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ホワイトデー小話
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Xとぷらいべったーに掲載していた小話、本編後です。
*****
「マシュマロが欲しい」
一葉が固まってしまった。
いつものように休日のデート。カフェに入り、ランチにバケットサンドを食べながら一葉が「ホワイトデーなにが欲しい?」と聞いてきたので答えたのにどうしてそんな反応なのだ。
「……深來」
「なに?」
「意味わかって言ってる?」
「意味?」
一葉の言葉の意味のほうがわからなくて首を傾げる。
今マシュマロにはまっているからマシュマロと答えたのだがだめだっただろうか。一葉なら珍しいマシュマロをくれそうだと思ったのだけれど。
なぜか一葉が俺の考えを読もうとするかのような瞳でじっと見てきて、なんだ、と怯む。
「な、なに……?」
「……」
「どうしたの? 一葉、マシュマロ嫌いだっけ?」
「……いや」
見るのも嫌だと言うならば諦めようとしたが、一葉は首を振る。それからひとつ頷いた。
「わかった。マシュマロだな」
「うん。珍しいのがいい」
「……」
まだどこか納得していないような顔をする。一体なんだと言うのだ。
俺の目をじっと見た一葉は大きなため息をついて、それから微笑んだ。
「俺の考えすぎだよな」
「……?」
それからデートの間、ずっと一葉の様子がおかしかった。
ランチのときからずっと疑問に思っていたけれど、帰宅してホワイトデーのお返しの意味を調べて理由がわかった。
「……俺ってやっぱり足りない」
マシュマロが欲しいって、暗に「別れたい」と言っているようなものなのかもしれない。もし一葉がそんなつもりになってしまったらどうしよう。
スマホを出してメッセージを入力する。
『マシュマロいらない。クッキーがいい』
すぐ既読になったけれど返信がない。クッキーも好きだからマシュマロでなくてもいい。むしろおかしな意味がないものがいい。
『そこに深い意味はない?』
五分ほど経って届いた返信に、まさか、とクッキーの意味を調べる。「友達でいましょう」――ありえない。俺ってどうしてこんなに抜けているのだろう。
『クッキーも嫌』
慌てて返信して、お返しの意味が書かれたページに目をとおす。
『キャンディがいい』
送信。
『やっぱりチョコ』
送信。
『マカロンでもいい。マシュマロとクッキーはなし』
送信。
『そんなつもりないから! 俺は一葉が好き。ずっとそばにいたい』
思いついたままメッセージを入力して送信する。読み返してみて我ながら必死だと思うが必死にもなる。お菓子なんかで一葉を失いたくない。
既読になっているのに返信がない。もし一葉が別れるつもりになってしまっていたらどうしよう。メッセージで通じないなら今から会いに行こうか。とにかく考え直してもらわないといけない。
『今から一葉のところ行く』
送信したらすぐ既読になったがやはり返信がない。不安が足元からせりあがってきて、コートを掴んでスウェットの上に羽織ると玄関に向かい、勢いよくドアを開ける。
「うわっ」
「えっ」
ドアの向こうになぜか一葉が立っていた。驚いた表情でスマホを片手に俺を見ている。
「どこか行くのか?」
「今から一葉のところに行くってメッセージ送ったけど……」
「本気だったのか……」
冗談だと思ったのだろうか。とりあえず中に入ってもらった。
「なにか飲む?」
「ん? ああ、ビールがいい」
「わかった」
冷蔵庫から缶ビールを二本出して一本を一葉の前に置く。一葉はスマホをいじっている。
「なにしてるの?」
「ん……」
なにか入力している。邪魔をしたら悪いかとビールのプルタブを開けて一口飲むと、俺のスマホが短く鳴った。
「……?」
確認すると一葉からのメッセージだった。
『俺も深來だけが好き。一生そばにいたい』
かあっと頬が熱くなる。顔をあげて一葉を見ると、一葉も俺を見ている。優しい視線に心臓が甘く高鳴る。
「……マシュマロはそういう意味じゃなかったんだ。ただ最近はまってるから」
「ああ。わかってる」
「俺は一葉がすごく好きだか――」
すべて言い切る前に抱きしめられた。一葉のにおいに包まれてほっとする。
「ホワイトデーにはマシュマロとクッキーとキャンディとチョコとマカロン買ってくるな」
「そんなに食べ切れないよ」
可笑しくて笑ってしまうと、髪を撫でられた。顔をあげたら目が合った。
「誰かが作った意味なんて関係ないよな。深來が食べたいものを贈りたい」
「ごめんね。俺、考えが足りなくて……」
額に小さな温もりが触れて瞼をおろすと頬と鼻の先にもキスが落ちてきた。
一葉がなだめるように俺の背中をとんとんと軽く叩くので、そのリズムが心地よくてほうと息をつく。
「深來だから許す」
「ありがとう」
「本当はかなり本気で焦ったけど、それは秘密」
「言ってるんだから全然秘密じゃないじゃん」
整った顔を見つめながら手を伸ばす。頬を撫でてそっとつねると眉が寄る。お返しとばかりに一葉も俺の頬をつまむ。
「変な顔になるから離して」
「深來が先に離せ」
「せーので離そう?」
額を合わせて「せーの」の掛け声と同時に唇が重ねられた。手を離し、一葉の背中に腕をまわした。
びっくりさせてごめんね。焦ってくれてありがとう。
ホワイトデーには本当にマシュマロとクッキーとキャンディとチョコとマカロンをもらって、一葉とふたりで仲良く食べた。
