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第85話『笑う犬』怖さ:☆☆☆☆☆
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夜道で出会った犬が、人間のように歯を見せて笑った。
深夜のコンビニ帰り、住宅街の路地で一匹の犬と出会った。中型犬で、首輪をつけているから飼い犬だろう。
しかし、その犬は俺を見ると、口角を上げて笑ったのだ。
犬が笑うはずがない。そう思いながらも、確かにその犬は人間のような笑顔を浮かべていた。牙ではなく、人間のような白い歯を見せて。
俺は気味悪くなってその場を離れた。
翌日、同じ場所を通ると、また同じ犬がいた。
今度は昼間だったが、やはり俺を見ると笑った。そして、尻尾を振りながら近づいてきた。
犬の首輪を見ると、「中に『誰か』がいます」と書かれたプレートがぶら下がっていた。
俺は慌てて逃げた。
その夜、俺は近所の人に聞いてみた。
「この辺りで、変わった犬を見ませんか?笑う犬なんですが」
「ああ、あの犬ね」
隣家の主婦が暗い表情になった。
「最近この辺りをうろついてるの。でも、あの犬には近づかない方がいいわよ」
「なぜですか?」
「飼い主が行方不明になってるのよ。一週間前から」
主婦は声を小さくした。
「田村さんって人が飼ってた犬なんだけど、田村さんが急に姿を消したの。でも犬だけが残ってて」
「警察には?」
「届けたけど、事件性はないって。でも、変なのよ」
主婦は辺りを見回した。
「田村さんの家の中から、時々声が聞こえるの。助けを呼ぶような声が」
俺の背筋が寒くなった。
「でも家の中は空っぽなのよ。警察も調べたけど、誰もいない」
その夜、俺は田村さんの家を覗いてみた。
確かに電気は消えていて、誰もいないようだった。しかし、犬は家の前にいた。
犬は俺を見ると、いつものように笑った。そして、家の玄関を見つめた。
「中に入って」
犬が話した。
俺は耳を疑った。犬が人間の言葉を話すはずがない。
「聞こえただろ?俺の声が」
犬はまだ笑っていた。
「俺は田村だ。この犬の中にいる」
俺は震え上がった。
「信じられないだろうが、俺は犬の体の中に閉じ込められてるんだ」
犬が俺に近づいてきた。
「助けてくれ。もう一週間もこの体の中にいる」
「どうして犬の中に?」
「わからない。気がついたら、犬の意識と俺の意識が混ざってた」
犬の表情が人間らしく見えてきた。
「最初は犬が俺の体を乗っ取ったのかと思った。でも違う」
犬が座り込んだ。
「俺たちは、お互いの体を交換したんだ」
「じゃあ、あなたの体は?」
「家の中にいる。犬の意識が入った俺の体が」
俺は理解し始めた。
「でも、なぜ助けを呼ぶ声が?」
「犬の意識は混乱してるんだ。人間の体をうまく使えない。だから、ずっと助けを求めて叫んでる」
犬の目が悲しそうになった。
「でも、犬は言葉が話せない。だから、叫び声しか出せない」
俺は家の中を覗こうとした。
「やめろ!」犬が叫んだ。「中を見るな!」
しかし、俺は窓から家の中を覗いた。
リビングで、田村さんの体が四つん這いになって、床を嗅ぎ回っていた。完全に犬の行動だった。
そして、田村さんの口から、犬の鳴き声が聞こえていた。
「ワンワン!」
人間の体なのに、犬のように吠えている。
「見ただろ?」犬の田村さんが言った。「あれが俺の体だ」
俺は窓から離れた。
「どうすれば元に戻れるんですか?」
「それが問題なんだ」
犬が悲しそうに俺を見上げた。
「元に戻るには、別の誰かと交換するしかない」
俺の血が凍った。
「つまり、俺が犬になって、あなたが人間に戻るってことですか?」
「そうだ。それしか方法がない」
犬が立ち上がった。
「でも、強制はしない。俺も最初は被害者だったんだから」
しかし、犬の表情が変わった。
「ただし、このことを知った以上、君には選択肢が二つしかない」
犬の笑顔が、今度は不気味に見えた。
「俺と交換するか、それとも……」
犬が俺に飛び掛かった。
俺は慌てて逃げたが、犬は執拗に追いかけてきた。
「逃げても無駄だ!この秘密を知った以上、君も仲間入りだ!」
俺は必死に走った。しかし、犬の足の方が速い。
角を曲がった瞬間、犬が俺に追いついた。
犬が俺の足に噛みついた瞬間、意識が混濁した。
気がつくと、俺は四つん這いで地面にいた。
そして、自分の体が向こうに立っているのが見えた。俺の体が、俺を見下ろして笑っている。
「ありがとう。やっと人間に戻れた」
俺の体が話している。田村さんの声で。
俺は鳴き声を上げようとしたが、犬の鳴き声しか出なかった。
「大丈夫。君もすぐに次の人を見つけられる」
俺の体が俺を撫でた。
「そして、その人と交換して人間に戻れる」
俺は理解した。これは永続的な交換システムだった。
犬になった者は、次の人間を探して交換を繰り返す。
そして、犬の意識を持った人間の体は、家の中で混乱し続ける。
俺は新しい犬として、次の獲物を探し始めた。
夜道で人間を待ちながら。
