余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

132.フェリアルの逆鱗

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「フェリアル!」


 ふと背後からアディくんの声が届く。振り返ると、こっちに向かって走ってくる二つの人影が見えた。


「ふたりとも、どうしたの?」

「そりゃこっちのセリフだ!さっきから何バタバタして…って、なんか増えてんだが??」


 駆け寄って来たアディくんにがしっと肩を掴まれる。アディくんの視線が僕からローズに移ったことで、いつものお説教が始まることはなかった。

 友達に嘘をつくのは忍びないけれど、これも二人の安全のためだからと心を鬼にして嘘を吐く。
 偶然鉢合わせた知り合いの冒険者だよ、と答えると、アディくんは納得した様子で「そうだったのか」と頷いた。うぅ…心苦しい…。
 アディくんの斜め後ろに立っているアランの方を見ると、そっちは何故か真顔でじーっとローズを見つめていた。無言の圧にもしかしてと冷や汗を流していると、不意にアランがローズに問いを投げかける。


「ねぇ、どこかで会ったことある?」


 僕が言われたわけじゃないのにビクッと震えてしまう。ローズは至って冷静な態度で首を傾げた。


「いや、覚えは無いが」

「……そう。ごめん、僕の勘違いだったみたい」


 勘違い、と言いながら疑いの目を向け続けるアラン。ローズが無表情を保つ中、何故か僕がそわそわと緊張してしまった。
 アランの疑心を逸らすために、慌ててローズの前にさらりと移動する。


「ア、アディくん。ごめんね。僕、だいじな用事ができたから、もう帰らないと」

「は!?まだ来たばっかだろ!?」

「え…フェリアル、もう帰るの…?」


 何から先に手を付ければいいのかと考えて、とにかく状況を整理するためにも今回は帰らなければという結論に至った。
 一番気になるシモンの件もそうだし、サムさんが遭遇した聖者や、どうしてローズたちがここに来たのかということ。気になることが多すぎて、とてもゆっくりしていられる状況じゃない。
 せっかく久しぶりに遊びに来れたのにと寂しい気持ちはあるけれど、聖者が動いているのならそうも言っていられない。

 あたふたとアディくんに別れを告げると、アディくんだけでなくアランまでしょんぼり眉を下げた。
 特にアランの表情が本当に寂しそうだったから、慌てて駆け寄りぎゅうっと抱き締める。僕よりもほんの少し背の高いアランの頭をぽんぽん撫でてあげた。


「次は、僕のお邸であそぼう?アディくんとアランと、僕の三人であそぶの」

「……!ふぅん…まぁ、いいけど」


 頬を染めてぷいっとそっぽを向くアラン。アランは感情が表情に出やすいから、今も照れているのが明白で何だか微笑ましい。
 これは近い内に招待しないと、と思いながら体を離した。


「アディくん…アディくんも、今日はいろいろ、迷惑かけてごめんね」

「別に迷惑なんかじゃねぇよ。それよりお前…最近よく危ないことに巻き込まれてんだろ?厄介事に首突っ込んでるわけじゃねぇだろうな」

「だいじょぶ!とっても、平和」

「……そうかよ。まぁ、とにかく無茶はすんなよな」


 呆れ顔で溜め息を吐くアディくんにしっかりと頷く。
 アディくんは察しがいいから、僕の嘘なんてお見通しなんだろうけれど。それでも、僕が嘘を吐くという選択をしたところまで尊重してくれるのが、アディくんの優しさだから。

 帰ったら侯爵様にも謝罪のお手紙を送るね、と言うと、アディくんに「いらんわそんなもん」と一蹴されてしまった。





 * * *





「それで…誰から何を説明します?」


 帰りの馬車の中。僕とシモンが並んで座り、向かいにはローズとトラードが座っている。ちなみにサムさんはダンテさんの隣だ。

 シモンが声を上げると、ローズたち…主にトラードが顔を見合わせて「どうする?俺らから言っちまうか?」と何故かわくわくした様子で囁き始めた。
 この二人、さっきから現状をゲーム感覚で楽しんでいる気がする。自分たちが一応追われる身の暗殺者だってこと忘れているのかな。

