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第84話『浮かぶ顔』怖さ:☆☆☆☆☆
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廃病院の地下室で、水に沈んだ病室の窓から笑う顔だけが浮かび続けていた。
心霊スポット巡りで訪れた古い精神病院で、俺は地下への階段を見つけた。
階段の下は完全に水没していた。地下水の浸入で、地下一階全体が水に沈んでいる。水は黒く濁っていて、底は見えなかった。
しかし、その水面に異様なものが浮かんでいた。
人間の顔だった。
女性の顔で、水面に浮かんで微笑んでいる。しかし体はなく、顔だけが水に浮いている。
俺は恐る恐る懐中電灯で照らした。顔は確実にそこにあった。生きているような表情で、こちらを見て笑っている。
俺は慌てて地上に戻ろうとした。しかし、階段の途中で振り返ると、顔がこちらを見上げていた。
そして、その顔がゆっくりと水中に沈んでいく。
俺は急いで病院から出た。
翌日、俺は友人の田中と一緒に病院を再訪した。昨日見たものが現実だったのか確認したかった。
地下の水面を見ると、やはり顔が浮いていた。今度は男性の顔だった。
「おい、あれ見ろよ」田中が指差した。
田中にも見えていた。俺の幻覚ではなかった。
「なんだあれ、マネキンか?」
田中が水に石を投げた。顔に石が当たると、顔が一瞬沈んで、また浮き上がってきた。
しかし今度は、怒ったような表情に変わっていた。
「やばい、逃げよう」
俺たちは病院から逃げ出した。
しかし、その夜から奇妙なことが起き始めた。
俺の家の風呂で、湯船に同じ顔が浮かんだ。
俺が風呂に入ろうとすると、湯面に男性の顔があった。病院で見たのと同じ顔だった。
俺は慌てて湯を抜いた。しかし、翌日の風呂にも、また違う顔が浮いていた。
今度は女性の顔だった。やはり笑っている。
俺は田中に電話した。
「おい、お前の家でも変なことない?」
「実は……」田中の声は震えていた。「洗面器に顔が浮くんだ。水を入れるたびに」
俺たちは再び病院に向かった。今度は、その顔たちの正体を調べるつもりだった。
病院の資料室で、古いカルテを探した。
この病院は三十年前に閉鎖された精神病院だった。閉鎖前に、地下の水治療室で事故があったという記録があった。
「水治療の最中に患者三名が溺死」
カルテには、患者たちの写真が貼られていた。
俺は息を呑んだ。その写真の顔は、俺たちが水面で見た顔と同じだった。
「水治療って何だ?」田中が聞いた。
俺は資料を読み上げた。
「精神病患者に対する治療法の一つ。冷水に漬けることで精神を安定させるとされていたが、実際は虐待に近い行為だった」
「それで死んだのか」
「そうだ。そして、その患者たちの霊が、今も地下の水に囚われている」
俺たちが話していると、背後から声がした。
「見つけてくれたのね」
振り返ると、地下から上がってきたような濡れた女性が立っていた。病院で見た顔の一人だった。
「私たち、ずっと待ってたの」
女性は微笑んでいたが、その笑顔は狂気じみていた。
「三十年間、あの水の中で。誰かが私たちを見つけてくれるのを」
他の患者たちも現れた。みんな濡れた病院着を着て、水を滴らせながら歩いている。
「でも、見つけただけじゃダメ」
男性患者の一人が言った。
「私たちと同じ体験をしてもらわないと」
患者たちが俺たちに近づいてきた。
「水治療の苦しさを、分かち合いましょう」
俺たちは逃げようとしたが、患者たちは俺たちを取り囲んだ。
「大丈夫。すぐに慣れるから」
気がつくと、俺は地下の水に首まで浸かっていた。
田中も隣で同じように水に浸かっている。手足が動かない。まるで水中に縛りつけられているようだった。
「これが水治療よ」
女性患者が水面に顔を出して言った。
「冷たい水に長時間浸かって、精神を『治療』するの」
水は氷のように冷たかった。体温がどんどん奪われていく。
「でも、治療は終わらない。ずっと続くの」
男性患者も水面に顔を出した。
「私たちも三十年間、ずっと治療を受けてるの」
俺は理解した。患者たちは三十年間、この水の中で苦しみ続けていた。
「でも今度は、あなたたちと一緒。寂しくない」
水面に複数の顔が浮かんだ。患者たちの顔と、俺たちの顔も一緒に。
「みんなで仲良く、水治療を続けましょう」
俺の意識が朦朧としてきた。水の冷たさで、感覚が麻痺してくる。
「大丈夫。死なないから」
女性患者が俺の頭を撫でた。
「私たちも三十年間死ねなかった。水の中で生き続けてる」
俺は気づいた。これは治療ではなく、永続的な拷問だった。
患者たちは三十年間、この水の中で苦しみ続けている。そして俺たちも、同じ運命を辿る。
「覗いた者は、必ず中に入ってもらうの」
患者たちの顔が水面に並んだ。みんな笑っている。
「これで、みんな平等。みんな患者」
俺の体が完全に水に沈んだ。しかし、息はできる。溺れることもない。
ただ、永遠に冷たい水の中で浮かび続ける。
時々、地上から誰かが覗きに来る。
その時、俺たちは水面に顔を出して、笑顔で手を振る。
新しい患者を歓迎するために。
