81 / 423
攻略対象file5:狡猾な魔塔主
130.魅了の解呪法
しおりを挟む「えーっと…つまり…叔父は今…?」
「たぶん、馬車のなか」
「わぁ……」
シモンが眠っていた間のことを全て話し終える。
シモンはぽかんとしたり眉を下げたりしてじっと聞いていたけれど、最後のサムさんの件に入るなり何とも言えない表情を浮かべた。確かに、自分の叔父がそんなことになっているなんて知ったら困惑もするか。
今の話で僕が次に頼むことを既に察したのか、シモンは「じゃあ行きましょうか」とさらっと言って立ち上がる。ちなみに僕のことは抱き上げたままだ。
ぱちぱちと瞬く僕を見下ろしたシモンが首を傾げる。
「叔父のところに行くんでしょう?」
「う、うん…でも…シモン、体は大丈夫なの…?」
ぺたぺたと胸元に触れながら問うと、にこっとしたいつもの笑顔が返ってくる。
「何だそんなことですか。大丈夫ですよ。傷も無いですし、普通の寝起きと変わりませんから」
「そっか……はっ!それ、傷ないって…!どうして…?」
普通に納得しかけて慌てて首を振った。そうじゃない、危うく一番気になっていたことを聞き忘れるところだった。
血塗れで現れたのに、どうして傷が一切無かったのか。怪我を負ったわけではないのなら、どうして血塗れだったのか。気になっていたことを問うと、シモンは「あぁ、それは…」と切り出して苦笑した。
「話せば長くなるんです…帰ったら、俺の長話を聞いてくれますか?」
「…!うん…わかった」
シモンの笑顔に何処か憂いが混じる。シモンがこういう笑い方をするのは、大抵何か大きなことに巻き込まれた後だ。
その『長話』というのは、きっととても重要で大切なものなのだろう。そう判断して、今は頷くだけに留めた。
「そういえば、俺が起きるまで待つって言ってましたけど…時間どれくらい経ちました?結構経っちゃいましたよね」
「うん?ううん。全然経ってない。馬車から戻ってきたのも、ついさっき。来てすぐにシモンがおきた」
「……え、そうなんですか?」
予想外、と言わんばかりに目を丸くするシモン。馬車に向かうべく進んでいた足も、心なしか速度が落ちたような気がする。
シモンが眠っていたのは本当に少しの間だけだったから、その反応は僕も予想外で思わずぴたりと固まる。
もしかすると、夢を見たから体感時間に引っ張られているのかもしれない。実際には十分しか経っていなかったとしても、夢の内容次第では体感時間が酷く長くなるから。
「こわい夢、とっても長かった?」
「怖い…夢?」
「こわい夢、見てたでしょ?うーって、魘されてた」
うーっと酸っぱい顔をして真似すると、シモンはたちまち眦をふにゃあと緩めて頬や頭を撫で回してくる。
瞳に柔らかい色を宿すと、やけに穏やかな声音で答えた。
「えぇ。とっても壮大で、心動かされる悪夢でした」
* * *
「あける、あけるよ、シモン。あけるよ?」
「やっぱり怖いんでしょフェリアル様。俺が開けますよ」
ぐぐぐ…と仰け反りながら馬車の扉に手を伸ばす。
指先がこつんと当たっている程度で開けられる訳がないけれど、流石に病み上がりのシモンをこき使っている自覚はあるので、最初の作業くらいは僕が遂行しなければいけない。
きゅっと目を瞑って「あけるよ」を連呼する僕に焦れたのか、シモンはくすくす笑いながら僕をひょいっと抱き上げた。
「僕…開けれるもん…」
「開けられますよね。もちろん分かってますよ。でも…今回は俺が開けたいんです、だめでしょうか?」
「うぅん…いいよ?特別ね」
特別。シモンがどうしても開けたいって言うから、特別。
決して怖いからどうぞという訳じゃなくて、どうしてもって言うから。お兄さんの僕は扉を開けるだけの流れに恐怖を抱いたりしないのだ。
でもシモンがどうしてもと言うから。
お兄さんの僕が特別に譲ってあげると、シモンは微笑ましいと言わんばかりの柔い笑みを浮かべて扉に手をかけた。何だか全て見透かされているみたいで擽ったい。
「開けますよ?いいですか?」
「う、うん…ぎゅって、ぎゅーするよ」
「ぎゅーしますよ?ずっとぎゅーしてます。ぎゅーしてるので、開けても大丈夫ですか?」
