84 / 423
攻略対象file5:狡猾な魔塔主
132.フェリアルの逆鱗
しおりを挟む「フェリアル!」
ふと背後からアディくんの声が届く。振り返ると、こっちに向かって走ってくる二つの人影が見えた。
「ふたりとも、どうしたの?」
「そりゃこっちのセリフだ!さっきから何バタバタして…って、なんか増えてんだが??」
駆け寄って来たアディくんにがしっと肩を掴まれる。アディくんの視線が僕からローズに移ったことで、いつものお説教が始まることはなかった。
友達に嘘をつくのは忍びないけれど、これも二人の安全のためだからと心を鬼にして嘘を吐く。
偶然鉢合わせた知り合いの冒険者だよ、と答えると、アディくんは納得した様子で「そうだったのか」と頷いた。うぅ…心苦しい…。
アディくんの斜め後ろに立っているアランの方を見ると、そっちは何故か真顔でじーっとローズを見つめていた。無言の圧にもしかしてと冷や汗を流していると、不意にアランがローズに問いを投げかける。
「ねぇ、どこかで会ったことある?」
僕が言われたわけじゃないのにビクッと震えてしまう。ローズは至って冷静な態度で首を傾げた。
「いや、覚えは無いが」
「……そう。ごめん、僕の勘違いだったみたい」
勘違い、と言いながら疑いの目を向け続けるアラン。ローズが無表情を保つ中、何故か僕がそわそわと緊張してしまった。
アランの疑心を逸らすために、慌ててローズの前にさらりと移動する。
「ア、アディくん。ごめんね。僕、だいじな用事ができたから、もう帰らないと」
「は!?まだ来たばっかだろ!?」
「え…フェリアル、もう帰るの…?」
何から先に手を付ければいいのかと考えて、とにかく状況を整理するためにも今回は帰らなければという結論に至った。
一番気になるシモンの件もそうだし、サムさんが遭遇した聖者や、どうしてローズたちがここに来たのかということ。気になることが多すぎて、とてもゆっくりしていられる状況じゃない。
せっかく久しぶりに遊びに来れたのにと寂しい気持ちはあるけれど、聖者が動いているのならそうも言っていられない。
あたふたとアディくんに別れを告げると、アディくんだけでなくアランまでしょんぼり眉を下げた。
特にアランの表情が本当に寂しそうだったから、慌てて駆け寄りぎゅうっと抱き締める。僕よりもほんの少し背の高いアランの頭をぽんぽん撫でてあげた。
「次は、僕のお邸であそぼう?アディくんとアランと、僕の三人であそぶの」
「……!ふぅん…まぁ、いいけど」
頬を染めてぷいっとそっぽを向くアラン。アランは感情が表情に出やすいから、今も照れているのが明白で何だか微笑ましい。
これは近い内に招待しないと、と思いながら体を離した。
「アディくん…アディくんも、今日はいろいろ、迷惑かけてごめんね」
「別に迷惑なんかじゃねぇよ。それよりお前…最近よく危ないことに巻き込まれてんだろ?厄介事に首突っ込んでるわけじゃねぇだろうな」
「だいじょぶ!とっても、平和」
「……そうかよ。まぁ、とにかく無茶はすんなよな」
呆れ顔で溜め息を吐くアディくんにしっかりと頷く。
アディくんは察しがいいから、僕の嘘なんてお見通しなんだろうけれど。それでも、僕が嘘を吐くという選択をしたところまで尊重してくれるのが、アディくんの優しさだから。
帰ったら侯爵様にも謝罪のお手紙を送るね、と言うと、アディくんに「いらんわそんなもん」と一蹴されてしまった。
* * *
「それで…誰から何を説明します?」
帰りの馬車の中。僕とシモンが並んで座り、向かいにはローズとトラードが座っている。ちなみにサムさんはダンテさんの隣だ。
シモンが声を上げると、ローズたち…主にトラードが顔を見合わせて「どうする?俺らから言っちまうか?」と何故かわくわくした様子で囁き始めた。
この二人、さっきから現状をゲーム感覚で楽しんでいる気がする。自分たちが一応追われる身の暗殺者だってこと忘れているのかな。
