余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

143.好きが同じひと

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 大きさは僕より少し小さいくらいで、遠くから見れば本物の人間にしか見えない。精巧なフランス人形のような容姿のレアは、突然カッと目を見開いて声を上げた。
 レンの話でもしやとは思っていたけれど、まさか本当に人形が喋るなんて。ぱちくりと瞬き、無意識に硬直していた体を解く。


「わぁ、すてき。レアがお喋りしてる」

「失礼しちゃうわね!お人形だってお喋りくらいするわよ!ずーっと黙って他のお人形たちは退屈じゃないのかしら?」

「……レア。普通の人形は喋れないんだよ」

「あらそうだったわね!私をお喋りできるようにしてくれてありがとうレン!」


 ずずずっと紅茶を飲むレア。と言っても形だけで、カップの中には何も入っていない。
 レアは至って真剣にお茶会を楽しんでいるみたいだけれど、レンにとってはおままごとみたいな感覚なんだろうか。

 それにしてもすごいなぁ、人形がお喋りするなんて素敵だなぁと見惚れていると、レアが僕の視線に気が付いて照れくさそうにもじもじし始めた。


「あらやだ、私に見惚れているのかしら?見る目があって結構だけれど、私の身はレンに捧げるって決めているの!あなたはとっても可愛いと思うけれど、ごめんなさいね!」

「うん…?うん、大丈夫。レアはもっと可愛いもん、レンも大好きになっちゃうよ」

「まぁ…!お上手だこと!私あなたのこと好きよ!レンの次に好き!」

「うん。僕もレア好き。うれしい」


 かわいいなぁ、と胸がぽかぽか温まる。
 もしも僕に妹がいたら、こんな感じなのかな。自由奔放で言葉が全て真っ直ぐで、レアはとっても可愛い。レンのことが好きだと無邪気に語る姿もとっても微笑ましい。


「あら!そのクマちゃんはあなたのお友達?あなたのお友達なら仲良くしてあげてもいいわ!人形同士仲良くしましょうクマちゃん!……あら?どうして無視するのかしら!?」

「……レア。普通のぬいぐるみは喋れないんだよ」

「あらそうだったわね!私をお喋りできるようにしてくれてありがとうレン!」


 なんだか既視感を覚える会話だ。もしかするとレアは記憶するという思考が苦手なのかもしれない。
 分からないことはすぐに聞いて、分かったらお礼を言って、そしてまた忘れて聞いてお礼を言う。そういう動作がレアの真っ直ぐな性格を育てたのかな。お人形が成長するって、とっても素敵。


「でもやっぱり寂しいわ!私クマちゃんと喋ってみたい!あなたも喋ってみたいでしょう?」

「うん。喋れるなら、喋ってみたい」

「言ったわね!ほら聞いたでしょうレン!小さな子の夢はなるべく叶えてあげるものと絵本に書いてあったわ!さぁなんとかして!」

「……そうだね。丁度いい機会だし、さっきの魔石を試してみたらどうかな」


 クマくんとお喋りできたら…考えただけでわくわくする。
 本当にそんなことが出来るのかなとそわそわしていると、レンが僕の鞄を指さして小さく微笑んだ。その言葉にハッとして、鞄の中からさっきしまった魔石をひとつ取り出す。

 どきどきと高鳴る鼓動を抑えながら、魔石を摘まんでクマくんの前に差し出してみる。
 確かレンはさっきこうやって持って、そしたらレアが魔石を吸い込んで…。実際のレンの動きを再現してみるけれど、クマくんが起きる気配は一向にない。
 もしかして、クマくんは喋れないぬいぐるみなのかな…としょんぼりする僕を見て、レンは小さく首を傾げた。


「……ただ差し出すだけじゃ、お友達は起きてくれない。強く願って、魔石がその子の心臓になる状況をイメージするんだよ。なるべく詳細にイメージしないと、自我がきちんと覚醒しないからね」

「む、むずかしい…」

「……僕も初めは、歪な動きをするだけのお人形ばかり作っちゃったよ。お喋りするようなお人形が出来た時は、とっても嬉しかった。だから、フェリもイメージして」

「イメージ…?」

「……うん。想像してみて、クマくんが起きた瞬間のこと。その時のとっても嬉しい気持ちを想像して、それを強く願うの。そうしたら、必ずクマくんは起きてくれる」


 クマくんとお喋りしたときの、嬉しい気持ち。それを想像して、強く願う。
 強く願うというやり方は、僕の力の使い方とかなり似ている。願うということを意識すれば、クマくんは起きてくれるということか。
 それなら、もう失敗はしないはず。願うのは得意だから。


「うー…おきて、くまくんおきて…おしゃべりして…おねがい…おねがい…」

「文字通り願ってるわね!」

「……真っ直ぐな子だね」


 両手をぎゅっと合わせて、目をきゅっと瞑って、クマくんになむなむするみたいにお願いする。起きて、起きてってお願いすれば、優しいクマくんはきっと起きてくれる。そう願う。

