観賞用イケメン。

すずかけあおい

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観賞用イケメン。①

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「もう無理。別れよ」

ついに言った。
なんて返ってくるか。

「そ。じゃあ出てって」

それだけ言ってまたスマホをいじるタケ。

「今すぐ出てく」

俺もそれだけ残して、一年半タケと暮らした部屋を出た。

マンションを出たところでチョーカーを外す。
チョーカーって言えば聞こえはいいけど、つまりは首輪なんだけど。

追いかけてこないし、スマホに連絡も一切入らない。

自由だ!

雅貴まさたか、俺のものになって』

大学卒業時に告白されて、断った。
俺は女が好きだから。
それなのにタケ…武登たけとはものすごくしつこくて、アパートの前で待ち伏せまでされた。
なんか忠犬に懐かれた感じが可愛くて…絆された。
今思うと、可愛いか?ってなるんだけど、あの時の俺には武登が可愛く見えちゃったんだ。

もともとは俺の大学時代の彼女が武登をかっこいいって言ってて、確かに武登はすごいイケメンで、地味に分類される俺が勝てるところなんてないけど、ずっと見てればひとつくらい勝てるとこ見つかるんじゃね?ってちょこちょこ見てたら、なんか勘違いされた、っぽい。

でもその時、武登も彼女いたし、最初はからかわれてただけの告白だったと思う。
でも徐々にエスカレートして、彼女と別れたり、バイト先を俺と同じ居酒屋にしたり、とにかく時間があれば俺に近付いてくるようになった。
そんで『俺のものになって』で待ち伏せ。

つい頷いてしまったら、そこから俺は武登に飼われる事になった。

チョーカーを着けられ、仕事中以外は外しちゃだめって言われた。
冗談じゃないって即外したら『お仕置きだ』ってすごく優しく微笑んで、めちゃくちゃに抱かれた。
俺のうしろ初体験がそれ。
最悪過ぎる。

それからはすごい束縛が待っていた。
会社で誰とも話すな…無理に決まってる。
帰る度に一日に誰となにを話したかのチェック…で、ほぼ毎回お仕置き。
男も女も友達は縁切れ。
武登以外に笑いかけるな。

一回、武登とコンビニに買い物に行った時にレジのお兄さんがミスして謝ってくるのに対して『大丈夫ですよ』って答えたらお仕置きされた。

武登は観賞用イケメンで、近寄ってはいけないイケメンだった。

早く別れたい。
もう解放されたい。
そう願い続けて願い続けて、ようやく今日、俺は言った。

『別れよ』の一言がこんなに強いものだと思わなかった。
あの束縛男から離れられるなら、早く言えばよかった。
部屋に閉じ込められるとか、更に束縛が激しくなるとか、絶対悪いほうにいくって考えてたからずっと言えなかった。

しばらくは会社近くのビジネスホテルに泊まる事にしているのでまっすぐそこに向かう。
でもなんかせっかくだから。
コンビニ寄って、レジで会計してくれたお姉さんが商品を渡してくれる時に『ありがとうございます』って言ってみる。
噛んじゃったけど、言えた。
見知らぬ人へ声を発してお仕置きされない素晴らしさ。
ああ、もう、ほんと早く別れておくんだった。

ビジホの部屋に入って荷物を置いて、コンビニで買った弁当を食べる。
すごいごちそうとしか感じられない。
今までは武登の作ったものしか食べちゃいけなくて、朝昼晩、全部武登の手作りだった。
会社に行く時は当然手作り弁当。
なんでって聞いたらお仕置きされたあとに、他の誰かが作ったものはなにが入ってるかわからないから、って言われた。
武登の作ったもののほうがなんか入ってそうなんだけど、俺は我慢してなにも言わなかった。

自由だ。

全ての重みから解放された俺はシャワーで武登の気配を洗い流した。
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