ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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獣人国編~救出作戦~

監視面倒臭ぇ

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「あー…監視面倒臭ぇ…」

「2分前にも聞いた、嫌んなるから言うなよ…
俺だって面倒臭いんだ。」

「誰も来ないだろ、こんな所。
裏手には海、正面には強個体のモンスターが数多く生息する『滅びの森』がある。
その上この時期、『海霧』が発生して一寸先も見えない状態だ。
見張り何てコイツらにやらせとけば良いのだ。」

ドカッ!「げふっ…」

「おら!お前らサボってんだ、お前らが行うべき"雑用"に私達が付き合ってやってんだぞ!」


白銀の鎧を身に付けたヒュマノ聖王国の兵士達が悪態を付きながら足元に横たわっている獣人を蹴る。

服とも呼べない襤褸を身に纏い、奴隷用の首輪を付けている。

飯など碌に食べていない為栄養失調でガリガリに痩せ細り、体毛の多くが抜け落ちた獣人が意識朦朧となっていた。

兵士の蹴りに短く反応したものの、指一本動かすのも辛い様で、虚ろな目で目礼をするのみである。

獣人は元来肉体が強固であり、獣人の特性である秀でた感知能力を持ち合わせているハズなのだが、これだけ弱ってしまってはどうしようも無かった。


「チッ!たかだか1週間餌をやらなかった位で弱り果ておって!」

「まぁ待て、その為に"コレ"があるじゃないか。
おら、『立て』。」

「ぐ、ぎぃぃぃぃっ!?」


兵士の1人がそう呟くと、先程まで意識が朦朧として身動き1つ取れなかった獣人が苦悶の声を上げながら勢い良く立ち上がった。

栄養失調で骨と皮だけになった体には、自重を支えるだけの筋力も無く、立ち上がるだけで骨が軋む音と激痛が走っていた。


「…が…あがっ…」

「全く奴隷風情が私に魔力消費をさせおって!
貴様はこれより明け方まで巡回を続けていろ!
我らは休む!」


そう言って『海霧』によって冷えた体を温める為、兵士達は防壁の壁を伝って下への階段を目指す。


「う~、寒ぃ寒ぃ。」

「下へ行って酒飲んで温まろうぜ。
今日は商人がたんまりと酒を運んで来る日だから古いのをドンドン空けちまおう。」

「お、良いねぇ。」


と、心底どうでも良い事を話している兵士の背後と頭上を、気配、意識を薄め、隙を見つつ、音も立てる事無く200人にも及ぶ冒険者の集団が通過していく。


首輪で強制的に動かされている獣人は、意識も儘ならない為、警戒すら出来ず、ただただ歩いているのみであった。





(…くっ、せめてもの助けに気絶させて…)

(楓、止めておけ。
意識を失ってる所を見られようものなら更なる責め苦を与えられるだけだ。
俺達がしてやれる事は"何も無い"んだ。
心を無にして今は任務に当たれ。)

(…はい…)


防壁を突破した『不忍殺』の1人である楓は、ヒュマノの兵士達が行った所行に動揺を隠せなかった。

だがリーダーの仁が直ぐに落ち着かせ、事無きを得た。


この様にヒュマノ内部の現状に心を痛め、動揺を隠せず、思わず助けに向かいそうになる者達は少なくなかった。

だが


(辛いだろうが今は任務の事だけに集中だ。)

(この現状を白日の元に晒す為にも作戦を遂行させよう。)

(心を鎮めよ。
自分が今どうしてここに居るのかを思い出すんだ。)


アルバを頭とする元『救世』のメンバーが各分隊に散り、そういった者達へ注意を促す役割を担ってくれた。


(…それにしても、昔忍び込んだ時よりも酷い有り様だな…)

(以前はまだ兵士と呼べる程度の練度はあったが、今ではそこらの輩と同然ではないか…)

(兵士でこの感じだと、市内は更に酷いであろうな…)


