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上級糖度
上級糖度①
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央季がコーヒーを淹れていると、背後から腕が伸びてきた。手に取っていた三本目のスティックシュガーをシュガースタンドに戻される。
「甘いものをとりすぎてもよくないよ」
「……うん」
「央季のために買ってきたケーキがあるから、コーヒーの砂糖は控えようか」
「それなら先に言ってよ」
むうと唇を尖らせると、ふに、と指で潰される。獅堂の指が触れるとどきどきする。少し振り向くと目が合い、そのまま視線が絡む。
でもそれだけだ。央季がきちんと獅堂の恋人ならキスをしてもらえるかもしれないが、そうではない。獅堂はただ罪悪感で央季につき合ってくれているだけ。
◇◆◇ 上級糖度 ◇◆◇
キッチンカウンターからリビングダイニングのテーブルに目を向けると、おしゃれな小箱が置かれている。白い箱の下部に金色の筆記体で、店名の「luminous」がリボンのように描かれている。
「うげ。高級パティスリーのケーキ」
慌てて手で口を押さえるが、もう遅い。
「央季が前に食べたいと言ってただろ。仕事帰りに寄ったんだ」
たしかに言ったけれど、雑談だから覚えていないと思った。央季のほうが驚いてしまう。
頭を撫でられ、恰好いいなあ、とぼんやりと顔を見あげる。一七三センチの央季より十センチ以上も背が高い獅堂は、スタイルだっていい。宝石のタイガーアイのような金茶色の髪と、同じ色の瞳はいつも柔らかいつやを弾く。そういえば彼が険しい顔をしているところを見たことがない。獅堂なんて厳めしい名前に似合わず、いつも穏やかに微笑んでいる。
有松獅堂は上級の男だと梅田央季は常々思う。もちろん贔屓目など抜きだ。三十歳だと言っていたが、歳相応の落ちつきと大人らしさがある。いつでも優しい笑みを向けてくれて、央季を甘やかす。
でも獅堂と央季はきちんとした恋人ではない。胸が苦しくなるけれど、事実はきちんと受け止めておかないといけない。
「う、おいしそう」
ケーキを見てごくりと喉を鳴らす央季に、獅堂はやはり穏やかに微笑む。ついいつものように「うまそう」と言いそうになったのは呑み込んだ。
「気に入ったなら僕の分も食べるといい。僕はケーキを食べている央季を見ているだけで充分だ」
「……いいよ。獅堂さんも自分の分食べてよ」
ちゃんと恋人だったら、俺も素直になれんのかな。
好きな相手に素直になれない自分が嫌だけれど、獅堂の優しさにつけ込んでいることを考えると、無邪気に甘えてなんていられない。
獅堂との出会いは半年前のひどい雨の日のこと。獅堂の運転する車が水たまりで跳ねた雨水が央季にかかった。ボトムスの膝ほどまで濡れたけれど、たいしたことと思っていなかった。でもすぐに停まった車から獅堂が降りてきたのだ。思わず動きが止まるような男の登場になにごとかと身を固くしたら、クリーニング代を渡された。いらないと言っても引かない獅堂に、なにかあったときのためにと半ば強引に連絡先を交換させられた。そこから頻繁に食事に誘われて距離が縮まり、現在に至る。自然に一緒にいるようになったけれど、獅堂に罪悪感以外の気持ちはない。だって好きならそう言ってくれるはずだ。
俺は好きなんだけどな……。
優しくされたからではなく、獅堂の男らしさとか真面目さに惹かれた。でも央季の想いは届かない。獅堂からそういった気持ちを伝えられたこともないのだ。恋人ならば互いの気持ちがあってつき合うのだろうが、獅堂と央季の場合、央季の一方通行だ。
