花びらは散らない

美絢

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9話

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 俺は今、黒い薔薇と睨めっこをしている。










ーーーーーー食堂で。





「それって、もしかしてミカドの薔薇?」


 背後から聞こえた特徴的でハスキーな声に振り向いた。



「レン?」



 この寮は学校という扱いだが決まった制服はない。

 俺は服に対し特にこだわりはないので、ミカドがコーディネートしてくれたものをそのまま着ている。

 しかし寮外の授業ーー共生棟に行く時は、黒を基調とした専用の制服を着用しなければならない。


 それを着用しているという事はレンはこれから共生棟で授業なのだろう。


「へ~オレ黒って初めて見たわ」

「そうなの?」

「そそ。大体瞳の色になることが多いんだよなぁ」


 レンはルカの次にできた友達だ。

 間延びした話し方をするし全然貴族っぽくないけど、外では意外とちゃんとしているらしい。

 ミカドとも仲が良いらしいが話しているところはあまり見たことがない。


 ここの寮生は予想の何百倍も優しかった。
 爵位で差別することはしないし、ミカドと一緒にいても全くやっかみを受けない。
 新入生の俺を暖かく受け入れてくれたし、話しかければ優しく応えてくれる。


 あまり会う機会はないけど。



「じゃあ、レンの薔薇はヘーゼル色なの?」

「たぶん?ずっと物置に入れっぱなしで二百年くらい見てないからさ~忘れた」

「物置って…大切なものなんだから目の届くところに置いといた方がいいよ?」



「心配してくれんの?やさしー。ならさ、ミコトが持っててよ」



 レンは気さくな感じだから話しやすいが、なにぶんスキンシップが激しい。

 椅子越しに後ろから抱きついてくると額にキスを落とされる。


「やーめーてー!」


 いやいやと頭を振っていると、目の前でガシャン!と大きな音がした。





「レン。あと10分で共生棟の授業が始まるよ。早く行ったほうが良いと思うけど」





「わ~まじ?じゃあ俺行くわ~」





 どうやらその音はミカドがカップをソーサーに置く音だったらしい。

 いつもは上品に紅茶を飲むのに音を立てるなんて珍しい。

 じゃあね、と最後にもう一度額に短くキスをしてレンは行ってしまった。




















「今日はダンスの練習をしよう」


 ミカドにこれに着替えてと言われ、俺は受け取った服を見つめる。


「………えっと、俺、ダンス全然踊れないんだけど」

「知ってるよ。大丈夫、僕が一から教えるから」



「ありがとう…で、でもさ。いきなり衣装を着るのはハードル高すぎない……?」



 しかもこれ、白の…タキシード?だよね?
 どうみても練習着には見えず、ミカドに助けを求める。


「衣装を着た方が身が引き締まるかなと思って」

「引き締まるかもだけど…汗かきそうだからやだなぁ」


「まぁ、本当はミコトが着ているところを早く見たいだけなんだけど」


 ミカドは恥じる様子もなくあっさり本音を暴露した。
 心なしかワクワクしているように見える。

 俺は発言の意味が分からず首を傾げるが、ミカドは一度決めると譲らないところがあるので俺はそれに従うことにした。


「…わかった。じゃあ着るだけでもいい?さすがにこれで練習はムリだよ」

「ミコトがそう言うなら…ダンスは今度にして、今日は衣装の確認をしよう」


 そもそもこれ何の衣装なの?と思ったが、ミカドが急かすように更衣室へ押し込むので俺はその言葉を飲み込んだ。





 てか、なんで教室に更衣室があんの?





「すごくかっこいいね!」

「絶対思ってないよね!?」


 衣装は俺のために誂えたんじゃないかと思えるほどサイズがぴったりだった。
 しかも手触りは最高級で、部分によって緻密な刺繍が施されている。

 物凄く豪華で素敵な衣装だけれど、俺には分かる。



 ーーーーーーー絶対馬子にも衣装だ。



「本当に思ってるよ。かっこいいのに可愛くて、ミコトは最強だね」


 ミカドは少し引いて全身を眺めた後、うんうんと楽しそうに一人で頷いている。


「かっこいいの使い方まちがってる!かっこいいって言うのは……!」

「かっこいいって言うのは?」



「えーっと……ミカドとか、レンみたい人に使うんじゃない?」



 ミカドの名前を挙げるのはちょっと恥ずかしくて、若干口ごもる。

 この衣装を着たミカドを想像してしまったからだ。
 俺が知る限りで絶対に一番かっこいいし、綺麗に決まってる。


 自分の妄想と格闘していた俺は、ミカドの瞳が鋭くなったことに気が付かなかった。





「レン?どうしてそこにレンが出てくるの?」





 ミカドが一気に距離を詰めて来て、俺は思わず一歩後退する。
 先ほどまで機嫌が良かったのにどうして急に不機嫌になったのか分からなかった。


「レンってかっこいいんじゃないの?俺の学年でも人気あったし」

「ミコトはレンがかっこいいって思うの?」





 ーーーーーーー問われ、考える。





「ん ~ ・ ・ ・ まぁ、かっこいいじゃない?」





 この場合のかっこいいは、あくまで世間一般的な美醜の基準であり、俺個人の基準ではない。

 だって俺が世界で1番かっこいいと思うのはミカドだから。

 それに比べればレンも、申し訳ないけれどリノだって負けてしまう。





「………そう。」





 ミカドの声がいきなり低くなったので、俺はギョッとする。



「でっでも、俺はミカドのほうがかっこいいと思うな!」



 どうにか取り繕いたくて、俺は手を合わせながらミカドを褒める。

 最近気がついたが、ミカドは俺の上目遣いに弱い。

 この状態でかっこいいところをいっぱい伝えれば、誤解を解けると思ったのだ。


 でも、ミカドは無表情だった。





「……………ミコト」





「は、はい……っ」


 後頭部を掴まれた驚きで体が跳ねる。

 このまま頭を割られてしまうのではないかと言う恐怖が一瞬頭をよぎり、思わず目を瞑った。



・・・





・ ・ ・ ?







「…………僕以外の人をあまり褒めたりしないで」







 あと、ここにキスもさせないで、と軽く額をノックされる。
 鼻先にあるミカドは頬を赤く染めていて、俺の顔もつられるように熱を持つ。










 …これってもしかして、ヤキモチって言うんじゃない?
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