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学園編
2.学園へ
しおりを挟む学園への道中に、案外寂しさはなかった。
事前にライネスやレオから貰っていた手紙を読んでいたら、あっという間に時間が流れていったのだ。
二人も今日のお別れに来たがっていたけれど、どうしても外せないお仕事が重なってしまい来られなくなった。
レオは今やほとんど隠居の身である皇帝の執務を代行する立派な皇太子だし、ライネスは大公位を継いだばかり。多忙なのは仕方ない。
それに、二人とは普段からよく会っているから、今日来られなかったことに寂しさとかはあまりなかった。
……とはいえ、手紙にはお別れの日に会えなかったことに対する懺悔や慟哭が激しいくらいに綴られているけれど。
「ふふ……二人とも大げさだなぁ」
世界でも終わるのかと思うくらいの熱量を感じる手紙だ。
いや、もう手紙というより謝罪文といった方が正しいかもしれない。別に怒っていないのに、二人とも真摯で誠実なところは昔から変わらないみたいだ。
「……みんな、しばらく会えないんだ」
乾いた呟きに返事が来ることはない。
文字通りの巣立ち。今までみんなに子供扱いされて、実際に子供みたいに守られてきた僕だけれど、ついに独り立ちの時が訪れたのである。
着慣れない制服に身を包んで、たった一人で馬車に乗っているのがその証拠。
遅れてひっそりと追い付いてくる寂しさにも、門出を迎えた僕には一人で耐えるしかなかった。
***
寂しさに身を焦がす暇もなく、手紙を何度も読み返しているとやがて学園に到着した。
潤む目元を拭って馬車から降りると、門のすぐ傍で三人の男性に出迎えられた。
一人は教師と見られる大人の男性。もう二人は、学園の制服を着た男子生徒だった。
「お待ちしておりました、フェリアル様」
眼鏡をつけた優しそうな先生にそう呼ばれギョッとする。
どうして僕を“様”付けで呼ぶのだろう。確かに公爵令息ではあるけれど、ここでは第一に生徒なのに。
「あ、せ、先生?えっと、はじめまして。今日からお世話になります、フェリアル・エーデルスです。あの、フェリアルで大丈夫です」
数日前から脳内でイメージトレーニングしていた邂逅とはまるで違うものになったので、思わずあたふた慌てながらなんとか挨拶を返す。
すると先生はぱちくりと瞬いて、けれどすぐに安堵したようにふわりと笑った。
「あぁ、そうですか。ではフェリアル君、よろしくお願いしますね。私はハンス・マイヤー、男子寮の寮監をしています」
「は、はい!よろしくお願いします、えっと、ハンス先生」
ピシッとカチコチになりながらも頷くと、ハンス先生は朗らかに微笑んだ。
「すみません、先程は困惑させてしまいましたね。“帝国の英雄”を生徒に迎えると聞いていたので、どう接するべきか悩んでいたんです」
眉尻を下げて笑うハンス先生にハッとする。
そうか、自分では実感がないけれど、僕の存在はいまや絵本にも載るような英雄扱いなのだ。
相手が生徒だとはいえ、先生からすれば接し方に困る相手だということは少し考えれば分かる。気を遣わせてしまったな……。
「……あの、僕、お勉強がんばります。そのために、ここに来ました。だから、びしばし、接してくれるとうれしい、です」
これまでと違い見守ってくれる人が誰もいない、人との会話。
緊張で震えながらもしっかりと言葉を紡ぐと、先生は目を見開いた後に穏やかな笑みで頷いた。
「えぇ、もちろん。寮監は生徒を見守るのが仕事ですから、指導の時はビシバシいきますよ。尤も、見たところ君に指導することになるとは今のところ思えませんが」
悪戯っぽい笑顔に、ひとまず初めの挨拶はなんとかなったようだとほっとした。
初対面早々大きなポカもやらかしていないし、掴みは上々に思える。
シモンと一緒に会話の練習をしたのが役立ったみたいだ。落ち着いたらお礼の手紙を送らないと。
「それで、えっと……そちらの、お二人は?」
視線をチラッとスライドさせる。
先生との挨拶の最中、ずっと地味に気になっていた彼らのこと。先生の斜め後ろにひっそりと控えていた、二人の男性生徒について。
僕が尋ねると、先生は「おっと、そうでしたね」と笑って二人を手前に誘導した。
「彼らも高等部の生徒です。英雄様の案内役に……と思ったのですが、杞憂だったようですね。紹介だけさせていただいても?」
「は、はい!もちろんです」
何度もコクコクと頷く。
どちらも見るからに風格があるし、二人は学園内で立場のある生徒さんに違いない。
そう思いながらチラチラッと視線を向けて、そのあまりの美しさに息を呑んだ。
馬車を降りた時から思っていたけれど、どちらも本当に綺麗な人だ。下手をすれば、兄様達やレオやライネス、よく知る彼らと同じくらいに。
「二人とも。フェリアル君に自己紹介を」
そう言うとハンス先生はサッと後退る。
二人の美男子に揃って視線を向けられると、なんだか威圧感すら感じてちょっぴり仰け反った。
一人はマゼンタ色の髪が不思議な魅力を感じさせる、感情の読めない無表情の男子生徒。
もう一人は、ザ・貴公子という雰囲気の長い銀髪の男子生徒。
対極的な印象があるけれど、どちらも絶世の美人であることに変わりはない。
「……二年。生徒会長のローダンセ・シュタインだ」
「三年のオーレリア・エリオ・エーデルスです。生徒会の副会長をしてます。よろしくね、フェリアル君」
せ、せ、せーとかいっ!?
短いながらも色々と情報量のありすぎる自己紹介。びっくりしすぎて、とりあえず真っ先に仰天したのは彼らの肩書に対してだった。
生徒会の会長さんと副会長さん、一番偉い生徒達が僕の案内役に指名されていたなんて。
自分のことなのにアレだけれど、英雄とか救世主とか正直あんまり実感がない僕にとっては恐縮以外の何物でもない。
「よ、よよっ、よろしくお願いします!……って、ん?」
ちょっと待てよ?
今、シュタインとエーデルスって言わなかっただろうか。いや、絶対に言った。
シュタインというと、慣れ親しんだ元暗殺者の彼の家門名で……エーデルスに至っては、聞き覚えがあるどころじゃない気がするのだが……。
「それじゃあ、自己紹介も済んだところでまずは寮を案内しましょうか」
ぐるぐると複雑に回り始めた思考は、ハンス先生が声を上げたことで中断された。
すたこらさっさと歩き出す先生に慌てて続く。
忙しなく先生の後を追いながらも、視線はチラチラと二人の生徒へ向けてばかりだった。
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