触れると魔力が暴走する王太子殿下が、なぜか私だけは大丈夫みたいです

ちよこ

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世界は優しく

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「リュシア様、本日は王太子殿下と共に、魔導研究棟の視察でございます」



「はい~。あの、地図持って行ったほうがいいですか?」



「いえ、殿下がすでに手配済みですので……

あっ、もうお迎えに」



「リュシア様。ご一緒に、よろしいでしょうか?」



テラスの扉の向こうに立っていたのは、

いつものやわらかな笑顔のシルヴェスター殿下。



春の光を背に、差し出された手のひらがやさしく揺れていた。



気づけばこんなやりとりも、すっかり毎日になっていた。



最初は一回きりの予定だった懇談。

けれど「ご迷惑でなければ」「またお話を」の言葉とともに定着し、王太子の公務予定表に「リュシア様同行」が当たり前のように組み込まれていた。

まるで、朝の紅茶みたいに。

あって当然、でも特別な時間。







「わぁ、今日のネクタイ素敵ですね~。お花みたい」



「気づいてくださって光栄です。実はリュシア様のドレスのの色に合わせてみました」



「えっ…本当だぁ。すごい。」



言われて、あらためて王子のネクタイを見る。

花の刺繍に似た模様が、淡く光っていた。

胸の奥が、きゅうっと小さく鳴る。

「嬉しいです」と言おうとして、先に笑みがこぼれてしまった。



さりげなく“特別扱い”されていることに、最近やっと気づいてきた。



いまだに慣れないけれど、不思議と嫌じゃない。

少しだけ胸がくすぐったくて、あたたかい。



まるで陽の光に包まれるみたいな、やさしくて、やわらかくて、ほっとする感覚だった。








「リュシア様、王子とお食事を?」



「リュシア様、今日も王子に同行されるのね」



「リュシア様のお席、王子の隣でご用意いたしました」



……周囲もすっかり、そのつもりらしい。



「あの、これって……婚約者って扱いなのでは?」



ある日、侍女の視線がやさしくて、少しだけ照れくさくなって、思わず尋ねてみた。




「えっ、違ったんですか?」と逆に返されて、


「ち、違いますよ~! だって、まだ何も言われてませんし!」



「じゃあ、まだなんですね?」



「い、いえ、まだというか、たぶんというか、でもまさかというか……」



リュシアがわたわたしていると、

侍女はふふふと楽しそうに笑った。



「リュシア様ってほんと、リュシア様ですね」



「それって褒めてます?」



「もちろんです。王宮中が、リュシア様のこと大好きですから」







その日の午後。

王太子と並んで歩く廊下の途中、ふと彼が立ち止まった。



「……リュシア様」



「はい?」



「今日、お話したいことがありまして。よろしければ、お時間をいただけますか?」



「はい~。紅茶、淹れますね」



「ふふ、ありがとうございます」



王子様はそのまま、少しだけ顔を近づけて、静かに言った。





「あのとき、あなたに触れて“なにも起きなかった”こと。あれは、私にとっての始まりでした」



「え……?」



「今は、あなたと一緒にいるすべての時間が、奇跡のように愛おしいのです」



「…………」



顔が、耳まで熱くなるのが分かった。



王子の瞳はまっすぐで、やさしい。



いつもの、春風のようなまなざし。



「焦らなくて構いません。けれど、いずれあなたの隣に、ずっと立っていたいと願っているのは、本当です」



リュシアは、胸の中がふわっと浮くような気がして、うまく返事ができなくて。

ただ、いつものように、ぽつりと笑った。



「王太子様って……ほんとうに素敵な方ですね」



それは、彼女なりの「はい」だった。



そして王子は、それをちゃんと受け取って、とても嬉しそうに目を細めて笑ってくれた。胸の奥に、ぽっと明かりが灯るみたいに、うれしかった。







その日から、リュシアは王宮のひだまりとして、さらに存在感を増していった。

それでも彼女は、変わらず草花を育てて、今日もにこにこ笑っていた。





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