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「マシュマロが欲しい」
一葉が固まってしまった。
いつものように休日のデート。カフェに入り、ランチにバケットサンドを食べながら一葉が「ホワイトデーなにが欲しい?」と聞いてきたので答えたのにどうしてそんな反応なのだ。
「……深來」
「なに?」
「意味わかって言ってる?」
「意味?」
一葉の言葉の意味のほうがわからなくて首を傾げる。
今マシュマロにはまっているからマシュマロと答えたのだがだめだっただろうか。一葉なら珍しいマシュマロをくれそうだと思ったのだけれど。
なぜか一葉が俺の考えを読もうとするかのような瞳でじっと見てきて、なんだ、と怯む。
「な、なに……?」
「……」
「どうしたの? 一葉、マシュマロ嫌いだっけ?」
「……いや」
見るのも嫌だと言うならば諦めようとしたが、一葉は首を振る。それからひとつ頷いた。
「わかった。マシュマロだな」
「うん。珍しいのがいい」
「……」
まだどこか納得していないような顔をする。一体なんだと言うのだ。
俺の目をじっと見た一葉は大きなため息をついて、それから微笑んだ。
「俺の考えすぎだよな」
「……?」
それからデートの間、ずっと一葉の様子がおかしかった。
ランチのときからずっと疑問に思っていたけれど、帰宅してホワイトデーのお返しの意味を調べて理由がわかった。
「……俺ってやっぱり足りない」
マシュマロが欲しいって、暗に「別れたい」と言っているようなものなのかもしれない。もし一葉がそんなつもりになってしまったらどうしよう。
スマホを出してメッセージを入力する。
『マシュマロいらない。クッキーがいい』
すぐ既読になったけれど返信がない。クッキーも好きだからマシュマロでなくてもいい。むしろおかしな意味がないものがいい。
『そこに深い意味はない?』
五分ほど経って届いた返信に、まさか、とクッキーの意味を調べる。「友達でいましょう」――ありえない。俺ってどうしてこんなに抜けているのだろう。
『クッキーも嫌』
慌てて返信して、お返しの意味が書かれたページに目をとおす。
『キャンディがいい』
送信。
『やっぱりチョコ』
送信。
『マカロンでもいい。マシュマロとクッキーはなし』
送信。
『そんなつもりないから! 俺は一葉が好き。ずっとそばにいたい』
思いついたままメッセージを入力して送信する。読み返してみて我ながら必死だと思うが必死にもなる。お菓子なんかで一葉を失いたくない。
既読になっているのに返信がない。もし一葉が別れるつもりになってしまっていたらどうしよう。メッセージで通じないなら今から会いに行こうか。とにかく考え直してもらわないといけない。
『今から一葉のところ行く』
送信したらすぐ既読になったがやはり返信がない。不安が足元からせりあがってきて、コートを掴んでスウェットの上に羽織ると玄関に向かい、勢いよくドアを開ける。
「うわっ」
「えっ」
ドアの向こうになぜか一葉が立っていた。驚いた表情でスマホを片手に俺を見ている。
「どこか行くのか?」
「今から一葉のところに行くってメッセージ送ったけど……」
「本気だったのか……」
冗談だと思ったのだろうか。とりあえず中に入ってもらった。
「なにか飲む?」
「ん? ああ、ビールがいい」
「わかった」
冷蔵庫から缶ビールを二本出して一本を一葉の前に置く。一葉はスマホをいじっている。
「なにしてるの?」
「ん……」
なにか入力している。邪魔をしたら悪いかとビールのプルタブを開けて一口飲むと、俺のスマホが短く鳴った。
「……?」
確認すると一葉からのメッセージだった。
『俺も深來だけが好き。一生そばにいたい』
かあっと頬が熱くなる。顔をあげて一葉を見ると、一葉も俺を見ている。優しい視線に心臓が甘く高鳴る。
「……マシュマロはそういう意味じゃなかったんだ。ただ最近はまってるから」
「ああ。わかってる」
「俺は一葉がすごく好きだか――」
すべて言い切る前に抱きしめられた。一葉のにおいに包まれてほっとする。
「ホワイトデーにはマシュマロとクッキーとキャンディとチョコとマカロン買ってくるな」
「そんなに食べ切れないよ」
可笑しくて笑ってしまうと、髪を撫でられた。顔をあげたら目が合った。
「誰かが作った意味なんて関係ないよな。深來が食べたいものを贈りたい」
「ごめんね。俺、考えが足りなくて……」
額に小さな温もりが触れて瞼をおろすと頬と鼻の先にもキスが落ちてきた。
一葉がなだめるように俺の背中をとんとんと軽く叩くので、そのリズムが心地よくてほうと息をつく。
「深來だから許す」
「ありがとう」
「本当はかなり本気で焦ったけど、それは秘密」
「言ってるんだから全然秘密じゃないじゃん」
整った顔を見つめながら手を伸ばす。頬を撫でてそっとつねると眉が寄る。お返しとばかりに一葉も俺の頬をつまむ。
「変な顔になるから離して」
「深來が先に離せ」
「せーので離そう?」
額を合わせて「せーの」の掛け声と同時に唇が重ねられた。手を離し、一葉の背中に腕をまわした。
びっくりさせてごめんね。焦ってくれてありがとう。
ホワイトデーには本当にマシュマロとクッキーとキャンディとチョコとマカロンをもらって、一葉とふたりで仲良く食べた。
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