恋人が出て行った

すずかけあおい

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恋人が出て行った③

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「本当にごめんなさい…」
「いや、書き置きだけで出て行った俺が完全に悪かったから」

 休みの日にふたりで買い物。素史のものはほとんど捨ててしまっていたから、買い直し。俺が買うと言ったけれど、素史は払わせてくれない。
 あの後、部屋を一か月半かけて片付けてしまったことを話すと、素史は怒りはしなかったけど、固まるほどびっくりして、それからお腹を抱えて笑っていた。メッセージアプリの連絡先を削除してしまったことには、驚いた後に「千温も反省点があるね」と言っていた。そのとおりだ。もちろん、今はちゃんともう一度追加されている。

「それに、結果的に千温とデートできて嬉しい」
「……デートなんていくらでもするのに」
「へえ…確かに聞いたから」

 自分で言ったことだけど、ちょっと恥ずかしい。でも、素史の隣を歩くのが俺なんかでいいのかな…、と考えていたら、ぎゅっと手を握られてすぐ離された。それが「いいんだよ」と言われたみたいで嬉しかった。付き合って何年経っても同じことを考えてしまう成長のない俺の心を、いつでも導いてくれる優しい光。

「……ただ、写真立てまで捨てられてたのはショックだった」
「う…ごめんなさい」

 素史が悲しそうに瞳を揺らすので、胸が痛くなる。そうだよな、代わりの利かないものだ。残しておけばよかっただろうか。
 ……いや、あのときの俺はできなかった。片付けて捨てていくことで、傷として心に素史を刻んでいたから。

「お詫びになんでもします……」
「…なんでも?」

 悲しそうな瞳が、急に元気な色になった。

「……できることなら」
「じゃあ、今夜は千温に頑張ってもらおうかな」
「……………できることなら」

 本当に、できることなら、だけど。でも素史はご機嫌でにこにこしている。さっきまでも機嫌がよかったけれど、さっきまでが雲の上なら、今は宇宙くらいまでいってそう。

「……寂しい思いさせてごめんね」

 呟くように、聞こえなかったらそれでもいいや、と思って口に出す。これはたぶん、俺自身が一番悔いていること。

「なんのこと?」

 ……しっかり聞こえてた。

「俺の反省」

 素史の手を握ると驚かれた。俺が自分から手を握るなんて、恥ずかしがってほとんどしないから。

「俺、寂しい思いなんてしてないよ? だって、いつでも千温がいる。寂しいわけないじゃん」
「素史…」

 心臓がぎゅっとなった。なんだか、もっと好きになった。どこまで好きになるんだろう。少し怖い。

「……でも、今後は思い込んでひとりで突っ走るのはなるべくやめような。俺も千温も」
「うん…今回はさすがに猛省した」
「俺もかなり」

 俺を見つめる切れ長の明るい茶の瞳が細められる。その優しい表情で心が覆われて、なんとなく、写真立てが欲しいな、と思った。泣きながら捨ててしまったふたりの思い出を、新しくしたい。

「素史、写真立ても買いに行こう」
「いいね。またふたりで選ぼうか」
「うん」

 それで、ふたりの部屋に持って帰ろう。
 また素史の部屋に飾ってもいいし、別の場所に飾ってもいい。いくつか買って、何か所かに飾るのもいいかもしれない。

 素史と俺が過ごしていく日々を、切り取って。



 おわり


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