余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file4:最恐の暗殺者

if閑話.大好きな人たちに会いにいく話(2)

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「落ち着いたか?」

「ん……」

「よしよし、偉い偉い。急に馬鹿が怒って怖かったな。きちんと泣き止めたフェリは天才だ」

「てめぇ俺を盾にすんな!!」


 ようやく衝動が収まり、更に溢れそうな涙を堪えながらディラン兄様にぎゅっと抱き着く。ぐすっと鼻を啜ると慰めるように頭を撫でてくれて、その優しさに縋るようにぎゅっとくっつく力を強めた。


「フェリ。話、出来るか?」

「うん。できる…」

「流石お兄さんだな。フェリは偉いぞ」

「……おにいさん…?」


 そう、そうか。僕はお兄さんなんだ。
 僕はもう立派なお兄さんだから、少し怒られたくらいでぐずったり泣いたりなんてしない。しっかり反省して、自分の非は謝罪して、すんと元通りに戻るのだ。

 そうと決まれば、と決意してばっと顔を上げる。少し残った涙が膜を張ってきらきらと輝く瞳を向けると、二人は不思議そうに瞬いた。


「ガイゼル兄さま。突然きて、めいわくかけて、ごめんなさい」

「は!?あ!?待て!迷惑なんかじゃねぇよ!」

「……?そう、ですか?」

「あぁそうだ!!誰がお前に迷惑なんて言った!!」


 寧ろ歓迎だっつーのアホチビ!と顔を真っ赤にして叫ぶガイゼル兄様。アホなチビと言われたことは地味に刺さったけれど、どうやら本気で怒っているわけではなさそうだと察して安堵した。
 ガイゼル兄様はよく怒るような反応を見せるけれど、こう見えて実は本当に怒りを顕にすることはあまりない。だから、そのガイゼル兄様が本気で怒るほどのことをしてしまったのだという焦りは、絶望を感じるには十分過ぎることだった。


「おこ、ちがう…?」

「おこ……ではあるけど…」

「っ……」

「あーちげぇ!全然おこじゃねーよ!誰がおこっつった!?ぶっ潰してやる!!」


 期待に染まった目で問うと返ってくる絶望の否定。おこなのか…と瞳を暗く染めると、なぜかガイゼル兄様の否定は早々に覆された。どうやらおこではないらしい。

「あーくそ!」と何やら頭を掻き毟るガイゼル兄様を心配に思った時、ふとその様子を呆れ顔で見下ろしたディラン兄様が動き出した。
 手持ち無沙汰が気になったのか、僕のほっぺをふにふにと摘まみながら無表情で声を上げる。


「フェリを困惑させるなバカイゼル」

「だから誰がバカイゼルだ!」

「お前はいつも言い方が悪過ぎる。フェリにおこと言うな。悪口はよせ。傷付いてしまうだろ」

「数百倍エグい罵詈雑言知ってるくせに馬鹿かてめぇ。いつもアホ共に吐いてるセリフ言ってみろや猫被り」


 どうしよう、またしても二人の兄弟喧嘩が勃発してしまった。兄様達、会う度口喧嘩を始めてしまうのはどうしてなのだろう…。いつもしてるのかな、それとも僕が何かしてしまっているのかな。
 喧嘩するほど仲が良いと言うし、きっと仲が悪いわけではないのだろうけれど。それにしたって物凄い頻度だ。
 二人とも成長してどんどん大人に近付いていくけれど、こういうところは昔から変わらないのが何だか落ち着くという事実は二人には内緒だ。

 とは言え、口論の語彙がちょっとした口喧嘩を優に超えているような気もするけれど…たぶん気のせいだろう。


「おらチビお前も何か言ってやれよ」

「なにか、って…?」

「チビの中で一番酷い悪口。おこなんて悪口にもなんねぇってディランに教えてやれ」


 一番酷い悪口…おこよりもっと辛い言葉…。

 ちらりとディラン兄様を見上げると、少し火照った無表情で「フェリに蔑まれたい」という少し理解の追い付かない言葉が返ってきて固まってしまった。とりあえず、別にいいよとのことらしいので悪口を考えてみる。
 ガイゼル兄様のいう『おこより酷い悪口』とは一体何なのか。