新しい仲間を水治療に誘うために。
覗いた者は、必ず中に入ってもらう。
それが、この病院のルールだから。
心霊スポット巡りで訪れた古い精神病院で、俺は地下への階段を見つけた。
階段の下は完全に水没していた。地下水の浸入で、地下一階全体が水に沈んでいる。水は黒く濁っていて、底は見えなかった。
しかし、その水面に異様なものが浮かんでいた。
人間の顔だった。
女性の顔で、水面に浮かんで微笑んでいる。しかし体はなく、顔だけが水に浮いている。
俺は恐る恐る懐中電灯で照らした。顔は確実にそこにあった。生きているような表情で、こちらを見て笑っている。
俺は慌てて地上に戻ろうとした。しかし、階段の途中で振り返ると、顔がこちらを見上げていた。
そして、その顔がゆっくりと水中に沈んでいく。
俺は急いで病院から出た。
翌日、俺は友人の田中と一緒に病院を再訪した。昨日見たものが現実だったのか確認したかった。
地下の水面を見ると、やはり顔が浮いていた。今度は男性の顔だった。
「おい、あれ見ろよ」田中が指差した。
田中にも見えていた。俺の幻覚ではなかった。
「なんだあれ、マネキンか?」
田中が水に石を投げた。顔に石が当たると、顔が一瞬沈んで、また浮き上がってきた。
しかし今度は、怒ったような表情に変わっていた。
「やばい、逃げよう」
俺たちは病院から逃げ出した。
しかし、その夜から奇妙なことが起き始めた。
俺の家の風呂で、湯船に同じ顔が浮かんだ。
俺が風呂に入ろうとすると、湯面に男性の顔があった。病院で見たのと同じ顔だった。
俺は慌てて湯を抜いた。しかし、翌日の風呂にも、また違う顔が浮いていた。
今度は女性の顔だった。やはり笑っている。
俺は田中に電話した。
「おい、お前の家でも変なことない?」
「実は……」田中の声は震えていた。「洗面器に顔が浮くんだ。水を入れるたびに」
俺たちは再び病院に向かった。今度は、その顔たちの正体を調べるつもりだった。
病院の資料室で、古いカルテを探した。
この病院は三十年前に閉鎖された精神病院だった。閉鎖前に、地下の水治療室で事故があったという記録があった。
「水治療の最中に患者三名が溺死」
カルテには、患者たちの写真が貼られていた。
俺は息を呑んだ。その写真の顔は、俺たちが水面で見た顔と同じだった。
「水治療って何だ?」田中が聞いた。
俺は資料を読み上げた。
「精神病患者に対する治療法の一つ。冷水に漬けることで精神を安定させるとされていたが、実際は虐待に近い行為だった」
「それで死んだのか」
「そうだ。そして、その患者たちの霊が、今も地下の水に囚われている」
俺たちが話していると、背後から声がした。
「見つけてくれたのね」
振り返ると、地下から上がってきたような濡れた女性が立っていた。病院で見た顔の一人だった。
「私たち、ずっと待ってたの」
女性は微笑んでいたが、その笑顔は狂気じみていた。
「三十年間、あの水の中で。誰かが私たちを見つけてくれるのを」
他の患者たちも現れた。みんな濡れた病院着を着て、水を滴らせながら歩いている。
「でも、見つけただけじゃダメ」
男性患者の一人が言った。
「私たちと同じ体験をしてもらわないと」
患者たちが俺たちに近づいてきた。
「水治療の苦しさを、分かち合いましょう」
俺たちは逃げようとしたが、患者たちは俺たちを取り囲んだ。
「大丈夫。すぐに慣れるから」
気がつくと、俺は地下の水に首まで浸かっていた。
田中も隣で同じように水に浸かっている。手足が動かない。まるで水中に縛りつけられているようだった。
「これが水治療よ」
女性患者が水面に顔を出して言った。
「冷たい水に長時間浸かって、精神を『治療』するの」
水は氷のように冷たかった。体温がどんどん奪われていく。
「でも、治療は終わらない。ずっと続くの」
男性患者も水面に顔を出した。
「私たちも三十年間、ずっと治療を受けてるの」
俺は理解した。患者たちは三十年間、この水の中で苦しみ続けていた。
「でも今度は、あなたたちと一緒。寂しくない」
水面に複数の顔が浮かんだ。患者たちの顔と、俺たちの顔も一緒に。
「みんなで仲良く、水治療を続けましょう」
俺の意識が朦朧としてきた。水の冷たさで、感覚が麻痺してくる。
「大丈夫。死なないから」
女性患者が俺の頭を撫でた。
「私たちも三十年間死ねなかった。水の中で生き続けてる」
俺は気づいた。これは治療ではなく、永続的な拷問だった。
患者たちは三十年間、この水の中で苦しみ続けている。そして俺たちも、同じ運命を辿る。
「覗いた者は、必ず中に入ってもらうの」
患者たちの顔が水面に並んだ。みんな笑っている。
「これで、みんな平等。みんな患者」
俺の体が完全に水に沈んだ。しかし、息はできる。溺れることもない。
ただ、永遠に冷たい水の中で浮かび続ける。
時々、地上から誰かが覗きに来る。
その時、俺たちは水面に顔を出して、笑顔で手を振る。
新しい患者を歓迎するために。
新しい仲間を水治療に誘うために。
覗いた者は、必ず中に入ってもらう。
それが、この病院のルールだから。
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