「うん。だいじょぶ」
むぎゅっとシモンに張り付いて準備完了。これも別に怖がっているわけじゃなくて、いざとなった時にシモンを守れるように盾になっているだけだ。
シモンがそーっと馬車の扉を開ける。むぎゅむぎゅ張り付きながら恐る恐る中を覗き込み、視界に映り込んだそれにシモンと同時に息を呑んだ。
「サムさん!!」
壁に身を預け、頭を抱えて座り込む一人の男性。
見慣れた茶髪のハーフアップは所々乱れていて、剣は鞘ごと身から遠ざけるように放られている。まるで武器に触れることを恐れているみたいに。
微かに体を震わせていたサムさんが、僕の声にピクッと反応してゆっくりと顔を上げる。そこにあったのは何か大きな衝動を堪えるような、酷い顔色。
思わず駆け寄ろうとしたシモンをサムさんの掠れた声が制止した。
「来るな!!下がれ…!」
震えの混じった、けれど切羽詰まった声。
あまりに切実な声音に足を止めたシモンが、がたがたと震えるサムさんをじっと見つめてハッと目を見開いた。
「魅了か…!」
魅了、という言葉に僕もぐっと息を呑む。
シモンは瞬く間に顔色を変えて、床に落ちていたサムさんの剣を拾い馬車から飛び降りるようにして退いた。扉を閉めようとした時、シモンの背後から突如伸びてきた手が閉じかけの扉をがしっと掴む。
突然現れた彼はサムさんを見てローズマダーの瞳を細め、硬直する僕達の更に後ろを振り返った。
「トラード。聖者の呪いだ、まだ完全じゃない」
「そんじゃ、まだ間に合うな。いっちょ人助けして恩売っちまうか」
ぽかんと口も目も開いて硬直する。
気配も前触れも一切なく現れた二人…暗殺者のローズとトラード。二人のうちトラードがシモンに視線を移し、何処からか取り出したナイフの切っ先を向けた。
「何を…!」
「あ、待て誤解すんなよ?別に殺り合おーって訳じゃないから!」
「は…?ならそのナイフは何ですか」
「血だよ血!血が欲しいの!あんたの血でそこのオニーサンの魅了解けるから!」
トラードに警戒の目を向けて後退るシモン。確かにトラードは口調や言葉に胡散臭い印象があるから、温厚なシモンが強い警戒を向けてしまうのも無理はない。
血で魅了が解ける、なんて。一度も聞いたことのない情報だ。とてつもなく重大な情報であることは理解出来るけれど、如何せんトラードが情報元というだけで信憑性が薄くなる。
シモンと揃ってじとーっとした視線を向けると、トラードは涙目でぷるぷる震えてくわっと叫んだ。
「何だよ!好意で助けてやろうとしてんのに!失礼じゃねぇか!?」
「おい黙れトラード…煩い、頭に響く」
「暴言吐くなよ傷付くだろうが!だったらお前が説明しろよバカ!!こいつら俺の話じゃ信用できないらしいから!!」
「馬鹿はお前だ。お前は笑顔も口調も語る言葉も、全部が一々胡散臭い。いつも言ってるだろうが」
「えっ…さ、流石にそこまで言わなくたって…」
容赦のないローズのばっさりした言葉にしょんぼりするトラード。
しゅんと縮まった体が何だか可哀そうだったから、ポケットに予備でいれていたレモン味の飴をそっと差し出してみた。
「うん…?なにこれ…」
「飴。おいしいの。元気でるよ」
「え…あ、ありがとう……え、ごめん…純粋な好意とか久しぶり過ぎて…」
「急に…涙が…」と目元を手で覆う姿に眉を下げる。
うぅん…何をしても胡散臭く見えるって、ここまでくると何かしらの才能のような気がしてきた。
「あの、血で解呪が可能とはどういうことですか?」
トラードが泣いていてもお構いなしに、シモンがおかしな空気を断ち切るようにしてピシャリと問い掛ける。
本当にトラードの事情については心底どうでもいいのか、ものすごく真顔だ。どうして二人がここにいるのかとか、そういう疑問を聞くのは後回しにするらしい。
へにゃ、と複雑そうに表情を崩したトラードが渋々といった様子で答えた。
「……理屈は分かんねーけどな。血縁者の血を飲むだけで、完全に刻まれる前の魅了なら簡単に解呪出来るんだよ」
649
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。