このままでは埒が明かないと判断したのか、シモンがひとつ溜め息を吐いて問いを変えた。
「いや、やっぱり止めましょう。質問するので、あなた達はそれに答えてくれますか?」
「ん?一問一答ゲームか?おっけー了解!」
「……」
まずい。シモンの目がじわじわと死んできている。
慌ててトラードに「まじめに!」と身振り手振りで伝えるけれど、僕の動きでは理解できなかったのか返って来たのはきょとん顔だけだった。
「はぁ…まぁいいです。では聞きますが、あなた達はどうして侯爵家に?まさか侯爵家の中にターゲットでも?」
シモンの言葉にはっとした。そうか、あの場にいたってことは、二人は侯爵家に用があったということになるのか。
面識があるからてっきり僕かシモンに会いに来たのかと思っていたけれど、そういえば二人は主に貴族の暗殺を仕事とする暗殺者なんだった。
アディくんに手を出すつもりならゆるさないぞ、とじーっと二人を見つめると「ぷはっ!!」という笑い声が不意に飛び出した。
「何それ威嚇のつもり!?きゃわっ…!小動物じゃん…!」
「安心しろフェリアル。お前の友人に手を出すつもりはない。黒い貴族なら話は別になるが、侯爵家は紛れもなく白だからな」
撫で回していい!?と目をギラギラさせるトラードから隠すように、シモンが僕を膝の上に抱き上げて後ろからむぎゅっと抱き締めた。
やっぱりスキンシップが以前より激しくなっているような…いや、気のせいか。
「アディくん、傷つけちゃだめ。ローズ、約束」
「分かった。約束だ」
シモンの膝に乗ったことで向かい合わせになったローズに小指を向ける。ローズはそれに躊躇なく小指を絡め、こくりと安易に頷いた。
今までの経験上、ローズなら『これは例外』という行動が多いから、正直この約束はあまり期待出来ないけれど。
「フェリちゃんって優しいのなー。自分が狙われるのはいいのに、周りが傷付くのは嫌なんだ?」
きゅっと指切りする僕を見て、トラードが不意にぽつりと呟いた。どこか含みのあるセリフが気になって視線を向けると、灰色の瞳がふと何かを思い出したように丸くなった。
「そういえば、俺フェリちゃんに謝ろうとしてたんだった。流石に反省しててさぁ…結局ローズとすれ違ってただけだったし、無駄なことしたなぁって」
「……?」
「ディランくん、だっけ。お兄さんの魅了騒ぎあったじゃん?あれさ、聖者に協力してディランくん刺したの、俺なんだよね」
ローズが短い溜め息を吐いたのが横目に見えて、お腹に回ったシモンの腕にもぎゅっと力が籠った。
トラードは申し訳なさそうに苦笑しながらも、どこか軽薄そうな色がまだ表情に残っている。
頭が真っ白になって、理解の追い付かない脳内で必死にトラードの言葉を繰り返す。漸くその意味に追い付いた途端、真っ白だった感情にぐっと抑え切れない激情が混じった。
そういえば、以前ローズがそんなことを言っていたなと不意に。
ディラン兄様を奇襲したのがトラードである可能性…それを示唆されていたのに、色々あったせいで今の今まで忘れていた。
あの日ディラン兄様を苦しめたのは、聖者だけじゃなかったのに。
ディラン兄様は呪いの他に、別の手段で酷い怪我を負っていて…急所は全て外れていたものの、理不尽な痛みを味わったことには変わらなくて。
ディラン兄様に苦痛を与えた犯人の一人が、今目の前にいる。
「………は…?」
底の底から這うような、自分のものとは思えないくらい震えた低い声。
そうだ、そういえばトラードはディラン兄様を傷付けた人なんだと。改めて思い知ると、底にあった黒い感情がじわじわと湧き上がった。
空間が酷く凍てついた空気に満ちる。
ローズの驚愕したような顔、そしてトラードが笑顔をひくっと引き攣らせたのが、やけに鮮明に見えた。
794
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。