254 / 422
第4章
ノルデン領の名産品
しおりを挟む準備が整い、僕達は使用人の案内の元ノルデン邸から出た広い草原地に来ている。
ホルス様がふわっと浮いてピカっと光った次の瞬間に大きな黒いドラゴンの姿へと変わった。
『では、何かあれば我の名を呼ぶといい。』
ホルス様はそう言うとビュンっと力強く羽ばたき瞬く間に空の彼方へと飛んで行った。
漆黒の大きなドラゴンは何度見ても恰好良く、惚れ惚れする。
ホルス様を見送ってノルデン邸へ戻った所でオスカル君の準備が整ったようなので、そのまま出発することにした。
半日では見て回れないので今日は食に関する場所へ案内をしてくれるとのこと。
よかった。
何かぶつぶつと言っている場所が訓練員体験みたいになりそうって心配だったのだけど、想像していたよりずっとましな観光になりそう。
「先程黒く輝くドラゴンが飛び立つのが見えました。」
馬車に揺られながらテトラ君が少し興奮気味に言う。
「ホルス様はドラゴンの姿も人の姿もどちらも最高に恰好良い。」
「はい。とっても格好良くて見惚れていました。」
二人でホルス様の恰好良さについてわかるわかると話していると最初の目的地にたどり着いたみたいで、ノヴァにエスコートされて降りた先には白い建物があり、出入り口の辺りで緊張した面持ちの人数名が立っていた。
「本日は急な依頼を快く引き受けてくれてありがとうございます。」
先に下りていたオスカル君がその人達にそう言うと代表者らしき人が一歩前に出て、深く頭を下げた。
お店の人達に促されてお店の中に入ると色とりどりのお花が天井から吊るされていて、沢山の種類の花があるのに匂いが全然喧嘩してなくて、用意された席は白い艶やかな生地に紫と紅と碧色の花が刺繍されたクロスが机に掛けられていた。
僕達の瞳の色の刺繍がされたクロス何て偶々あるわけもないので、大至急で用意してくれたものだろう。
「とても素敵なクロスですね。」
この素晴らしいおもてなしについて触れないわけにはいかないと、傍で緊張しながらも給仕についてくれているお店の方に声をかけると「ひぇ!」と奇声を発しながらも「身に余るお言葉でございます!」と勢いよく頭を下げながら答えてくれた。
緊張しているのは分かるのだけど、ちょっと貴族相手には危ない反応をする人でこっちがドキドキする。
幸いにも顔を顰めるのは僕達の使用人や護衛の一部だけで、酷く咎めるような人はいなかったけれど場の微妙な雰囲気を感じ取った責任者だろう人が慌てた様子でやって来て僕達に礼を取った後、彼を引きずって見えない所に引っ込んでいった。
苦笑いをする僕達の元へ、先ほどの彼を引きずって行った責任者ぽい人が料理を持って再び現れた。
「ノルデン領名産のフワーラの前菜でございます。」
机の上に並べられた綺麗な食に思わず「きれぇ」という声が口からこぼれた。
フワーラは綿毛のような植物で、甘味のあるお花だ。
ノルデン領は花の名産地で、綺麗なお花が数多く育てられていて、その中の半分ほどは食べられるお花なのだ。
友好国からもよく観光で足を運ぶ地で、美しいと評判。
なので、良く治安を乱す輩が現れるのだけどノルデン家はオスカル君のように好戦的な人が多いお家で、治安を乱す輩が居ると嬉々として駆け付けて縛り上げるのでも有名だ。
お皿の上にある白いフワーラには青や紫色のソースがかけられていて、一種の作品のよう。
壊すのがもったいないが、心を決めて一口。
「おいしぃ。」
「ふふ、よかった。このお店は見た目はもちろん、味にもしっかりと拘っているので何時かルナイス様には食べてもらいたいと思っていたのです。」
あまりの美味しさについにんまりとしてしまった僕にオスカル君が満足そうに笑う。
「ノヴァ様はいかがですか?」
「…正直今までに食べたことのない食感で戸惑いの方が大きいです。」
「ふふ、ですよね。フワーラはあまり領地外には出さないようにしているのでこの食感は此処でしか味わえないですから。」
ノヴァの正直な感想にも嬉しそうに笑うオスカル君。
価値を高めるために領地外に出さない名産品は多くある。
領地の外で食べようと思ったらそれなりのお金を用意しないといけない。
王族は偶に献上品としてその名産品が入ってくるようだけど。
その後も食べられるお花を使った料理が3品ほど出て、全て美味しく頂いた。
649
あなたにおすすめの小説
最強賢者のスローライフ 〜転生先は獣人だらけの辺境村でした〜
なの
BL
社畜として働き詰め、過労死した結城智也。次に目覚めたのは、獣人だらけの辺境村だった。
藁葺き屋根、素朴な食事、狼獣人のイケメンに介抱されて、気づけば賢者としてのチート能力まで付与済み!?