嫌な予感を感じつつ一行は、『海霧』で視界が儘ならない防壁を越えつつ市内への侵入を開始した。






「ミール、奴隷が野菜洗い終わったか見てきて頂戴。
アイツらちゃんと見張っておかないと盗み食いするんだから。」

「う、うん、分かった。」タタタ…




カリッ…コリッ…あぐっ、はぐっ…

「あ、ねぇ、君達、野菜洗い終わっ…」

カリ…「あ、コレは…」


ミールと言う子供が母親の言い付けを聞いて家の裏手で野菜を洗っている奴隷の元へ向かうと、空腹に耐えかねた奴隷が根菜を盗み食いしていた。

奴隷は見られてしまった事に顔を青ざめ、カタカタと震えだした。

タタタ…

「ひっ!?ひぃいっ!ごめ「しっ!大丈夫、安心して。
お母さんが見ていない内に食べちゃって。
例えお母さんが来ても僕が何とかするから大丈夫。」

「…は、はい…あ、ありがとう、ございます…」


奴隷は半泣きになりながらも子供に感謝の言葉を述べながらも根菜を貪っていた。




「何をやってるんだ?奴隷風情が!」

「ひっ!?」


返事が聞こえなかった為、子供の母親が様子を見に来てしまい、盗み食いをしている所を見られてしまった。

獣人の奴隷は身を強張らせ、震えてていると


「うぇえぇ~ん!お母さ~ん、コイツ僕の事ぶった~!」

「…え…」


先程奴隷の身を案じていたのが嘘の様に態度を豹変させ、母親に泣き付いた。

奴隷は何が起こったのか分からず、ただただ呆然としていると、奴隷の視界に靴の裏が映り込んだ。

グシャ!「…っぎっ!?」

子供の母親の蹴りが諸に奴隷の顔面を捉えたのだった。


「奴隷風情が私の子供に触れるだけでも烏滸がましい事なのにぶっただとぉっ!?
身の『ドガッ!』程を『ゴスッ!』知れぇっ!『グボッ!』」

「…ひ…ぃっ……っ…」

奴隷は息も絶え絶えになりつつ藁をも掴む思いで子供の方を見やり、そして絶望した。

ニィィッ…

ボコボコに蹴られ、殴られ、血塗れになった奴隷を見た子供の顔は、嗜虐心を満たしたかの様に口角を吊り上げて嗤っていた。









(…ああやって人間不信に追いやり、精神的に追い詰めた後、甘言で奴隷を掌握…
あの歳の子供がそんな手を使うとはな…)

(…極まってんなぁ…)

(せめて市民…特に子供位はマトモであってくれと願ってみたものの、天辺から末端まで真っ黒だな…)


別動隊の【盗賊】達は、眼下で行われた所行に言葉を失う。
そんな中、上級冒険者【盗賊】のベリラモは違和感を覚える。


(周りの環境的に黒く染まっていくのは仕方無いにしても、あの歳にしては追い詰め方に無駄が無い…これはもしや…)

パッ、パパッ!ススッ、スッ、サッ、サッ!


ベリラモは【盗賊】の仲間内のみに伝わるサインを送り、指示を出す。


"サイ、ロウ、ジータの3人はこの国の学校…学舎に相当する施設から教本を一通り確保して来い。
もしかすると国家ぐるみで子供の時分に洗脳の教育が行われてるやも知れん。"

『『『コクッ。』』』


ベリラモの指示を受けた3人は音も無く散開していった。

(…さて、予定だとそろそろ…)


『ガヤガヤ…』


(お、来たな。)


ベリラモが眼下を見やると、市街が騒がしくなった。
だが人々は喜色満面でヒュマノ聖王国正面の門に向け駆け出していく。

その理由と言うのが


「おお、今回は商隊が多いな!」
「おぅい、商人さんよ!酒はあるかい?」
「酒は後々、先に肉をくれ!」
「はいはい、たんまりと積んでますから押さないで下さい!」


戦闘の一切を奴隷に任せているヒュマノにとって肉は貴重品であり、唯一確保する手段が5日置きに訪れる商隊の売買のみである。

ヒュマノの住民達は我先にと門に集まり、肉を買い求めに向かう。

いつもなら2つの商隊がヒュマノに訪れるのだが、今回はジョーの呼び掛けで5つの商隊が訪れた為、更に目を引いた。

普通なら市街の主婦が集まるだけなのだが、今回は物珍しさから子供達や呑んだくれの兵士などが食料や酒を求めて集まっていた。


要は元々薄かった警備が更に手薄になったのだ。





スタッ!

ヒュマノに侵入を果たしたノアは、国の中央に位置する城から見て東西南北4ヶ所に建つ尖塔の内、南側に建つ尖塔の頂上に降り立った。

スッ…

そして徐に手を上げ、<夜目>と<千里眼>を発動して東と西に建つ尖塔を見やる。

そこには同じく尖塔の頂上に別動隊のリーダーが立ち、同様に手を上げる。

ノアの位置からは北側の尖塔が見えない為、双方の合図待ちである。

『『スッ!』』

ブンッ!

東と西に建つ尖塔の別動隊が手を振り下ろしたのを確認し、ノアも手を振り下ろす。

すると建物の屋上や、物陰に潜んでいた総勢600人に及ぶ冒険者達がヒュマノに建つ4ヶ所の尖塔の中に侵入。

子供の獣人達は夜の間、東西南北4ヶ所の尖塔に幽閉されているとの事だ。

こうして本格的に救出作戦が開始されたのであった。
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