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第5章
レッドドラゴン達からの苦情
しおりを挟む声が届くかなーってくらいの距離まで詰めて『こんにちはー』と取り合えず念話を送ってみると不思議そうな顔をしたレッドドラゴンが動きを止めこちらを見た。
よかった。
まだ完全に理性を飛ばしていたわけじゃないみたい。
『今喋りかけてきたのは…お前か?』
『はい。ルナイス・ウォードと言います。遅くなりましたがホルス様と共に我が国の騎士達にご助力くださりありがとうございました』
『ホルス…ノワール殿のことか?』
『あ、ノワール・ホルス・グレゴリア様のことです』
『お前がノワール殿の愛子か!よいところに来た!あの者共は我等のことを一つも理解しておらん!!お前から言ってやってくれ!!』
一番に暴れていたレッドドラゴンは僕がホルス様と仲の良い人間でドラゴンと会話ができることを知ると、興奮気味にそう言って鼻息をフス―として、僕へ騎士達に伝えるよう訴えてきた。
他のレッドドラゴン達も同調するようにフス―っと鼻息を鳴らすことから、よっぽど腹に据えかねていることがあるようだ。
「えー…レッドドラゴン達からの言葉を伝えますので、皆様ご整列ください」
こほんっとわざとらしい咳ばらいをして、直立不動なまま首だけをこちらへ向けていた騎士達へそう告げると彼等はババっと俊敏に動き僕の前に綺麗に整列した。
ちょっと遅れてヒュー様が僕の隣に並ぶ。
皆が整列し聞く体制が整ったことを確認し、チラリと背後のレッドドラゴン達に頷く。
『まず飯がまずい』
「まず飯がまずい」
『それから体を磨いてくれるのはいいが、力が弱くてくすぐったい』
「それから体を磨いてくれるのはいいが、力が弱くてくすぐったい」
『騎乗の仕方が最悪』
「騎乗の仕方が最悪」
『我等にもそれなりに羞恥心がある。生殖器についてあけすけに言葉にするな』
「…我等にもそれなりに羞恥心がある。生殖器についてあけすけに言葉にするな」
『なによりここは寒すぎる』
「なによりここは寒すぎる」
『寝床の作り方が雑すぎる』
「寝床の作り方が雑すぎる」
『つまり、劣悪環境もいいところ。居心地悪すぎ』
「つまり、劣悪環境もいいところ。居心地悪すぎ」
『以上』
「以上」
頭に響く声をそのまま口にだして伝えた僕を騎士達が何とも言えない顔で見て来ている者、視線を逸らして気まずそうにしている者、項垂れている者と騎士達は様々な反応をしており、そんな彼等に言いたいことが全て正しく伝わったことにレッドドラゴン達はご満悦な様子。
チラリと隣に居るヒュー様に視線を向ければ、僕とは反対方向に顔を向けていて表情こそ見えないものの震える肩が笑いを堪えきれていないことが分かる。
「っ!ル、ルナイス!」
「…貴方達、レッドドラゴン達に本当に感謝してるんです?」
イラっとした僕は自分が出せる最大限の低い声を出して、騎士達を睨みつける。
隣で肩を震わせているヒュー様は僕がヒュー様の足元に展開した小さな闇沼に慌てて笑っていたことを謝ってくるけれど、しばらく藻掻いていればいいのだ。
「「「しています!!」」」
「感謝してるのに…こんなにレッドドラゴン達から苦情が出るようなことをなさっているのですね」
彼等がドラゴン達と言葉を介して意思疎通を図ることはできないが、レッドドラゴンが寒さに弱いことは誰でも知っていることだ。
只の平民が知らないというのならまだ分かるが、時にはドラゴンを討伐することもある騎士達が弱点を知らないわけがないのだ。
それなのにレッドドラゴン達が居る此処は外に作られている上に小屋も薄っぺらくて、空間温度調整は所々設置されている焚火だけ。
此処に訪れた時に「え?此処にレッドドラゴンいるの?」って思ったもん。
これは言葉を介した意思疎通何て出来なくても分かることのはずだ。
感謝する気持ちが本当にあるのならこんなことにはならないと思うんだけど。
じとっとした視線で何も言わずに騎士達を睨みつける僕。
そんな僕から徐々に視線を逸らしていく騎士達…
「ちょ…あぁ!もう!やっと落ち着いたところでまだ国から王国騎士団へ予算が下りてねーんだよ!!」
「は?」
闇沼の中で藻掻きながらヒュー様が放った言葉に自然とひっくい声が出た僕に、騎士達がビクリと肩を震わせているが…こんなので震えていてよく騎士が務まっているものだ。
「殺気をしまえ!そして俺を沼から出せ!」
「…はぁ、分かりました。早急に王家に苦情を入れに行きます」
今回の件でレッドドラゴン達にアーナンダ国民が救われたことは周知の事実であり、それを分かっていて未だにレッドドラゴン達の生活環境を整えるための予算が下りていないなどありえないことだ。
とーさまもにぃ様も忙しくしていたし、色々重なったから国の重要機関がくそ忙しいことは分かっているが、今はもう大分落ち着いているはず。
それを未だに予算すら通っていないだなんて…
「君、城まで乗せて!ヒュー様何してるんです!あんたも行くんだよ!」
カーっと血が上った僕は一番近くにいたレッドドラゴンに背に乗せてもらえるよう頼んで、未だ沼で藻掻いているヒュー様の首根っこを掴んで風魔法で持ち上げて一緒にレッドドラゴンの背に飛び乗る。
「愚かな人間共に罰を与えてやる!」
『ははははは!!!さすがノワール殿の愛子よ!!』
「「「「副隊長おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」
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