絶対合格できないやつじゃん…」


 ミカドの一言はさらに俺を絶望に突き落とす。
 大きくため息をついた。



「…ミコト、そろそろ戻ろう」



「う~~やだぁ、戻りたくない……」



 ただでさえ勉強が苦手なのに、さらに勉強をしなければいけないのか。

 リノには会えないし、勉強は待ってるし、憂鬱で足取りが重い。

 俺は視線を門の先に戻していた。


 だから、ミカドがどんな表情をしているかなんて知らなかった。





「戻るよ。ミコト」





 少し強めの口調で言われてハッとする。


 ミカドはいつも見せる優しい表情ではなく、初めて話した時のような冷たい表情をしていた。

 怒らせてしまったかと思い慌てて門から手を離すと乱暴にその手首を掴んできた。










「ミ、ミカドっ?ごめんね。俺、何かしちゃった……?」





 その後もミカドに一生懸命話しかけたけど、門が見えなくなるまで返事をしてくれなかった。
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