余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

151.その頃の暗殺者と大公子(ライネスside)

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「クマー!!ご主人様―!!酷いクマー!!」

「……おい、なんだこのクマは。新種か?金になるか?」

「いや、どう見てもぬいぐるみだよね…」

「えーなになに、きゃわっ!てかぬいが喋ってんだが!?」


 シュタイン領にある孤児院。そこでローズ達が偶然見つけ出したという魅了の解呪法を詳しく調べる為、その孤児院に訪れていた時のことだった。

 突如視界が光に包まれたかと思えば、何故か目の前に魔法陣が描かれ誰かが転移してきた。それはやけに可愛らしい黒色の服で全身を纏った美麗な青年と……まさかの、喋るぬいぐるみ。
 さっきから「酷いクマ!」だの「捨てられたクマ!」だのと涙の流れない瞳を手で覆って号泣するクマ…のぬいぐるみ。理解が追い付かない。カオスだ。


「……ごめんねクマくん。僕、転移は苦手で。魔石作りしか能が無くて本当にごめんね」

「わーんわーんクマ!!酷いクマ!ご主人様に捨てられたクマー!!」

「……捨てたわけじゃないよ。フェリが倒れて皆バタバタしてたから、侍従の彼がちょっとだけ忘れちゃったんだと思う」

「酷いクマ!先輩酷いクマ!!」


 再びわーんわーんと泣き始めるクマ。一体どうしたものか…。

 それにしてもこの青年。今フェリの名を紡いだような。いや、彼は見たことが無いから気のせいだろうか。フェリはあれで交友関係は意外と狭いから、私の知らないフェリの知り合いがいるはずがない。
 そもそも、フェリの交友関係は常日頃から諜報員を雇って把握済みだ。知らないのなら他人だろう。

 なんて考える私の悠長な思考は、無表情をぴくりと歪めたローズの言葉によって焦燥に変わった。


「なんだお前。魔塔の人間か。それはフェリアルの所有物か?」


 ……魔塔?というか、やっぱり今フェリアルって…。
 一人眉を寄せる私のことは完全スルーで、ローズは一瞥をくれることもなく青年に視線を固定した。


「……君、フェリの知り合い?僕はフェリの友達でヴァレンティ。この子もフェリの友達で、クマのクマくんだよ」

「クマ!?ご主人様を知る第一村人発見だクマ!さっさとご主人様の居場所を言うクマ!はやくはやくクマ!」

「……何だこのクマ。ウザいな。喧しい」

「クマッ!?ガーンクマ!!」


 ぬいぐるみにさえ容赦が無いローズの様子に少しだけ冷静さを取り戻した。そうだ、焦ることはない。ここは順番に状況を整理して…。


「え、てか待って?なんでぬいが喋ってんのか教えてよ!超気になるんだが!?」


「トラード…ッ!!」


 彼は…いや、彼らは本当に自由だ。こんな時でさえ協調性がゼロ、逆に尊敬してしまう。
 思わず名を叫んで止めるが、振り返ったトラードは不思議そうに首を傾げて笑顔を浮かべている。きょとんじゃない。きょとんってしてる場合じゃないから、たぶん。


「……魔石を使っているんだよ。僕しか作れない、特別な魔石」

「へぇそうなんだ!すげぇなアンタ!可愛いカッコしてやること天才じゃん!」

「なるほど。魔石に宿した特殊な魔力で、ぬいぐるみの中にある微弱な魔力を無理やり増幅させている…と。素晴らしい技術だ」


 まずい。圧倒的ツッコミ役不足だ。私だけではとても纏めきれない。

 こういう時にシモンが居てくれれば…と一瞬思ったが直ぐに思い直した。彼は状況次第でとんでもないボケに回る人物だ。逆にこの場に居なくてよかったとすら思ってしまった。


「ちょっと落ち着こう皆。彼がフェリの友人なら、どうして突然私達の元に現れたのか説明してもらわないと。世間話はその後だよ」

「ちぇっ、お貴族様は真面目だなー」

「真面目とか貴族だからとかじゃなくて、当然の疑問だから…」


 普通突然クマのぬいぐるみが目の前に転移してきて、あまつさえ流暢に人の言葉を喋り始めたら動揺するだろう。逆に第一にそこが気にならない人間の方が何処か狂っているはずだ。
 だがこの場ではどうやら私しか動揺していないらしい。全員状況を楽しんでいるように見えるが…まさか私の感覚が間違っている、のか…?

 いや、落ち着けそんなことはない。暗殺者の感覚が常識なら、今頃とっくに世の均衡やら何やらが大きく崩壊しているはずだ。


「……驚かせてしまってごめんなさい。説明も無しにだらだらと喋って、迷惑だったよね。幼少期から浮いていて友達なんてものとは無縁の人生だったから、人との接し方が分からなくて」

「え、あ…そ、そうなんだ…」


 そんなことを言われたら責めるものも責められないじゃないか…。全くなんて知的な青年なのだろう。小賢しい、と言った方が正しいだろうか。

 このおかしな青年とフェリが友達…どうしよう、妙に納得してしまう自分がいる。
 喋るぬいぐるみというのはこの年になると中々不気味に思えてしまうが、恐らくフェリはそうは思わないだろう。むしろ人形やぬいぐるみが喋るなど、フェリにとっては夢のような状況に違いない。
 フェリの周囲には無駄に才能や権力を持った変人ばかり集まるが、この青年も見たところかなりの変人だ。


「……実は、この子はフェリの忘れ物なんだ。届けようと思って転移陣を展開したんだけど、行き先の設定にやっぱり無理があったみたいで」

「行き先の設定?」

「……うん。この飴の微弱な魔力を陣に捧げて、一番近くにいる、この飴を沢山持つ人って設定した。一つなら兎も角、沢山だから間違わないと思ったんだけど…」


 そう言って青年は、見覚えのありすぎるレモン味の飴をすっと取り出した。それを見て「あ……」と思わず声を漏らし、懐からずっしりとした小袋を取り出して中身を掲げてみせる。


「ごめん、それ私のせいかもしれない。その飴、いつも貰ったら大切に集めて取って置いてるから」

「いや何で集めてんだよ!?食えよ!」


 トレードの思わずといったツッコミに首を傾げる。
 勿論、いつかは私の胃の中に消えてしまう。けれどせめてそれまでは、フェリの匂いや優しさを存分に楽しむことが出来るこの飴をお守りの如く大切に持っていよう。
 そう思ったのだ。そう思っての行動なのだ。何らおかしなことは無い。


「ごめんね。お詫びにそのぬいぐるみは、私が責任を持ってフェリに返しに行ってあげるから。安心して」


 笑顔で手を差し出す。青年は一度戸惑った様子を見せて、恐る恐るといった様子で私の手にぬいぐるみを乗せた。

 そわそわと忙しなく体を揺らすぬいぐるみは正直不気味だけれど、まぁ、慣れれば気にならなくなるだろう。
 それにこの子はフェリのもの。大切に、丁重に扱わないと、ぬいぐるみにさえ慈愛を向けるフェリが悲しんでしまう。


「ふむ……ぬいぐるみはどうでも良く、ただフェリアルに会いたいだけと見た」

「正解」


 背後で失礼なクイズ大会を繰り広げる二人は無視して、早速フェリの元へ向かう準備を始めた。

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