きみが隣に

すずかけあおい

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きみが隣に②

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「矢崎、昼一緒に食おう」
「いつも俺といていいの?」
「俺が矢崎といたいから、いいの」

 誘われるままに連れ出されて、屋上に向かう。暖かい陽射しの中でふたりでパンを食べる。

「矢崎、そのパンうまそう。一口ちょうだい?」
「いいけど」

 ちぎって渡そうとすると、その前に俺の持つパンに瀬尾がかぶりついた。

「うまい。俺のも食う?」
「……いい」

 これって間接キスってやつじゃないの? と思いながら手に持つパンを食べる。なぜかどきどきしてしまう心臓に、静まれ、と言い聞かせて平静を装うけれどうまくできているかはわからない。

「今日の数学も眠かったー。あの先生、話すのゆっくりだから眠気誘うんだよね」

 瀬尾がひとつあくびをする。

「じゃあ速ければいいの?」
「それもリズム感があって眠くなる」
「結局眠いんじゃん」

 二個目のパンの袋を開ける瀬尾の手つきが綺麗で、なんとなく見てしまった。指もすっと長くて爪の形まで整っている。

「矢崎は授業でわからないところ、どうしてる?」

 綺麗な手から目を上げれば、端正な顔。向かい合う俺は極めて平凡顔。不公平だな、と少しだけ思う。

「とことん復習する。そうしないと平均点以下に落ちるかもしれないから」
「復習かー……苦手だ」

 うげ、と言うのでおかしくて笑うと、瀬尾が驚いた顔をする。

「なに?」
「いや……なんか」
「なんか?」
「笑顔が……」
「……?」

 その頬が少し赤くなって、なんだろうと首を傾げると、瀬尾はぶんぶんと首を横に振った。

「なんでもない!」

 口を大きく開けて豪快にパンにかぶりついた瀬尾は、すぐにむせて涙目になる。本当によくわからない。

 休み時間や学校帰りなど、瀬尾とふたりで過ごす時間が増えていった。瀬尾は知れば知るほどいい奴だと思う。ちょっと咳をするとのど飴をくれたり、風邪ひくなよ、と声をかけてくれたり、脚が長い瀬尾は歩くスピードも速いはずなのに必ず俺に合わせてくれたりもする。歩くの速くない? と、ときどき声をかけてくれる気配りもすごいなと思う。もともと気遣いのできる人なんだろう。一緒にいると居心地がよくて笑顔になれる、不思議な魅力に溢れた男。
 もらったのど飴を、なんとなく大切に取って置いてしまった。





「すごい……」

 テストの成績上位者が貼り出されて、四位に瀬尾が入っている。

「なに見てんの?」
「瀬尾」

 隣に瀬尾が並んで、俺の視線の先を辿る。

「テストの成績上位者? こんなのあるんだ」
「知らないの?」
「知らなかった」

 興味がないということかもしれないけれど、それもすごい。

「復習は苦手とか言ってたくせに、四位じゃん」

 今まで意識して瀬尾の名前を上位者の中に探したことがなかったけれど、もしかしたら毎回上位に入っているのかもしれない。俺は上位に入ったことなんて一回もない。

「苦手だし、たまたまだよ」
「『うげ』とか言ってたもんね」
「そう、うげ」

 ははは、と笑った瀬尾は、自分の頭を指さして今度は真面目な顔をする。

「テスト前日にがーっと勉強して頭に詰め込んで、当日は覚えた内容が落ちてこないように頭を揺らさず登校するの。それで解答用紙に書きながら忘れていくっていう……」
「どこまで本当?」
「全部ほんと。やってみな」

 俺の頭を軽く小突く瀬尾がいたずらっぽく笑うから、つられて笑ってしまう。

「やってみる」

 うん、とひとつ頷いて瀬尾を見ると目が合った。

「矢崎のそういう素直なとこ、いいよな」
「え?」

 瀬尾が柔らかく微笑んで俺をまっすぐ見つめてくる。

「笑顔が可愛いんだから、いつも笑ってろよ」

 そんなことを言われたのは初めてで、どきどきする。俺が笑うとき、瀬尾が隣にいるんだろうか。


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