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「レジ袋はご利用になりますか?」②
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「わざわざ待っていていただいて…ありがとうございます!」
「いや…俺、名前言ってないよね。五十嵐歩です」
「歩さん…」
横山天志は俺の名前を、ものすごく大切な単語のように口にする。
「俺は横山天志です。これからよろしくお願いします」
「えっと…天志って、男の子だよね?」
「はい!」
「…付き合ってって」
「俺、ゲイなんです。いつも買い物に来る歩さんがすごく素敵で、でも告白したら男同士だし気持ち悪がられるかなって思ってずっと見てるだけで我慢してました」
ずっと見ててくれたんだ…ちょっと嬉しいかも。
でも、まさか男の子だとは思わなかった。
「…やっぱり、俺の事、女性だと思いましたか?」
「え?」
「だからOKしてくれたんだったら…無理しなくていいですよ」
横山天志が俺から視線を逸らす。
「俺、平気ですから。じゃ、帰ります。勘違いさせちゃってごめんなさい」
深々と頭を下げて横山天志は俺の横を通って駅とは反対のほう…たぶん自宅のあるほうへ歩き出そうとする。
俺の横を通る時に見えた横顔がとても悲しそうで、俺は腕を掴んだ。
「送ってく」
「え?」
「こんな遅い時間にひとりで歩いたらあぶない」
もう二十三時半だ。
この辺は治安が悪くないとは言え、この見た目の子がひとりで歩くのは危険だと思う。
「…俺の事、気持ち悪くないんですか?」
「びっくりはしたけど、気持ち悪くはないかな」
「………」
横山天志は俺の腕にきゅっと抱きつく。
「あ、すみません! …つい」
ぱっと離れる。
…可愛い。
「あの、ありがとうございます」
「家こっち?」
「はい!」
嬉しそう。
こんなちょっとした事でこんなに幸せそうにされると、俺も心が温かくなる。
「天志って呼んでもいい?」
「はい! あ、すみません、俺、勝手に歩さんって呼んじゃって…五十嵐さんのほうがいいですか?」
「歩でいいよ。『さん』もいらない。だって付き合うんでしょ?」
俺の答えに天志は固まって歩みを止める。
どうしたんだろうと顔を見ると。
「…いいんですか?」
「なにが?」
「俺、男です」
「俺も男だよ」
「知ってます」
「俺も天志が男だって知ってる」
なんとなく手を繋いでみたら、天志は泣き出してしまった。
「え」
「ごめんなさ…っ、…嬉しくて…」
可愛いかも。
手を繋いで歩きながら色々話す。
俺は天志の事をなにも知らないし、天志も俺を見ていただけでなにかを知ってるわけじゃない。
だから互いを知り合わないと。
「俺は今25。天志は?」
「えっと…実は今日20歳になりました」
「今日が誕生日なの?」
「はい」
1月16日。
「おめでとう。ちゃんと覚えておくよ」
「! ありがとうございます! 歩とこうしてふたりでいられて、最高の誕生日になりました」
天志が嬉しそうに微笑む。
柔らかくて、こっちまで笑顔になっちゃうような優しい笑み。
「なんか『歩』に敬語って変な感じ。敬語なしでいいよ、疲れるでしょ」
「あ、すみません…でも俺、敬語のほうが落ち着くので…」
「それなら敬語でもいいけど」
「ありがとうございます!」
顔は女の子なんだけどな。
でも、男でも天志の素直な感じ、可愛い。
「歩の勤務先はどこですか?」
「五つ先の駅近くのビジネスビル内にある蟹料亭のホールやってる」
「蟹…」
「うん。毎日まかないになにかしら蟹が出るよ。味噌汁は鉄砲汁だし」
「てっぽうじる?」
「蟹が入った味噌汁の事」
「おいしそう…!」
目をキラキラさせてる。
蟹好きなのかな。
今度なにか持ち帰りできるメニューをおみやげにしてみようか。
「歩はいつも缶ビール二本におつまみひとつですね」
俺の持つコンビニのレジ袋を見て天志が言う。
「うん。仕事帰りに買って帰るのが日課になってるかも」
「もうぬるくなっちゃってそうですね…すみません、帰ってすぐ飲みたかったんじゃないですか?」
「大丈夫。うちの冷蔵庫にもビール入ってるから、これは帰ったら冷やして今度飲むよ」
「あ、うち、ここです」
五分ほど歩いたところで築年数がそれほど経っていなさそうな綺麗なアパートに着く。
「天志、連絡先教えて」
「え?」
「連絡先。メッセージとかやりとりしたくない?」
「したいです!」
やっぱ可愛い女の子なんだよな…。
スマホを出して連絡先を交換する。
「じゃ、帰るね」
手を離して背を向けたら、その手をもう一度握られた。
「?」
「えっと…よかったらお茶でも…」
真っ赤になって俺を部屋に誘う天志。
女の子だったらそういう意味かもしれないとか考えちゃうけど、天志は男だし。
