花びらは散らない

美絢

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18話

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 無事に想いが通じ合った後、貧血で動けなくなった俺をミカドは甲斐甲斐しく世話してくれた。

 以前のように倒れることも傾眠することもなくなった。



「で?俺に話すこと、あるんじゃない?」



 ようやく体調が全開したので、俺はミカドに問いかける。



「話すこと?」



 不思議そうに首を傾げる。
 その仕草さえ可愛いと思ってしまう俺は相当熱に浮かされているのかもしれない。


「あるよね!?俺、ずっとミカドの血しか飲めないんだけど!?」


「あぁ。そのことか」


 ベッドの上であぐらをかいている俺の横にミカドが腰を下ろす。

 白いシャツに黒のパンツというシンプルな装いがミカドの美貌を引き立てていた。



「王族は生涯に一人だけ、自分と同じ体質を相手に授けることができる。その方法は相手のうなじを噛んで自分の血を大量摂取させて、体に変化を起こさせること」



「変化?」

「その人の血しか味がしなくなる」



「はぁ!?」



 聞き捨てならない言葉に目を見開く。



「じゃあ俺は、二度とチョコチップ入りのスコーンが食べられないってこと!?」

「食べられるよ?味はしないけど」


「同じだよ!!わ~~こんなことならもっと食べておけばよかった…!」


 俺は頭を抱えた。
 あの大好きな味を二度と味わえないなんて…!


「安心して。僕ももうミコトの血以外味がしないから」

「何を安心するの!?とんでもなく味覚音痴なカップルが成立しただけじゃん!!」


 謎に照れているミカドの太ももを叩く。
 それをニコニコしながら見守っているのだから、彼も相当熱に浮かされているようだ。


「ん?うなじを噛む…?俺変だった時以外噛まれた記憶ないんだけど…」


「『祝福』をあげた日に我慢できなくて噛んじゃった」



「噛んじゃったって…一人だけしか噛めないのになにしてんの!?俺がミカドを好きにならなかったら大変なことになってたんだよ!?」



 俺は不安になってミカドの肩を激しく揺さぶった。
 三千年も生きてるのにどうしてそこでリスクを冒すのだろうか。





「ミコトが好きになってくれなくてもいいかなって…でも死ねない体にしたらもしかしたら、ね?」





 ね?じゃないよ!!
 寂しさ辛さにつけ込んで自分のものにする気満々じゃん!!
 健気な表情してるけど狂気が滲み出てるからね!?

 …と、俺が内心でツッコミを入れていると。

 ここからが本題なんだけど…と、ミカドが切り出した。



「ミコトは僕と同じ不老不死になった。自分の血を誰かに与えることで相手の寿命を延ばすことができる」

「それって…俺に『祝福』が使えるってこと?」


ミカドは小さく頷いた。


「ないと思うけど、誰かに血を与えるときは注意してほしい。その人の寿命を延ばしてしまうから」

「ルカとかレンでもダメなの?」

「あげた時点から更に寿命が延びるんだ。2人が望むなら好きにしていい」


 俺は手のひらを見つける。

 最初にミカドから血を与えられて寿命が延びた時はひどく取り乱してしまったけど、今は少し落ち着いている。

 ケガをした時に血を舐めようとしてくる人もまず居ないだろう。

 ミカド以外は。





 ・ ・ ・ 。










 ーーーもし…リノに血をあげたら、彼の寿命は延びるのだろうか…





「他に聞きたいことはある?」

「んー今はないかな。また気になったら聞くね」


「もちろん。いつでも聞いて。じゃあ次は僕の話を聞いてくれる?」


 首を傾げると、見つめていた手のひらにそっとミカドの手のひらが重なった。

 そしてぎゅっと握られる。





「彼がこの春に学園を卒業する」





 彼というのはリノのことだろう。

 ミカドはリノの名前を絶対に口にしない。
 俺が話題に出すのも、名前を呼ぶことさえ嫌がる。

 そんなミカドが自らリノの話題を口にしたので軽く目を見開いた。



「そっか…もうそんな時期なんだ」



 ミカドと同じ体を手に入れるために費やした時間は、思ったよりも長かったらしい。

 あまり時間の感覚がなかったから、時間の感じ方が変わってきたのだろう。



「……ミコトはまだ共生棟に行くことができないから、彼に会うことはできないけど」



「俺頭悪いし、どうせ頑張っても無理だったと思うから仕方ないよ」



 頑張って笑ったつもりだけど声は騙せなかった。

 リノが卒業すれば恐らく二度と会えないだろう。
 別れ際にまたね、と言ってしまったのでその約束だけはどうしても果たしたかった。

 無事を伝えて、別れを告げて…もし自分に未練があるようだったらここで断ち切って巣立ってほしい。

 握られていた手が解かれて、俺は手の行き場を失う。



「僕はあの男が嫌いだ。例え心の隅でも…ひとかけらでも、ミコトの心に根ざしているのが気に入らない」


「ミカド…」


 今までは態度で示していたから言葉にされるのは初めてだった。

 瞳の奥には嫉妬の色が見えるけれど口調は堂々としている。


「だから、ここで断ち切ってほしい」


 真っ直ぐな瞳に射抜かれて、小さく息を呑む。
 俺は動揺していたがそれを顔に出さないように努めた。





「一週間後、卒業の祝賀会がある。確実に彼に会えるかは分からないけれど、一緒に参加してほしい。僕のパートナーとして」





ミカドは自身の心臓付近に指先を充てる。



「パートナーって…」



「僕は毎年、王族の代表として始まりのダンスを披露する。今まではルカに相手を頼んでいたけど、今年からはミコトに頼みたい」



 リノがこの会に参加するかは分からない。
 卒業生も多いので見つけられないかもしれない。

 もし参加していれば、始まりのダンスを踊る俺に気がつく可能性が高い。

 でもそんな下心をミカドに悟られたくない。



「分かった。俺をパートナーに選んでくれてありがとう」

「僕こそ。パートナーを引き受けてくれてありがとう」





 お互い笑顔を浮かべながら、その下にドロドロとしたモノを隠しているのが分かった。
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