101 / 423
攻略対象file5:狡猾な魔塔主
149.魂の寿命(ルドルフside)
しおりを挟む「回帰…いや、似た人生をもう一度繰り返している、ということか…」
侍従の話をざっと纏めてしまうなら、回帰したというよりも似た人生を繰り返したと言った方が正しいだろう。女神が何か企んでいることは分かっていたが、まさかそれ程までに大きな事件を起こそうとしていたなんて。
全ての人間に愛される加護…いや、呪い。
その呪いを分身とも言える聖者に刻み、人間界に降り、そして全ての人間を神の力によって魅了する。言ってしまえば、洗脳だ。
侍従が推測するには、聖者の目的はリベラ様への嫌がらせの一種に過ぎないということだが…それにしては、行動があまりに壮大過ぎる気も否めない。
特にフェリへの憎悪が度を越している。いくらリベラ様の愛し子だからとはいえ、リベラ様の時は一度邪神に堕としただけで満足していたというのに、フェリに対する迫害と呪いの威力が強力という次元を超越しているのだ。
「ふむ…これは仮定を一から整理する必要があるかもしれんの…」
師匠のぽつりとした呟きに小さく頷く。師匠以外にこの世界の前世を記憶している人間が現れたのだ、直ぐにでも情報を侍従と共に整理して、新たに知った真実を纏めなければ。
そう思い侍従に視線を向けてはっと息を呑む。
目を見開いて硬直する侍従の視線の先には、ぽろぽろと大粒の涙をゆっくりと流すフェリが静かに侍従を見つめていた。
「フェリアル様…や、やっぱり俺を軽蔑しましたか…しましたよね…俺がフェリアル様とご家族の仲を引き裂いたも同然で…──」
震える声を不意に遮ったのは案の定、侍従の胸に飛び込んだフェリだった。
フェリは侍従の胸にうりうりと頬擦りすると、その顔をばっと見上げて侍従をじっと射抜く。涙に濡れた頬はふっくらしていて、今触ればあまりにぷるぷるな触り心地に力が抜けてしまうだろう。
「し…し、し…しもんっ…っうぅ…ぁ…」
ぽろぽろと伝う涙は留まることを知らない。
小さな少年が号泣する場面に居合わせるのは僕も師匠も初めてなものだから、二人揃って無様にも動揺することしか出来ない。
そんな中、暗い瞳に光を灯した侍従だけは、当然のようにフェリを抱き上げて背中を撫で始めた。
「ごめんなさい…俺の罪があまりに惨くて、怖かったですよね…失望、しましたよね…ごめんなさい…ごめんなさいフェリアル様…」
心からの懺悔だと傍から聞いていても分かる。それだけ誠実で、悲痛と自己嫌悪に塗れた声音。
フェリは涙に濡れた顔をふるふると横に振って「ちがう…ちがうの…っ」と号泣しながら語り、嗚咽で体を震わせながら侍従の肩に顔を埋めた。
それをこんな状況だというのに愛おしげな眼で見つめる侍従。初めて姿を見た時からこの男の並外れた忠誠心には気付いていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。
これ程までに他者へ忠誠を誓える人間…王の近衛や神ですら至れない領域なのではとさえ思った。
「しもん…しもんっ…」
「えぇ。ちゃんとここにいますよ。侮蔑するなり屠るなり、フェリアル様のお好きになさってください」
浮かぶ微笑みは優しいが、セリフはあまりに惨い。
フェリに見放されることが何よりの苦痛で、絶望だろうに。あぁ、でも。この男にとってはきっと、フェリから与えられるものなら苦痛でも絶望でも、幸福に過ぎないのだろう。そんなことをふと思った。
「ちがっ…ちがうのっ…ぼくも…ぼくもなの…シモンはわるくないの…っ」
「……フェリアル様、も…?」
僕も、という言葉が一体何を指すのか。まさかと思い振り返ると、案の定師匠は全てを見透かしたような瞳で静かに二人を見据えていた。
神の目と呼ばれる瞳を持っているだけあり、どうやらフェリのこともとっくに分かっていたらしい。初めてフェリに出会った時に異常なほどの興味を示したのはこういうことだったのか。
「ぼく…っ、僕、やっとわかった…神様がいってたこと、ぜんぶ思い出した…やっとわかったの……」
神様が言っていたこと。フェリはやはり、直接リベラ様にお会いしたことがある。
それは神託だ。聖者が神殿で女神の神託を受け取ることと同じ。
神託を聞くことが出来るのはその神の愛し子だけ。師匠が話していた通り、フェリがリベラ様の愛し子であることは間違い無さそうだ。
「フェリアル様……落ち着いて…どうしてそんなに……」
発作のような嗚咽さえ漏らしながら号泣するフェリを、侍従は困惑と動揺が滲んだ表情で抱き締める。
フェリが号泣することはあまり無いのだろうか。一向に泣き止む気配のないフェリに対し、侍従の動揺と心配は増す一方に見えた。
「師匠……フェリの様子がおかしい気が……」
「無理もない。許容外の情報を取り込めば誰でも混乱する。それが受け入れ難い真実であれば尚更」
やはり師匠は全てを理解している様子で淡々と語る。
この人には一体何処まで見えているのだろう。限りなく近付いたと思っていたが、まだまだ師匠の領域に達するまでは遠いようだ。
師匠や侍従のように前世を記憶している人間は稀に存在するようだが、残念なことに僕は前世の記憶を持っていない。
いつまで経っても師匠の領域に至れないのは、そこのハンデがあることも大きいだろう。
「どうやら……今はまともに話が出来る状況では無いらしいの。あらゆる運命が変化している今、既に魂の寿命が尽きているこの子には少しの負荷も毒になる」
「……待って下さい、魂の寿命って?」
師匠の言葉にふと違和感を覚えたのは、どうやら僕だけではなかったらしい。侍従は嫌な予感を抱えるような表情で、フェリを抱く手を確かに強めた。
魂の寿命……肉体に寿命があるように、魂にもまた限界がある。花はいつか必ず枯れるように、命はいつか必ず尽きるように。
魂も長い輪廻の中で消耗し、錆びて枯れて、やがて消滅する。
魂の寿命は数千年とも数万年とも呼ばれていて、それは個々の魂によって大きく異なる。およそ百回程の輪廻を繰り返せば限界が訪れて消滅するらしい。
師匠が言う『既に魂の寿命が尽きている』という言葉がその通りの真実なら、フェリは既に百回程も輪廻を繰り返していることになる。
「その子の魂は透明の色をしておる……本来ならば既に存在しない、消滅した魂ということ。今はマーテルの呪いによって強制的に魂を持続させられているだけに過ぎぬ」
「それは、つまり……」
フェリは既に数千年の輪廻を経験していて、それによって限界を迎えた魂が一度消滅しかけた。
だがマーテルによる何らかの呪いの強制力で、魂はマーテルに縛られ消滅を許さない状況に置かれている。ただ、マーテルが繋ぎ止めているだけで。
だとすれば、マーテルが消えればフェリはどうなるのか。その答えは明白だ。
「マーテルが消滅すれば…マーテルの呪いによって形を保っているフェリアル様の魂も、同時に消滅してしまうと……?」
掠れた声で紡がれた侍従の問いに、師匠は一つ小さく頷いた。
いつの間にか泣き疲れて眠ってしまっていたフェリを見下ろす侍従の瞳には、一体どんな色が滲んでいるのか。
結局、俯いてしまった彼の瞳を読むことは出来なかった。
673
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。