1話5分でゾッと出来る話。短編ホラー集。短編怖い話は、そこにある

みにぶた🐽

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第85話『笑う犬』怖さ:☆☆☆☆☆

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 夜道で出会った犬が、人間のように歯を見せて笑った。

 深夜のコンビニ帰り、住宅街の路地で一匹の犬と出会った。中型犬で、首輪をつけているから飼い犬だろう。

 しかし、その犬は俺を見ると、口角を上げて笑ったのだ。

 犬が笑うはずがない。そう思いながらも、確かにその犬は人間のような笑顔を浮かべていた。牙ではなく、人間のような白い歯を見せて。

 俺は気味悪くなってその場を離れた。

 翌日、同じ場所を通ると、また同じ犬がいた。

 今度は昼間だったが、やはり俺を見ると笑った。そして、尻尾を振りながら近づいてきた。

 犬の首輪を見ると、「中に『誰か』がいます」と書かれたプレートがぶら下がっていた。

 俺は慌てて逃げた。

 その夜、俺は近所の人に聞いてみた。

 「この辺りで、変わった犬を見ませんか?笑う犬なんですが」

 「ああ、あの犬ね」

 隣家の主婦が暗い表情になった。

 「最近この辺りをうろついてるの。でも、あの犬には近づかない方がいいわよ」

 「なぜですか?」

 「飼い主が行方不明になってるのよ。一週間前から」

 主婦は声を小さくした。

 「田村さんって人が飼ってた犬なんだけど、田村さんが急に姿を消したの。でも犬だけが残ってて」

 「警察には?」

 「届けたけど、事件性はないって。でも、変なのよ」

 主婦は辺りを見回した。

 「田村さんの家の中から、時々声が聞こえるの。助けを呼ぶような声が」

 俺の背筋が寒くなった。

 「でも家の中は空っぽなのよ。警察も調べたけど、誰もいない」

 その夜、俺は田村さんの家を覗いてみた。

 確かに電気は消えていて、誰もいないようだった。しかし、犬は家の前にいた。

 犬は俺を見ると、いつものように笑った。そして、家の玄関を見つめた。

 「中に入って」

 犬が話した。

 俺は耳を疑った。犬が人間の言葉を話すはずがない。

 「聞こえただろ?俺の声が」

 犬はまだ笑っていた。

 「俺は田村だ。この犬の中にいる」

 俺は震え上がった。

 「信じられないだろうが、俺は犬の体の中に閉じ込められてるんだ」

 犬が俺に近づいてきた。

 「助けてくれ。もう一週間もこの体の中にいる」

 「どうして犬の中に?」

 「わからない。気がついたら、犬の意識と俺の意識が混ざってた」

 犬の表情が人間らしく見えてきた。

 「最初は犬が俺の体を乗っ取ったのかと思った。でも違う」

 犬が座り込んだ。

 「俺たちは、お互いの体を交換したんだ」

 「じゃあ、あなたの体は?」

 「家の中にいる。犬の意識が入った俺の体が」

 俺は理解し始めた。

 「でも、なぜ助けを呼ぶ声が?」

 「犬の意識は混乱してるんだ。人間の体をうまく使えない。だから、ずっと助けを求めて叫んでる」

 犬の目が悲しそうになった。

 「でも、犬は言葉が話せない。だから、叫び声しか出せない」

 俺は家の中を覗こうとした。

 「やめろ!」犬が叫んだ。「中を見るな!」

 しかし、俺は窓から家の中を覗いた。

 リビングで、田村さんの体が四つん這いになって、床を嗅ぎ回っていた。完全に犬の行動だった。

 そして、田村さんの口から、犬の鳴き声が聞こえていた。

 「ワンワン!」

 人間の体なのに、犬のように吠えている。

 「見ただろ?」犬の田村さんが言った。「あれが俺の体だ」

 俺は窓から離れた。

 「どうすれば元に戻れるんですか?」

 「それが問題なんだ」

 犬が悲しそうに俺を見上げた。

 「元に戻るには、別の誰かと交換するしかない」

 俺の血が凍った。

 「つまり、俺が犬になって、あなたが人間に戻るってことですか?」

 「そうだ。それしか方法がない」

 犬が立ち上がった。

 「でも、強制はしない。俺も最初は被害者だったんだから」

 しかし、犬の表情が変わった。

 「ただし、このことを知った以上、君には選択肢が二つしかない」

 犬の笑顔が、今度は不気味に見えた。

 「俺と交換するか、それとも……」

 犬が俺に飛び掛かった。

 俺は慌てて逃げたが、犬は執拗に追いかけてきた。

 「逃げても無駄だ!この秘密を知った以上、君も仲間入りだ!」

 俺は必死に走った。しかし、犬の足の方が速い。

 角を曲がった瞬間、犬が俺に追いついた。

 犬が俺の足に噛みついた瞬間、意識が混濁した。

 気がつくと、俺は四つん這いで地面にいた。

 そして、自分の体が向こうに立っているのが見えた。俺の体が、俺を見下ろして笑っている。

 「ありがとう。やっと人間に戻れた」

 俺の体が話している。田村さんの声で。

 俺は鳴き声を上げようとしたが、犬の鳴き声しか出なかった。

 「大丈夫。君もすぐに次の人を見つけられる」

 俺の体が俺を撫でた。

 「そして、その人と交換して人間に戻れる」

 俺は理解した。これは永続的な交換システムだった。

 犬になった者は、次の人間を探して交換を繰り返す。

 そして、犬の意識を持った人間の体は、家の中で混乱し続ける。

 俺は新しい犬として、次の獲物を探し始めた。

 夜道で人間を待ちながら。

 人間のように笑いながら。

 首輪のプレートには、今度は「中に『雨宮』がいます」と書かれている。

 俺の名前が。
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