 むーっとしばらく唸っていると、不意にぎゅっと合わせた手にもふもふした何かが触れた。


「あらまぁ!」

「……うん」


 楽しそうなレアの声と柔らかいレンの声。それと、肌に触れるもふもふ。もしかしてと期待を抱きながら瞑っていた目を開けると、そこにはどことなく光の宿った瞳があった。
 クマくんの黄色い石の瞳。それは真っ直ぐに僕を射抜いて、穏やかな色を含んでいた。


「くまくん…?」

「クマ!」

「くま?」

「クマ!クマくんだクマ!」


 くまくま、くま!と嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるクマくん。椅子から軽快に飛び降りて、部屋中を楽しそうにわーいと走り始める。
 その姿を呆然と見つめて、やがて実感が追い付いた直後。わっと滝みたいな涙が溢れて、あまりの感動と喜びにガタッと立ち上がってクマくんのもとへ駆け寄ってしまった。


「くまくんっ!!」

「クマ?クマ!?」

「くまくん…っ!!」


 走り回るクマくんをがしっと捕獲して、ぎゅーぎゅーと強く抱き締める。もふもふ撫で回したりうりうり頬擦りしたりと一通りクマくんを堪能して顔を上げると、クマくんはぐったりした様子で目を回していた。

 慌てて体を離して床に座らせ、あわあわと体を揺らす。


「ご、ごめんねクマくん…!ぎゅーしてごめんね…苦しかった…?」

「ぐぇ…大丈夫だクマ!元気いっぱいクマ!ぎゅー嬉しかったクマ!」


 へにゃりと潰れていた体をもこふわっ!と復活させてぴょんぴょん跳ねを再開するクマくん。元気な様子にほっと息を吐いて、ひとまずクマくんを抱き上げて席に戻る。
 お部屋の中で走りまわってごめんねと謝ると、二人は気にしないでと嬉しそうに首を振った。


「……よかったね。お友達とお喋り出来るようになって」

「うん…!レンのおかげ。レンありがとう」

「……どういたしまして。魔石はもう一つ渡したから、そっちは君が喋りたい人形やぬいぐるみに使うといいよ」


 僕が喋りたいぬいぐるみ…。
 喋りたい、仲良くなりたいと想像して、思い浮かぶぬいぐるみがひとりだけなことに苦笑した。ずーっと昔から、何度も思っていたことだから。
 一番最初のお友達。楽しくお喋り出来たら、きっと楽しいだろうなぁって。でも現実じゃありえないことだから、夢の中でたまに願いが叶うのを楽しみにして。

 そんな昔からの夢を、現実に出来る時が来たのだ。


「ありがとう…レン…」


 改めてお礼を言うと、レンは小さく笑んでこくりと頷いた。
 隣でごくごく紅茶を飲むような動きをするレアに視線を向けて「……いいよね」と何やら確認するレンに首を傾げる。


「もちろん合格よ!でもこれで終わりなんて早いわ!寂しいわ!やっぱり不合格にしようかしら!」

「……レア。何もこれで終わらなくても、また一緒に遊べばいいでしょ?」

「あらその手があったわね!フェリちゃんクマちゃん!また遊びに来ると約束するなら合格にしてあげてもいいわよ!」

「うん。僕も、またふたりと遊びたい」

「言ったわね!約束よ!約束は絶対なのよ!絶対また遊ぶのよ!」


 嬉しそうに同じ言葉を繰り返すレア。子供みたいでとっても可愛い。
 うんうんと頬を緩める僕を見下ろし、不意にレンが小さく耳打ちしてきた。大きな声で独り言を語るレアには絶対に聞こえないくらい、小さな声で。


「……フェリ。ありがとう」

「…?どうして、ありがとう?」


 突然のお礼にきょとんとすると、レンは伏し目がちの儚げな様子で小さく語る。どこか寂しそうに、けれど達観したように。


「……悪く言えば、僕はただの人形使いだから。喋る人形なんて、本当は不気味な恐怖の対象でしかないんだ。だから、僕はずっと気味悪がられてきた」


 その話を聞いて初めて思い至る。そうか、喋る人形やぬいぐるみを不気味だと思う人もいるのか、と。

 僕はずっとぬいぐるみと喋りたいという夢を持っていたけれど、そうでない人だって当然存在する。
 僕は虫が少し苦手だから、例えば虫が喋って近付いてきたら、さーっと青褪めて硬直してしまうかもしれない。喋る人形を不気味だと感じる人も、きっとそういう感覚なのだろう。

 でも…そうだ。自分の大好きなものを不気味だと嫌悪されるのは、誰だって辛いことのはずだ。
 レンは、そういうものとずっと戦ってきたのだろう。レアが、人形が大好きだから、逃げることも出来ずにずっと一人で。


「レン。いいこいいこ」

「……?…フェリ…?」


 よしよしと頭を撫でてあげる。年齢はレンの方がお兄さんだけれど、心は僕の方がお兄さんだ。お兄さんだ、と少なくとも僕は思っている。


「僕は、レアのお喋り大好き。クマくんも大好き。もちろん、レンも好き。僕とレンは、好きがおなじ。だから、レンはひとりじゃない」


 レンの眠そうな目が大きく見開かれる。かと思うとそれは泣きそうに少し歪んで、そして不格好な笑顔を作った。



「……同じ好きを持つ人が、フェリでよかった」


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