余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file3:冷酷な大公子

閑話.お仕事おつかれさまの飴

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 とたとた。大公城の中を駆け足で進む。
 今日はちょうど予定に空きがあったので、大公城に遊びに…こほん、訪問しにきた。もちろん大公家との交流を深める為、エーデルス家の名を背負って来たのだ。断じてかくれんぼや散歩を楽しみにして来たわけじゃない。

 腕に抱えているのはたくさんの飴が入った透明の瓶。落とさないようしっかり持って歩いていると、少し先に廊下の窓を拭く数人の使用人を見つけた。

 一度ピタリと立ち止まって逡巡し、やがてこくっと頷いて足を進める。使用人たちの元に辿り着くと、ぴょんぴょん跳ねたり瓶をカラカラ鳴らしたりして呼びかけた。
 背が低いせいで普通に近付いても気付かれないことがあるから、こういう時はとにかく音を鳴らせばいいと最近学んだ。


「うん…?はっ!!あなたは!!」


 一人の使用人が訝しげに辺りを見渡し、足元を見下ろした瞬間ハッ!と目を見開く。その反応にどうしたどうしたなんだなんだと他の使用人も僕を見下ろし、目を真ん丸に見開いて硬直した。


「お仕事、おつかれさまです」

「えっ!?い、いえ!?」

「おつかれさまの飴です。どうぞ、たべて」

「え!?あ、ありがとうございます!?」


 瓶の中から飴を取り出し、人数分どうぞどうぞと手渡していく。使用人たちはあわあわと飴を受け取り、未だ状況把握が追い付いていない様子でぱちぱち瞬いていた。


「お仕事、がんばってください」


 ぺこりとお辞儀をして何事もなかったかのように歩き出すと、背後から数秒遅れて「あっ、ありがとうございました!!」というお礼の言葉が聞こえてきた。
 その後「やべぇ天使と喋っちまった!」「当主に殺されねぇかな…」「その前にライネス様だろ」「いやいや何気に奥様が一番…」というざわざわとした騒ぎ声が聞こえたような気がしたけれど、それは気のせいかもしれない。




 とたとた。長い廊下を変わらず進んでいく。
 道中出会った使用人や騎士に飴を渡し歩いてきたからか、瓶の中身もそろそろ底をつきそうになっていた。

 次はどこへ向かおうかときょろきょろしていると、不意に窓から覗いた中庭に見慣れた人影を見つけた。


「シャルル」

「ん…?なっ!?フェリアル様!?」


 ふんふんふふーんと鼻歌を歌いながら花への水やりをしていたシャルル。呼びかけるとすぐに不思議そうに辺りを見渡し、僕の姿を視界に入れるなりくわっと目を見開いた。

 怒涛の勢いで駆け寄ってくる様子に少しだけ怯えていると、シャルルはどんな魔法を使ったのか一瞬で全身の土汚れを落として窓から城内に入ってきた。
 にこ、と爽やかな笑顔を浮かべて一礼する姿に、慌てて僕もぺこりと頭を下げる。


「フェリアル様!今日も来てくれたんすね!式の準備っすか?」

「しき…?ううん。今日は遊び…こほんっ、交流を深めにきた」


 ふふん、と胸を張って答えると、シャルルがグハッ!と呻いて膝をつく。
 はぁはぁ荒い息を吐きながら「くっそかわよ…見栄張るところ最高にショタしてて尊い…」とよく分からないことをぶつぶつ呟き始めた。


「そうだ。シャルルにも、これあげるね」

「これって…?」


 きょとんとするシャルルに「お仕事おつかれさまの飴」と答えて差し出すと、シャルルはハッとした様子で目を見開いた。
 恐る恐るそれを手に取ると、まるで宝石を扱うかのような慎重な触れ方で飴を眺める。