「静かに暮らしたいだけなんですけど!?」
……そんな願いも虚しく、井戸掘り、畑改良、魔法インフラ整備に巻き込まれていく。
スローライフ(のはず)なのに、なぜか労働が止まらない。
それでも、優しい獣人たちとの日々に、心が少しずつほどけていく……。
チート×獣耳×ほの甘BL。
転生先、意外と住み心地いいかもしれない。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
神子の余分
朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。
おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。
途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。
【完結】悪役令息⁈異世界転生?したらいきなり婚約破棄されました。あれこれあったけど、こんな俺が元騎士団団長に執着&溺愛されるお話
さつき
BL
気づいたら誰かが俺に?怒っていた。
よくわからないからボーっとしていたら、何だかさらに怒鳴っていた。
「……。」
わけわからないので、とりあえず頭を下げその場を立ち去ったんだけど……。
前世、うっすら覚えてるけど名前もうろ覚え。
性別は、たぶん男で30代の看護師?だったはず。
こんな自分が、元第三騎士団団長に愛されるお話。
身長差、年齢差CP。
*ネーミングセンスはありません。
ネーミングセンスがないなりに、友人から名前の使用許可を頂いたり、某キングスゴニョゴニョのチャット友達が考案して頂いたかっこいい名前や、作者がお腹空いた時に飲んだり食べた物したものからキャラ名にしてます。
異世界に行ったら何がしたい?との作者の質問に答えて頂いた皆様のアイデアを元に、深夜テンションでかき上げた物語です。
ゆるゆる設定です。生温かい目か、甘々の目?で見ていただけるとうれしいです。
色々見逃して下さいm(_ _)m
(2025/04/18)
短編から長期に切り替えました。
皆様 本当にありがとうございます❤️深謝❤️
2025/5/10 第一弾完結
不定期更新
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
断罪回避のはずが、第2王子に捕まりました
ちとせ
BL
美形王子×容姿端麗悪役令息
——これ、転生したやつだ。
5歳の誕生日、ノエル・ルーズヴェルトは前世の記憶を取り戻した。
姉が夢中になっていたBLゲームの悪役令息に転生したノエルは、最終的に死罪かそれ同等の悲惨な結末を迎える運命だった。
そんなの、絶対に回避したい。
主人公や攻略対象に近づかず、目立たずに生きていこう。
そう思っていたのに…
なぜか勝手に広まる悪評に、むしろ断罪ルートに近づいている気がする。
しかも、関わるまいと決めていた第2王子・レオンには最初は嫌われていたはずなのに、途中からなぜかグイグイ迫られてる。
「お前を口説いている」
「俺が嫉妬しないとでも思った?」
なんで、すべてにおいて完璧な王子が僕にそんなことを言ってるの…?
断罪回避のはずが、いつの間にか王子に捕まり、最後には溺愛されるお話です。
※しばらく性描写はないですが、する時にはガッツリです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる