最後の女

蒲公英

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 いきなりだが、蛍である。某有名テレビドラマのヒロインではなく、尻のあたりが発光する虫のほうだ。街生まれで街育ちの茜は、はじめて飼育小屋ではない場所で、それを見た。そんなに遠くではなくて、車で二時間ほど移動しただけで、日本人の生活環境はがらりと変わる。美しいものを続けざまに見せられて、茜は大きく目を瞠った。
「……すごい。秀さん、こんな綺麗なところ知ってるなんて」
 秀一にしてみれば、子供の頃より開けて、蛍もずいぶん減ったな、程度の感慨しかない。
「さっきのカラスウリの花も、びっくりした。レースみたいなんだね。実は『銀河鉄道の夜』に出てきたよね」
「読んだこと、ねえな」
 秀一は文学にも、無造詣だ。

 午後に到着した秀一の実家で、迎え盆のために提灯を持っていくことすら、茜は珍しがった。提灯の灯りで先祖を導くのだと説明しても、よくわからない顔だ。電車や車でなくては墓参りのできない地域に住んでいるのだから、多分理解はできないだろう。
「秀の母ちゃんってより、聡の彼女だって言ったほうがオサマリが良さそうな」
 近所に住む年上の従兄弟が、夕食の席で笑った。
「秀兄ちゃん(何せ独身だったから、オジサンと呼ぶとぶっ飛ばすと言い聞かせてある)だって、こんな可愛い奥さん貰えるんだから、俺だって都会に出れば……」
「馬鹿。秀はこの歳になって、やっと母ちゃん貰ったんだぞ」
 いや、結婚してたことはあるから。それに貰うの貰わないのって、茜は犬の子じゃない。聡は都会の女の子がそこに座っているのが嬉しくて、せっせと茜に話しかけている。秀一が里帰りしたって、お年玉を貰う以外は寄り付きもしないガキが。
「俺、これから友達と花火するんだけど、茜ちゃんも来る?」
 何が悲しくて夫の里帰りにつきあって、知らない男の中で花火をしなくてはならないのだ。秀一が黙ってビールを飲んでいても、普段からのいかつい容貌で、不機嫌か上機嫌かは誰もわからない。
「隆、茜ちゃんは長距離を車で来て、疲れてるから」
 秀一の妹が助け舟を出し、中学生の甥が「俺も行く」と立ち上がった。

 歩いて二分の妹夫婦が引き上げ、片付け物を終えてしまうと家の中は静かになった。
「この辺じゃ、若い人が楽しいところなんてないからねぇ。茜ちゃん、マクワウリ食べる?」
「なんですか、それ? 知らないから、食べる」
 テレビのある居間で、秀一の父はお茶を啜り、秀一はまだビールのプルタブを引いている。普段は発泡酒なので、この時とばかり飲んでいるのかも知れない。外ではカエルが大合唱だ。
「そう言えば、裏の田んぼの蛍がずいぶん少なくなっちゃって」
 母の言葉に、茜は瞳を輝かせた。
「蛍って、この辺で見られるんですか!」
 ほろ酔いの秀一の腕が引かれたのは、直後である。

 真っ暗な畦道を、懐中電灯と月明かりを頼りに歩く。さえぎる物のない空は、茜の知っている空よりも星が多くて、明るい。
「ちょっと怖いね」
「――消すぞ。ちょっと気配殺しとけ」
 息を詰めるように待つこと、数十秒。稲の上で点灯する、青白い光。数はちらちらと増えていき、そちらこちらに小さくて美しいイルミネーションが灯った。カエルの大合唱を背景に、しんとした美しさだ。
 秀一の腕に掴まった茜は、背伸びして秀一に「ありがとう」と囁いた。
「こんなに綺麗なもの、秀さんと一緒じゃなくちゃ見ることはなかったかも」
 こんなものに感動するほど、茜の心はまだやわらかいのだ。