「……」

「…?飴、苦手?」

「い、いえっ!大好きっす!!大好物っす!!」


 呆然とするシャルルに不安が募ったけれど、我に返った瞬間ぶわっと涙を流し始めたものだからあたふた慌てた。
 泣くほど飴が好きだなんて知らなかった…次来た時はシャルル用に袋詰めの飴を用意しておこう。色んな味の飴をあげたら喜んでくれるかも。


「今、食べても…?」

「うん。たべてたべて。おいしいよ」


 控えめに問い掛けてくる様子にこくこく頷く。
 泣きながら飴を食べるシャルルをきょとんと見上げ、その体越しに綺麗な花壇を見つめる。さっきまでシャルルが水やりをしていた場所だ。

 シャルルはライネスの専属侍従兼護衛だと聞いていたけれど、こういうのも侍従の仕事なのだろうか。
 シモンは僕の着替えや護衛など、完全に僕の身の回りの仕事専門だから何だか意外だ。次期大公の侍従ともなると、それなりに仕事の幅は広がるものなのかもしれない。


「花、気になりますか?」


 あまりにもじーっと見つめ過ぎていたせいか、ふとシャルルが静かに尋ねてきた。
 それにピクッと肩を揺らして小さく頷く。シャルルの仕事について考えていただけだったけれど、大公城に咲く花がどんなものなのかは確かに気になるから嘘では無い。


「シャルルは、お花好きなの?」

「あ…えぇ、まぁ…。やっぱ花ってその…分かりやすく"癒し"じゃないっすか。俺、癒されるもんがとにかく好きなんです」

「…!わかる。お花可愛くて、癒される」


 庭園を歩いている時、花を見ていれば時間なんてあっという間に過ぎていく。すごく綺麗だよねとうんうん頷くと、シャルルはまたもや胸を押えて悶えだした。


「ぐッ…ふぅ…。だ、だから俺、花の世話してる時はすごい楽しいんす。四六時中仕事なんで、唯一の癒しというか…」


 照れくさそうに頭を搔いて語るシャルル。ほんのり染まった頬と緩んだ瞳には確かな柔らかさが滲んでいて、本当に花が好きなのだろうということが窺えた。

 その事実に心がぽかぽか温まる。
 僕の出会ってきた人の中で、花好きに悪い人はいなかった。花が好きな人は皆優しい人だった。だから、きっとシャルルもとても優しい人なんだって、そんな根拠の無い考えが湧いてくる。

 そう思うと不意になぜだか嬉しくなって「手をだして」とシャルルにせがむ。首を傾げながらも差し出された手に向けて、瓶をよいしょとひっくり返した。
 中に入っていた少ない飴達が全て手の上に転がり落ち、シャルルがぽかんと目を瞬く。


「シャルル、いい人。仲良しになりたいから、飴いっぱいあげる」

「えっ、あ…」

「いっぱい食べて、お花よしよしして、頑張ってね」


 膝をついていたシャルルの頭に手を伸ばし、ぽんぽんと優しく撫でた。
 するとシャルルは更にぶわっ、だばーっと涙の勢いを強めて、飴を両手に包んで大切そうに胸に抱える。ずびっと鼻を啜ると、涙を拭って呟いた。


「俺…今ならどんな命令でも笑顔で遂行できるっす…」

「…?笑顔、いいこと。シャルルの笑顔は、とっても素敵」


 そう言うとシャルルは、この辺一帯が湖になってしまうんじゃないかと言うほどの涙をぶわわーっと勢いよく流し始めてしまった。


「俺…ッ!奮闘させていただきますッ!!俺の日々の癒しの為に!何としてでも囲わせていただきます!!」

「うん…?うん、がんばってね」


 決意の籠った瞳を向けて「良いんすね!?言質取りましたよ!?」と物凄い勢いで尋ねてくるものだから、よしよしと宥めて落ち着かせる。

 何がなんだかよく分からないけれど、とりあえず頑張ってねーと頷いてみた。


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