1話5分でゾッと出来る話。短編ホラー集。短編怖い話は、そこにある

みにぶた🐽

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第87話『空白の本』怖さ:☆☆☆☆☆

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 図書館の奥、本棚の裏に隠された本には、ページが一枚もなかった。

 大学図書館でレポートの資料を探していたとき、奥の書庫で奇妙な本を見つけた。

 古い革装丁の本で、タイトルは読めないほど擦り切れている。しかし、本の厚さは辞書ほどもあった。

 俺が本を開くと、中は完全に空だった。

 ページが一枚もない。表紙と裏表紙の間に、何もない空間があるだけだった。

 製本の失敗かと思ったが、本の背表紙はしっかりしていて、厚みもある。ページがあった形跡があるが、すべて抜き取られていた。

 俺が本を閉じようとした瞬間、無数の囁き声が聞こえてきた。

 「返せ……」
 「ページを返せ……」
 「私たちの記録を返せ……」

 声は本の中から聞こえてくる。空っぽの本の中から、大勢の人の声が重なって響いている。

 俺は慌てて本を本棚に戻そうとした。しかし、本は俺の手から離れなかった。まるで手に吸い付いているように。

 「この本を開いたな」

 図書館の奥から、年老いた司書が現れた。

 「その本は開けてはいけないものだった」

 「これは何の本ですか?」

 司書は暗い表情になった。

 「『記録簿』だ。この図書館で死んだ者たちの記録が書かれていた」

 「死んだ者?」

 「この図書館は、昔は精神病院だった。その時代に死んだ患者たちの記録が、その本に書かれていた」

 司書は本を見つめた。

 「しかし、十年前にページが盗まれた。誰かが一枚ずつ破り取って持ち去った」

 囁き声がさらに大きくなった。

 「返せ……我々の名前を……」
 「存在の証を返せ……」

 「ページを盗んだのは誰ですか?」

 「わからない。しかし、ページを持ち去った者は、みな不幸な死を遂げた」

 司書が振り返った。

 「ページには死者の名前と記録が書かれている。それを持ち去ることは、死者の存在を奪うことだ」

 俺の手の中で、本が震えている。

 「そして今、死者たちは自分たちのページを求めている」

 「どうすれば本から離れられますか?」

 「ページを返すしかない。すべてのページを、元の場所に戻すまで」

 司書は俺を見つめた。

 「君がその責任を負うことになった」

 俺は図書館を出ようとしたが、出口で本が重くなった。まるで鉛でできているように重い。

 そして、本の中から声が聞こえ続けている。

 「ページを探せ……」
 「我々の名前を取り戻せ……」

 俺は仕方なく、盗まれたページを探し始めた。

 図書館の司書に頼んで、十年前の記録を調べてもらった。

 その頃、この図書館で奇妙な事件が続いていた。

 利用者が次々と謎の死を遂げていた。心臓発作、事故、自殺。理由は様々だったが、みな図書館で『記録簿』を見た後に死んでいた。

 そして、死んだ利用者の家を調べると、必ず『記録簿』のページが見つかった。

 一人一枚ずつ、ページを持ち帰っていた。

 俺は死んだ利用者の家族を訪ね歩いた。

 「お宅にあった古いページを返してもらえませんか?」

 しかし、ほとんどの家族が言った。

 「そんなページは処分しました」
 「燃やしてしまいました」

 ページの多くは、既に失われていた。

 俺が持つ本の中から、囁き声がさらに強くなった。

 「足りない……まだ足りない……」
 「見つけろ……すべてを見つけろ……」

 俺は必死に探し続けた。古書店、リサイクルショップ、ネットオークション。

 時々、『記録簿』のページらしきものを見つけることができた。

 古い紙に、患者の名前と記録が書かれている。死因、症状、治療記録。

 俺がページを本に戻すたび、囁き声の一部が静かになった。

 「ありがとう……」
 「これで安らげる……」

 しかし、まだ多くのページが不足していた。

 半年後、俺は二十枚ほどのページを集めた。しかし、本の囁き声は止まらない。

 「まだ足りない……」
 「あと百枚は必要だ……」

 俺は疲れ果てていた。大学の勉強も手につかず、バイトもやめた。すべての時間をページ探しに費やしていた。

 そして、俺は気づいた。

 本の中の囁き声が、俺の声を含むようになっていた。

 「俺も……ページを……探さなければ……」

 俺の声が、死者たちの声に混じっている。

 鏡を見ると、俺の顔は青白くなっていた。まるで死人のように。

 俺は理解した。ページを探し続けることで、俺も死者の仲間入りをしている。

 本に囚われた者は、永遠にページを探し続ける。そして、最後は本の一部になる。

 俺の意識が薄れていく中、新しい計画が浮かんだ。

 俺一人では、すべてのページを集めることはできない。

 だから、他の人にも手伝ってもらおう。

 俺は図書館に戻った。本棚の奥に『記録簿』を置いて、目立つように配置した。

 そして、近くに案内書を置いた。

 「興味深い古書です。ぜひ開いてみてください」

 翌日、若い学生がその本を手に取った。

 本を開いた瞬間、学生の表情が変わった。

 囁き声が聞こえているのだろう。学生は慌てて本を閉じようとしたが、手から離れない。

 俺は学生に近づいた。

 「大変ですね。でも安心してください。ページを探せば、本から解放されます」

 俺は学生に、ページ探しの方法を教えた。

 「一緒に探しましょう。みんなで協力すれば、きっと見つかります」

 数週間後、さらに三人の学生が本に捕まった。

 俺たちは『記録簿』復元チームを結成した。

 みんなで手分けして、失われたページを探している。

 しかし、俺は知っている。

 ページは永遠に見つからない。なぜなら、死者たちは満足することがないから。

 俺たちは永遠にページを探し続ける。

 そして、新しい仲間を本に誘い続ける。

 図書館の奥で、空白の本を抱えながら。
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