 このままでは埒が明かないと判断したのか、シモンがひとつ溜め息を吐いて問いを変えた。


「いや、やっぱり止めましょう。質問するので、あなた達はそれに答えてくれますか?」

「ん?一問一答ゲームか?おっけー了解!」

「……」


 まずい。シモンの目がじわじわと死んできている。
 慌ててトラードに「まじめに!」と身振り手振りで伝えるけれど、僕の動きでは理解できなかったのか返って来たのはきょとん顔だけだった。


「はぁ…まぁいいです。では聞きますが、あなた達はどうして侯爵家に?まさか侯爵家の中にターゲットでも?」


 シモンの言葉にはっとした。そうか、あの場にいたってことは、二人は侯爵家に用があったということになるのか。
 面識があるからてっきり僕かシモンに会いに来たのかと思っていたけれど、そういえば二人は主に貴族の暗殺を仕事とする暗殺者なんだった。

 アディくんに手を出すつもりならゆるさないぞ、とじーっと二人を見つめると「ぷはっ!!」という笑い声が不意に飛び出した。


「何それ威嚇のつもり!?きゃわっ…!小動物じゃん…!」

「安心しろフェリアル。お前の友人に手を出すつもりはない。黒い貴族なら話は別になるが、侯爵家は紛れもなく白だからな」


 撫で回していい!?と目をギラギラさせるトラードから隠すように、シモンが僕を膝の上に抱き上げて後ろからむぎゅっと抱き締めた。
 やっぱりスキンシップが以前より激しくなっているような…いや、気のせいか。


「アディくん、傷つけちゃだめ。ローズ、約束」

「分かった。約束だ」


 シモンの膝に乗ったことで向かい合わせになったローズに小指を向ける。ローズはそれに躊躇なく小指を絡め、こくりと安易に頷いた。
 今までの経験上、ローズなら『これは例外』という行動が多いから、正直この約束はあまり期待出来ないけれど。


「フェリちゃんって優しいのなー。自分が狙われるのはいいのに、周りが傷付くのは嫌なんだ?」


 きゅっと指切りする僕を見て、トラードが不意にぽつりと呟いた。どこか含みのあるセリフが気になって視線を向けると、灰色の瞳がふと何かを思い出したように丸くなった。


「そういえば、俺フェリちゃんに謝ろうとしてたんだった。流石に反省しててさぁ…結局ローズとすれ違ってただけだったし、無駄なことしたなぁって」

「……?」

「ディランくん、だっけ。お兄さんの魅了騒ぎあったじゃん?あれさ、聖者に協力してディランくん刺したの、俺なんだよね」


 ローズが短い溜め息を吐いたのが横目に見えて、お腹に回ったシモンの腕にもぎゅっと力が籠った。
 トラードは申し訳なさそうに苦笑しながらも、どこか軽薄そうな色がまだ表情に残っている。

 頭が真っ白になって、理解の追い付かない脳内で必死にトラードの言葉を繰り返す。漸くその意味に追い付いた途端、真っ白だった感情にぐっと抑え切れない激情が混じった。

 そういえば、以前ローズがそんなことを言っていたなと不意に。
 ディラン兄様を奇襲したのがトラードである可能性…それを示唆されていたのに、色々あったせいで今の今まで忘れていた。
 あの日ディラン兄様を苦しめたのは、聖者だけじゃなかったのに。

 ディラン兄様は呪いの他に、別の手段で酷い怪我を負っていて…急所は全て外れていたものの、理不尽な痛みを味わったことには変わらなくて。
 ディラン兄様に苦痛を与えた犯人の一人が、今目の前にいる。




「………は…?」




 底の底から這うような、自分のものとは思えないくらい震えた低い声。
 そうだ、そういえばトラードはディラン兄様を傷付けた人なんだと。改めて思い知ると、底にあった黒い感情がじわじわと湧き上がった。

 空間が酷く凍てついた空気に満ちる。
 ローズの驚愕したような顔、そしてトラードが笑顔をひくっと引き攣らせたのが、やけに鮮明に見えた。

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