 帰宅すると、元は秀一の勉強部屋だったという場所に、布団が敷かれていた。糊の効いたシーツは、両親の心尽くしだ。
「こんなもの買っておいたんだけど。寝巻きにしてちょうだい」
 差し出されたホームワンピースは、淡いピンク色だ。若い娘が着るものだと、ここにも心遣いがあった。それはとても有難いのだが、淡いピンクの木綿は、電灯の下でも透けるのである。
 風呂上りに着たそれは、下着の形がはっきりわかるくらい、透けていた。寝巻きにと渡されたのだから、他の人に見せるわけじゃない。ただ、秀一と茜が同じ場所に眠るだけだ。
 ブラをして眠る習慣のない茜が、部屋でもぞもぞとブラを外すと、後ろから秀一の手が伸びた。
「お袋のサービスかな、それ」
「そんなわけ、ないでしょ……ちょっとっ」
 服越しに先端を摘まれると、木綿のざらりとした感触が間接的な刺激になる。
「やんっ……お義母さんたちが起きちゃったら……」
「夜中に何回遊びに行ったと思ってんだ。雨戸開けても気がつきゃしねえ」
 後ろから茜を抱え込みながら、秀一は耳に息を吹き込む。
「んっ……」
 茜の力が抜けると、秀一はワンピースの裾を捲った。
「なんか、この部屋でこんなことすると、高校生が同級生連れ込んだみたいな気分になるな」
「んあっ……やっ……」
 胸を掴む秀一の手の力が、普段よりも強い。ワンピースは胸の上まで捲り上げられ、剥き出しの身体が電灯の下で揺れる。
「秀兄ちゃんの可愛い奥さんは、秀兄ちゃんが可愛がってんだ」
 従兄弟の息子に聞かせたい言葉は、こんなところで声になった。

 下着の中で、秀一の指が動く。後ろから抱えられたまま、逃げることもできない。揉みしだかれる胸の先端が、尖る。
「んっ……んーっ…やっ……」
「親の部屋は、一番奥だ。聞こえないから」
 秀一の親指が、茜の唇を解く。普段は抑えている茜を、もう少し自由にしてやりたい。指を埋め込み小刻みに揺すると、耐え切れない声が上がった。
 立ち上がらせて、まだ残してあった勉強机に上体を伏せさせた。
「こんなん、知ってるか?」
 ゆっくりと貫きながら、胸を弄ぶ。膝が崩れそうになった茜の腰を持ち上げ、体勢を立て直す。
「あ……やっ……ああんっ」
 深く抉って突き上げてから、繋がりの上を指で探ると、茜の手はひっかかりのない勉強机の上でもがく。
「やっ……やだ……こんな、しゅうさんでいっぱ……あああっ…」
 探り当てた核を指の腹で扱くと、茜の足は硬直した。
 力の抜けた茜を布団の上に横たえ、秀一は茜の足を担ぐ。普段と違う場所、学生時代に過ごした部屋が、やけに興奮を煽る。目の下の茜の表情は苦痛なのか愉悦なのか、眉間に皺が深い。胸を掴んで、自分の腰を揺すりたてる。
「しゅう、さんっ……ああっ……また来るっ……ああああぁぁっ……」
「いっちゃえ……俺もいくっ……くっ……」
 爆ぜた脱力感が、体力を奪う。汗でしとどに濡れた体で、糊の効いたシーツに倒れこむ。

「よかったか?」
「訊いちゃ、やだ……」
 タオルとウェットティッシュでお互いを拭きながら、秀一は部屋の中を見回す。黄色いビキニのグラビアにドキドキして、エロ本は押入れの天袋の中に隠した頃、まさか自分がこんな歳に若い女と生活するようになるとは、想像もしていなかった。
「茜」
「ん?」
「いや、何でもない」
 俺と結婚して後悔しないで欲しいとは、言えない。
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