上品な甘さのケーキがほろ苦い。獅堂といると、いつもこんなふうに胸の奥に苦みが広がる。優しさに甘えてつけ込んで、断れないだけの彼のそばにいるのはつらい。でも離れるのはもっとつらい。
「甘いものをとりすぎてもよくないよ」
「……うん」
「央季のために買ってきたケーキがあるから、コーヒーの砂糖は控えようか」
「それなら先に言ってよ」
むうと唇を尖らせると、ふに、と指で潰される。獅堂の指が触れるとどきどきする。少し振り向くと目が合い、そのまま視線が絡む。
でもそれだけだ。央季がきちんと獅堂の恋人ならキスをしてもらえるかもしれないが、そうではない。獅堂はただ罪悪感で央季につき合ってくれているだけ。
◇◆◇ 上級糖度 ◇◆◇
キッチンカウンターからリビングダイニングのテーブルに目を向けると、おしゃれな小箱が置かれている。白い箱の下部に金色の筆記体で、店名の「luminous」がリボンのように描かれている。
「うげ。高級パティスリーのケーキ」
慌てて手で口を押さえるが、もう遅い。
「央季が前に食べたいと言ってただろ。仕事帰りに寄ったんだ」
たしかに言ったけれど、雑談だから覚えていないと思った。央季のほうが驚いてしまう。
頭を撫でられ、恰好いいなあ、とぼんやりと顔を見あげる。一七三センチの央季より十センチ以上も背が高い獅堂は、スタイルだっていい。宝石のタイガーアイのような金茶色の髪と、同じ色の瞳はいつも柔らかいつやを弾く。そういえば彼が険しい顔をしているところを見たことがない。獅堂なんて厳めしい名前に似合わず、いつも穏やかに微笑んでいる。
有松獅堂は上級の男だと梅田央季は常々思う。もちろん贔屓目など抜きだ。三十歳だと言っていたが、歳相応の落ちつきと大人らしさがある。いつでも優しい笑みを向けてくれて、央季を甘やかす。
でも獅堂と央季はきちんとした恋人ではない。胸が苦しくなるけれど、事実はきちんと受け止めておかないといけない。
「う、おいしそう」
ケーキを見てごくりと喉を鳴らす央季に、獅堂はやはり穏やかに微笑む。ついいつものように「うまそう」と言いそうになったのは呑み込んだ。
「気に入ったなら僕の分も食べるといい。僕はケーキを食べている央季を見ているだけで充分だ」
「……いいよ。獅堂さんも自分の分食べてよ」
ちゃんと恋人だったら、俺も素直になれんのかな。
好きな相手に素直になれない自分が嫌だけれど、獅堂の優しさにつけ込んでいることを考えると、無邪気に甘えてなんていられない。
獅堂との出会いは半年前のひどい雨の日のこと。獅堂の運転する車が水たまりで跳ねた雨水が央季にかかった。ボトムスの膝ほどまで濡れたけれど、たいしたことと思っていなかった。でもすぐに停まった車から獅堂が降りてきたのだ。思わず動きが止まるような男の登場になにごとかと身を固くしたら、クリーニング代を渡された。いらないと言っても引かない獅堂に、なにかあったときのためにと半ば強引に連絡先を交換させられた。そこから頻繁に食事に誘われて距離が縮まり、現在に至る。自然に一緒にいるようになったけれど、獅堂に罪悪感以外の気持ちはない。だって好きならそう言ってくれるはずだ。
俺は好きなんだけどな……。
優しくされたからではなく、獅堂の男らしさとか真面目さに惹かれた。でも央季の想いは届かない。獅堂からそういった気持ちを伝えられたこともないのだ。恋人ならば互いの気持ちがあってつき合うのだろうが、獅堂と央季の場合、央季の一方通行だ。
上品な甘さのケーキがほろ苦い。獅堂といると、いつもこんなふうに胸の奥に苦みが広がる。優しさに甘えてつけ込んで、断れないだけの彼のそばにいるのはつらい。でも離れるのはもっとつらい。
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