 ぐるぐると思考を回して考えた末、僕が言われたことのある言葉を必死に脳内でかき集める。主にガイゼル兄様に吐き捨てられたものを思い出し、やがてこくりと頷いた。


「む……」

「お、何か思いついたか」

「とってもひどい言葉。おもいついた」

「よーしいいぞチビ!チビは優しすぎる節があるからな、良い機会だしちょっとくらい厳しくなってお兄さんとやらへの階段を上ってみようぜ」

「お兄さん、なる」


 確かに、少し子供らしさが過ぎていたかもしれない。兄様達みたいにお兄さんの余裕を持つ為には、多少の悪口を受け流せる更に上の語彙を使った悪口を知っておくべきなのかも。

 きらっと表情を輝かせてディラン兄様に向き直り、膝の上で向かい合ったまま渾身の悪口を発した。


「ばか」

「……」

「……」

「あほ」

「……」

「……」


 あ、あれ…二つも言ったのに反応がない…。
 それに加えて俯いたままぷるぷると震えるディラン兄様。ちらりと振り返ってみると、ガイゼル兄様も同じような様子でそっぽを向いていた。
 もしかして酷過ぎたかな、傷付けてしまったかなと心配になりながら、最後に一番火力が高いと思われる悪口をか細い声で弱々しく紡いでみた。


「ち…ちんちくりん……」

「っ……!!」

「ぶはっ…!!」


 ディラン兄様の震えが限界まで大きくなる。ガイゼル兄様は突如吹き出して涙すら浮かべながら笑い出した。


「お前っ…ほんっと可愛いなぁ…!」


 予想はしていたが、と語るガイゼル兄様にこてんと首を傾げる。予想していたって、一体何を…?

 困惑する僕を置いてけぼりに、ガイゼル兄様は堪え切れない衝動を全て吐き出すように笑い続ける。そんなにおかしなことを言ってしまっただろうか。
 眉を下げて縋るようにディラン兄様を見上げ、そこにあった表情に思わずびくっと震えた。


「ディランにいさま…!?」


 無表情のまま天を仰ぐディラン兄様。静かに瞑った瞳からは、はらりはらりと綺麗な涙が零れ落ちていた。

 僕はそこまで酷い悪口を言ってしまったのか…!と途端に青褪める。基本メンタル強めのディラン兄様が涙を流すなんて相当だ。
 何か、何か言わないと、フォローしないととあわあわしていると、やがてディラン兄様がその体勢のままぽつりと呟いた。


「あまりの尊さに、感涙…───」

「っ…!……??」

「気にすんなチビ。そいつ今喜びに浸ってるだけだから」

「よ、よろこび…?」


 ばか、あほ、ちんちくりん。この三つに喜びを抱く言葉が果たしてあっただろうか。やっぱりディラン兄様はカッコいいけれど、それでいてどこか変な人だ。

 何にせよ、とにかくディラン兄様が傷付いていないようで安心した。


「兄さま。ひどいこと言って、ごめんね…?」

「フェリのごめんなさい可愛い。このまま額縁に入れて飾って四六時中眺めていたい」

「おい暴走すんな。いつも以上にキモい発言してんぞ」


 ぐはっと呻くディラン兄様をガイゼル兄様が問答無用でごつんと殴る。痛そうだ。
 大丈夫かな…とそわそわしていると、不意にガイゼル兄様がハッとした様子で大声を上げた。


「ってちげぇ!何の話だよ脱線しすぎだろ!!何でこんなとこにチビがいんのか、だろ!何で悪口大会始まってんだ!!」

「声が大きい」

「ガイゼル兄さま、おこ」





───
続きます
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