人間のように笑いながら。
首輪のプレートには、今度は「中に『雨宮』がいます」と書かれている。
俺の名前が。
深夜のコンビニ帰り、住宅街の路地で一匹の犬と出会った。中型犬で、首輪をつけているから飼い犬だろう。
しかし、その犬は俺を見ると、口角を上げて笑ったのだ。
犬が笑うはずがない。そう思いながらも、確かにその犬は人間のような笑顔を浮かべていた。牙ではなく、人間のような白い歯を見せて。
俺は気味悪くなってその場を離れた。
翌日、同じ場所を通ると、また同じ犬がいた。
今度は昼間だったが、やはり俺を見ると笑った。そして、尻尾を振りながら近づいてきた。
犬の首輪を見ると、「中に『誰か』がいます」と書かれたプレートがぶら下がっていた。
俺は慌てて逃げた。
その夜、俺は近所の人に聞いてみた。
「この辺りで、変わった犬を見ませんか?笑う犬なんですが」
「ああ、あの犬ね」
隣家の主婦が暗い表情になった。
「最近この辺りをうろついてるの。でも、あの犬には近づかない方がいいわよ」
「なぜですか?」
「飼い主が行方不明になってるのよ。一週間前から」
主婦は声を小さくした。
「田村さんって人が飼ってた犬なんだけど、田村さんが急に姿を消したの。でも犬だけが残ってて」
「警察には?」
「届けたけど、事件性はないって。でも、変なのよ」
主婦は辺りを見回した。
「田村さんの家の中から、時々声が聞こえるの。助けを呼ぶような声が」
俺の背筋が寒くなった。
「でも家の中は空っぽなのよ。警察も調べたけど、誰もいない」
その夜、俺は田村さんの家を覗いてみた。
確かに電気は消えていて、誰もいないようだった。しかし、犬は家の前にいた。
犬は俺を見ると、いつものように笑った。そして、家の玄関を見つめた。
「中に入って」
犬が話した。
俺は耳を疑った。犬が人間の言葉を話すはずがない。
「聞こえただろ?俺の声が」
犬はまだ笑っていた。
「俺は田村だ。この犬の中にいる」
俺は震え上がった。
「信じられないだろうが、俺は犬の体の中に閉じ込められてるんだ」
犬が俺に近づいてきた。
「助けてくれ。もう一週間もこの体の中にいる」
「どうして犬の中に?」
「わからない。気がついたら、犬の意識と俺の意識が混ざってた」
犬の表情が人間らしく見えてきた。
「最初は犬が俺の体を乗っ取ったのかと思った。でも違う」
犬が座り込んだ。
「俺たちは、お互いの体を交換したんだ」
「じゃあ、あなたの体は?」
「家の中にいる。犬の意識が入った俺の体が」
俺は理解し始めた。
「でも、なぜ助けを呼ぶ声が?」
「犬の意識は混乱してるんだ。人間の体をうまく使えない。だから、ずっと助けを求めて叫んでる」
犬の目が悲しそうになった。
「でも、犬は言葉が話せない。だから、叫び声しか出せない」
俺は家の中を覗こうとした。
「やめろ!」犬が叫んだ。「中を見るな!」
しかし、俺は窓から家の中を覗いた。
リビングで、田村さんの体が四つん這いになって、床を嗅ぎ回っていた。完全に犬の行動だった。
そして、田村さんの口から、犬の鳴き声が聞こえていた。
「ワンワン!」
人間の体なのに、犬のように吠えている。
「見ただろ?」犬の田村さんが言った。「あれが俺の体だ」
俺は窓から離れた。
「どうすれば元に戻れるんですか?」
「それが問題なんだ」
犬が悲しそうに俺を見上げた。
「元に戻るには、別の誰かと交換するしかない」
俺の血が凍った。
「つまり、俺が犬になって、あなたが人間に戻るってことですか?」
「そうだ。それしか方法がない」
犬が立ち上がった。
「でも、強制はしない。俺も最初は被害者だったんだから」
しかし、犬の表情が変わった。
「ただし、このことを知った以上、君には選択肢が二つしかない」
犬の笑顔が、今度は不気味に見えた。
「俺と交換するか、それとも……」
犬が俺に飛び掛かった。
俺は慌てて逃げたが、犬は執拗に追いかけてきた。
「逃げても無駄だ!この秘密を知った以上、君も仲間入りだ!」
俺は必死に走った。しかし、犬の足の方が速い。
角を曲がった瞬間、犬が俺に追いついた。
犬が俺の足に噛みついた瞬間、意識が混濁した。
気がつくと、俺は四つん這いで地面にいた。
そして、自分の体が向こうに立っているのが見えた。俺の体が、俺を見下ろして笑っている。
「ありがとう。やっと人間に戻れた」
俺の体が話している。田村さんの声で。
俺は鳴き声を上げようとしたが、犬の鳴き声しか出なかった。
「大丈夫。君もすぐに次の人を見つけられる」
俺の体が俺を撫でた。
「そして、その人と交換して人間に戻れる」
俺は理解した。これは永続的な交換システムだった。
犬になった者は、次の人間を探して交換を繰り返す。
そして、犬の意識を持った人間の体は、家の中で混乱し続ける。
俺は新しい犬として、次の獲物を探し始めた。
夜道で人間を待ちながら。
人間のように笑いながら。
首輪のプレートには、今度は「中に『雨宮』がいます」と書かれている。
俺の名前が。
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