花びらは散らない

美絢

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14話

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「罰を与えようと思うんだ」





 ミカドが、言う。

 いつの間に呼んだのか、すぐそばに王家の紋章が入った馬車が現れた。

 運転手は恭しく頭を下げるがそれに全く構うことなく、ミカドは乱暴にドアを開けると俺を押し込んだ。

 緊張しすぎてのどが渇く。
 無意識に喉元をさすっているとミカドがいつものパックジュースを差し出してくれた。

 俺は無言で受け取りストローを取り出す。



「罰?」



 ミカドは長すぎる足を組み替えて、外に向けていた視線を俺に向ける。



「少し前に門が開きっぱなしだったでしょう?システムのトラブルだったらしいんだけど、ずっと犯人が分からなかったんだよ」



「……犯人、分かったの?」



ミカドは小さく笑みを湛える。



「一般の生徒だったよ。国外に出るために学園全体のシステムに干渉したんだって」


「国外に、出るために…?」



 既視感のある言葉に俺は目を見開いた。
 脈拍が早くなるのを感じる。

 どうか予想が外れてほしい…と願う間もなく、その美しい唇は言葉を紡いだ。





「うん。彼だったよ」





 ミカドの言葉が一瞬理解できなくて俺はフリーズする。
 指先が、冷たくなっていく。



「君を連れ出すために寮に侵入したんだよ。それをロキが捕まえたんだ」



 咄嗟に両手で口元を覆う。

 俺が探していたように、リノも俺を探していてくれたんだ…!

 こんな状況なのに一抹の喜びを覚える。
 でもすぐに、それは消えた。


「リノは…捕まってるの?」


「見張りをつけて寮に待機させているから、別に牢屋に入れられてるわけじゃないけどね」


 寮に待機、という言葉を聞いて少しだけホッとする。


 国外逃亡企図、システムへの干渉ーーー王家のお膝元である学園でこれだけ問題を起こせば、即座に投獄されてもおかしくない。


 それだけ王家の信頼を揺るがすと言うのは罪が重いのだ。
 リノは優秀な学生だからそこまで重い罪に問われず済んだのかもしれない。


 あとね、とミカドが続ける。


「あの門はロキが管理してるんだよ」

「え、ロキが?」

「うん。ロキがきちんと管理していれば、そもそもミコトは共生棟へ行かなかったよね?」



「……何が言いたいの」



 先ほど城下街で笑い合っていた時とは違う性質の笑みに、俺は眉を顰める。


「僕は学園の安全を揺るがした彼と、仕事を怠ったロキに罰を与えないといけないんだ」

「罰って…リノ、謹慎してるんでしょ?ロキだってわざと門を開けたわけじゃない!」



「今回の件が謹慎だけで済むと思ってるの?大切な寮生を危険に晒す管理者って、あそこに必要?」



「必要だよ!俺がなんともないんだから、だから…、だから………」



 誰も罰しなくていいじゃん!と、言おうとして、気づく。

 彼らに本当に、罪はあるのだろうか?

 リノは俺のために寮に侵入した。
 システムに干渉したのは確かにリノだけど、その根底的な理由は俺のためだ。


 そして俺がミカドの言いつけを守り門の外に行かなければ、あんなことにはならなかった。


 ロキが罪に問われることもーーー





「おれの、せい………?」





 ドクン、と心臓が一際大きく脈打った。

 先ほどまでの勢いは緩やかに減速していく。
 指先の震えを隠すように強く胸元を掴んだ。



「ミコトのせいじゃないよ。君は被害者でしょ?」



 向かい合うように座っていたミカドがすぐ隣に移動してくる。

 大丈夫だよ、と言うようにそっと肩を抱き寄せた。


「彼のこともロキのことも、ちゃんと処罰するから安心してね。怖いと思うからしばらくは王宮で過ごそう」


 ミカドの言葉に、俺は窓の外に目を向けた。
 景色に見覚えがないのは来た道とは別の道を走っているからだろう。

 夏のように明るい街はもうそこにはなくて、雪が降った後のように静かな街を馬車が走る音だけが響いていた。

 どうすれば、2人を救える?