「じゃ、ちょっとだけ」
そう言って天志のあとについて、天志の部屋に入った。
「いや…俺、名前言ってないよね。五十嵐歩です」
「歩さん…」
横山天志は俺の名前を、ものすごく大切な単語のように口にする。
「俺は横山天志です。これからよろしくお願いします」
「えっと…天志って、男の子だよね?」
「はい!」
「…付き合ってって」
「俺、ゲイなんです。いつも買い物に来る歩さんがすごく素敵で、でも告白したら男同士だし気持ち悪がられるかなって思ってずっと見てるだけで我慢してました」
ずっと見ててくれたんだ…ちょっと嬉しいかも。
でも、まさか男の子だとは思わなかった。
「…やっぱり、俺の事、女性だと思いましたか?」
「え?」
「だからOKしてくれたんだったら…無理しなくていいですよ」
横山天志が俺から視線を逸らす。
「俺、平気ですから。じゃ、帰ります。勘違いさせちゃってごめんなさい」
深々と頭を下げて横山天志は俺の横を通って駅とは反対のほう…たぶん自宅のあるほうへ歩き出そうとする。
俺の横を通る時に見えた横顔がとても悲しそうで、俺は腕を掴んだ。
「送ってく」
「え?」
「こんな遅い時間にひとりで歩いたらあぶない」
もう二十三時半だ。
この辺は治安が悪くないとは言え、この見た目の子がひとりで歩くのは危険だと思う。
「…俺の事、気持ち悪くないんですか?」
「びっくりはしたけど、気持ち悪くはないかな」
「………」
横山天志は俺の腕にきゅっと抱きつく。
「あ、すみません! …つい」
ぱっと離れる。
…可愛い。
「あの、ありがとうございます」
「家こっち?」
「はい!」
嬉しそう。
こんなちょっとした事でこんなに幸せそうにされると、俺も心が温かくなる。
「天志って呼んでもいい?」
「はい! あ、すみません、俺、勝手に歩さんって呼んじゃって…五十嵐さんのほうがいいですか?」
「歩でいいよ。『さん』もいらない。だって付き合うんでしょ?」
俺の答えに天志は固まって歩みを止める。
どうしたんだろうと顔を見ると。
「…いいんですか?」
「なにが?」
「俺、男です」
「俺も男だよ」
「知ってます」
「俺も天志が男だって知ってる」
なんとなく手を繋いでみたら、天志は泣き出してしまった。
「え」
「ごめんなさ…っ、…嬉しくて…」
可愛いかも。
手を繋いで歩きながら色々話す。
俺は天志の事をなにも知らないし、天志も俺を見ていただけでなにかを知ってるわけじゃない。
だから互いを知り合わないと。
「俺は今25。天志は?」
「えっと…実は今日20歳になりました」
「今日が誕生日なの?」
「はい」
1月16日。
「おめでとう。ちゃんと覚えておくよ」
「! ありがとうございます! 歩とこうしてふたりでいられて、最高の誕生日になりました」
天志が嬉しそうに微笑む。
柔らかくて、こっちまで笑顔になっちゃうような優しい笑み。
「なんか『歩』に敬語って変な感じ。敬語なしでいいよ、疲れるでしょ」
「あ、すみません…でも俺、敬語のほうが落ち着くので…」
「それなら敬語でもいいけど」
「ありがとうございます!」
顔は女の子なんだけどな。
でも、男でも天志の素直な感じ、可愛い。
「歩の勤務先はどこですか?」
「五つ先の駅近くのビジネスビル内にある蟹料亭のホールやってる」
「蟹…」
「うん。毎日まかないになにかしら蟹が出るよ。味噌汁は鉄砲汁だし」
「てっぽうじる?」
「蟹が入った味噌汁の事」
「おいしそう…!」
目をキラキラさせてる。
蟹好きなのかな。
今度なにか持ち帰りできるメニューをおみやげにしてみようか。
「歩はいつも缶ビール二本におつまみひとつですね」
俺の持つコンビニのレジ袋を見て天志が言う。
「うん。仕事帰りに買って帰るのが日課になってるかも」
「もうぬるくなっちゃってそうですね…すみません、帰ってすぐ飲みたかったんじゃないですか?」
「大丈夫。うちの冷蔵庫にもビール入ってるから、これは帰ったら冷やして今度飲むよ」
「あ、うち、ここです」
五分ほど歩いたところで築年数がそれほど経っていなさそうな綺麗なアパートに着く。
「天志、連絡先教えて」
「え?」
「連絡先。メッセージとかやりとりしたくない?」
「したいです!」
やっぱ可愛い女の子なんだよな…。
スマホを出して連絡先を交換する。
「じゃ、帰るね」
手を離して背を向けたら、その手をもう一度握られた。
「?」
「えっと…よかったらお茶でも…」
真っ赤になって俺を部屋に誘う天志。
女の子だったらそういう意味かもしれないとか考えちゃうけど、天志は男だし。
「じゃ、ちょっとだけ」
そう言って天志のあとについて、天志の部屋に入った。
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