花びらは散らない

美絢

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10話

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「な、なんかこの部屋暑くない!?俺のど渇いちゃったから、食堂で飲み物もらってくるよ!」





 このなんとも言えないこの状況を脱したくて、俺はいつもより明るい声をだす。
 これ以上ミカドの顔を間近で見ると更に照れてしまうから、目は伏せて。



「……そうだね。でも食堂には行かなくて大丈夫だよ」



 ミカドは後頭部に回した手を名残惜しげに離しながら言う。
 その顔はいつもの涼しさを取り戻していた。

 ちょっと待ってて、と言うと更衣室の奥に消えていく。
 しばらくすると手に何か持って帰ってきた。


「それなぁに?」


 ミカドが視線でついてくるように促すので、後に続く。
 部屋の片隅にあるソファに座ったのを確認して俺も隣に腰を下ろした。



「これはうちのーーー王家専属のシェフが作ったオリジナルジュースだよ」



 手渡された紙パックの飲み物には王家の紋章が刻まれている。
 サイズは手のひら位で、側面にストローが付いていた。



「へぇ。こんなのあるんだ」



 パッケージを確かめているとミカドがひょいっとジュースを取り上げた。
 綺麗な指先がストローを取り出すと容赦なく中身に突き刺す。


 外から液体の色を知ることできない。
 ストローからは香りの情報も得られない。

 つまり、一思いに飲むしかない。



「はい。これなら服も汚れないでしょ?」



 ミカドが唇にストローを押し付けてくる。
 そのまま飲めという事だろうか。



「でも俺、結構好き嫌い激しいからなぁ…飲めなかったらごめんね?」



 前置きをした上で、恐る恐るストローに口付ける。
 ミカドの視線が口元に集中しているのが分かって少し気恥ずかしい。





 ーーー!?





「なにこれ!?すっっごい美味しい…っ!!!」





 口の中に広がった今まで味わったことのない甘みに、思わずストローを口から離しミカドを見る。


「気に入ってくれて嬉しいよ」

「こんな美味しいジュース初めて飲んだよ~!これ売ってないの?」

「残念ながら市場には出回っていないんだ。でも、僕に言ってくれればいくらでも準備するよ」


「え~すごく美味しいのになんか勿体ないなぁ」


 こんなに美味しいジュースを王家で独り占めしているなんて、なんかずるく感じる。

 でも、もしかしたら材料が貴重とか理由があるのだろう。



 ………リノにも飲ませてあげたいなぁ。



 ミカドの手からジュースを抜き取って、ソファに上半身沈める。


「これ何味?オレンジ?」

「味は秘密なんだって。ミコトはオレンジの味がするの?」



「んー甘いのに爽やかっていうか、ちょっと甘酸っぱいっていうか…そんな感じ」





「………へぇ」





 そんなことを話しながらジュースを飲んでいると、ミカドがグラスに水を注いでいる。


「あ、ごめん!ミカドの分忘れて全部飲んじゃった…!」

「構わないよ。ミコトのために持ってきたんだし」


 気にしないで、と言いながらミカドはグラスに口付ける。
 水を飲む姿もかっこよくて俺は見惚れてしまう。



「着替えようか」



 まるでお姫様にするみたいに、指先を差し出される。

 俺はその美しい指先にそっと自分の指先を重ねた。




















 いつものように俺は例の門に足を運ぶ。


 俺の身長の何倍も高い門は絶対に登ることはできない。

 トンカチで壊そうと思ったこともあるけど頑丈すぎて傷ひとつ付けることはできなかった。


 気づいたら季節は秋。
 冬には雪が積もるので、門で長時間粘るのは難しくなるだろう。





 一瞬でいい…





 ーーーずっと元気でね。





 ただそれだけを伝えたかった。

 あの日のまたねを果たして、リノを安心させたい。
 何より俺のことは忘れて生きていってほしかった。

 俺は見た目が老いなくなっていく。
 最初の十数年間は大丈夫だろうけど、次第に怪しまれるだろう。
 寿命だってリノよりずっと長くて、確実に俺より早く別れの時が来てしまう。

 その短く儚い人生を、俺に囚われてほしくなかった。

 俺への想いを断ち切って、別に大切な人を見つけてほしい。


 そのために今日もここに来た。





 ーーーが、少し様子がおかしい。





「え…っ!?」





 門が、開いている……?










「う、うそ…っ!?」










 本当に、門が開いている。


 この門は通行可能なブレスレットを所持している者が門前に立った時、その重く閉ざされた扉を開ける。

 そのいつもは閉ざされた扉が、開いているのだ。

 恐る恐る門の外に腕を出す。
 痺れはない。





「ほっ…本当に出られるのっ?」





 いつもは応えてくれる声がない。

 なぜならミカドは門まで一緒についてきてくれないからだ。

 いつものクセで教室の窓を見る。
 そこにミカドの姿はない。



 俺は揺れていた。



 リノには会いたい。

 でもそれはミカドを裏切るみたいで、罪悪感がある。
 無意識に胸元を握る。


 リノには下手をしたら、彼の卒業までに会えないかもしれない。



 ーーーでも、ミカドには明日も次の日も会える。



 きっと事情を説明すれば分かってくれる。










「ミカド…ごめんねっ」





俺は窓に向かって小さく謝罪をし、門の外へ走り出した。
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