 どうしたらーーー










「ミカド。俺、悪いことしたよ」


 俺は静かに目を閉じて、覚悟を決めた。

 ミカドに向き直るとそっと首元に両腕を回す。
 彼の耳元に唇を寄せた。



「………ミカドに内緒でリノに会おうとした。出かけるって聞いた時、ポストがあると思って内緒で手紙も書いた」



 送れなかったけど…その言葉はグッと飲み込んだ。
 ミカドは反応を示さないので、聞いているかは分からない。

 俺は言い終えると、首に回した腕をそっと離して、ミカドの肩に手を置いた。

 アメジストのように美しい瞳を覗き込む。



「だから、どうしてほしいの?」



 ミカドの大きな手のひらが、背中から腰へと滑ってくる。

 それに俺は小さく喉を鳴らす。
 情欲に塗れた瞳が、俺を捉えて離さない。



「罰するなら俺にして。俺以外に…罰を与えないで」



 ミカドの人差し指が俺の顎先を捉える。
 唇を親指で遊ばれる。

 俺は羞恥で頭がおかしくなりそうだった。





「……ほんとうに、ミコトは悪い子だね」





その日、俺はミカドと2度目のキスをした。




















「王宮は嫌だって言ったのに…」

「ここは僕専用の通路だから誰かに会う心配はないよ。父上と母上にはまた今度会おう」


 馬車は豪華絢爛な正門ではなく、人目を憚るように造られた裏門から城内に入った。

 僕専用という謎の通路をしばらく歩いているとドアが現れる。

 ミカドがドアに触れて独特の動きをすると、ガコン!という音がした。
 中に入るよう促される。


「ここって…」


「僕の部屋だよ。裏通路と繋がってるんだ」

「本当にそういうのあるんだ…」


 入り口の方を振り返ると本棚がズレているのがわかる。

 ミカドは本棚に向かってまた謎の動きをすると、再度音を立てて本棚は元の位置に戻っていった。

 それをぼんやり眺めていると、ミカドに手を引かれる。
 目指している場所があるようでいつもより歩くのが速い。


 少し乱暴に開けたドアの先は寝室で、天蓋付きのベッドの前へと連れてこられた。



「ベッドの上、乗って?」



ミカドが腹部に手を回しながら、耳元で囁く。
吐息混じりの声に俺は小さく息を呑んだ。


「……ここでするの?」


「ミコトはここだと、イヤ?」

「イヤというか…」


 寮のベッドよりも更に大きいベッドを眺めなら言い淀む。
 見るからに滑らかなシーツに、ヨーロピアン風の掛け布団。

 ここで寝るのは緊張するだろうけど、ひとたびシーツに身を埋めれば極上の気分が味わえるだろう。

 しかしミカドが安息を得られるこの場所を、俺で汚すのは躊躇われた。


「血とか、たくさん出そうだから…ベッド汚れちゃうよ?」

「血はそこまで出ないと思うけど…まあ、確かに汚れるだろうね」


 俺はミカドの手に自分の手を重ねながら背後を振り返って、見上げる。

 彼の言葉に緊張で体が震え始める。
 少しだけ涙も出てきた。


「お風呂場とかの方がいいんじゃないかな…」

「お風呂場?ミコトはお風呂でシたいの?」


 ミカドが目を見開きながら固まっている。
 俺はその理由が分からなくて、小さく首を傾げた。



「ミコト、今から僕たちが何をするか分かってる?」










「………鞭打ち、だよね?」





「むちうち…」





 俺が答えると、ミカドはそのまま繰り返した。
 少し呆然とした様子で。





「はぁぁぁ………鞭打ちか……」





 何度も繰り返すので、俺は身を縮こませる。

 罰から逃げたくなってしまいそうだから泣かないようにしていたのに、雫が一滴頬を伝ってしまった。

 俺の言葉にミカドは大きく溜め息をつく。

 小さな声で「そうだよね…ミコトから仕掛けるなんておかしいと思ったんだ…」と呟いている。

 俺は不思議に思って、少し緩まったミカドの腕の中で体を反転させる。



「だって罪人は鞭打ちされるって…っ聞いたから…!」



「そうだね。されるね」





「俺、頑張るから……だからミカド、俺のこと叩いて…?」





 出来れば優しくてしてくれると嬉しいんだけど…と、さりげなく付け足したら。

 少し呆れた顔をしていたミカドが真顔になった。



「みっみかど…っ?」



 ミカドは俺の腰あたりに腕を滑らすと、そのまま抱き上げた。

 このままお風呂場に連れて行かれるのかと思ったが、下ろされたのはベッドの上だった。


 予想通り、ベッドはふかふかだ。










「ミコト、僕ね。君が可愛すぎて頭がおかしくなっちゃったみたい」





だから、えっちなこと、させて?
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