余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
110 / 423
攻略対象file5:狡猾な魔塔主

158.始まりの少し前

しおりを挟む
 

「それじゃあ、僕は魔塔に戻るよ。何かあったらいつでも来て。フェリならいつでも入れるようにしておくから」

「うん。ありがと」


 一通りの話を聞き終えた後、懐中時計を確認したルルが忙しない様子でその場を後にした。どうやら忙しい中時間を作って来てくれていたらしい。
 今度魔塔に行ったら、そんな大変な状況のなか呑気に眠ってしまったことを正式に謝罪しにいかないと。なんて思いながら静寂の広がった庭園を一度ちらりと眺め、シモンを見上げた。


「シモン」

「はい。どうしました?」


 いつの間に移動したのか、腕にぴとりとくっつくウサくんを気にした様子もなく、シモンは冷静に微笑みを返してきた。

 その様子を見て、単純に困惑が湧き上がる。どうしてウサくんがぴとりとシモンの腕に抱き着いているのだろう。まるで普段、コアラみたいな体勢でシモンにくっつく僕みたいだ。
 類は友を呼ぶというし、ウサくんのこういうところは僕に似たのかな。そんな考えをあっさり通して納得した。


「シモン。一度目のこと…ほんとにみんなに言っちゃったの?ライネスにも…レオやローズにも…?」


 よく今日一日で全員に伝えることが出来たものだ。
 そんなことを思い首を傾げると、シモンは「あぁ…」と思い返すように少し斜めを見上げるようにして頷いた。


「ちょうど学園のお三方が邸に訪れて…公子やローズも、偶然同じタイミングでクマさんを届けにきたもので。これは丁度いい機会では?と思って」


 ちょうど兄様達とレオが帰ってきて、それだけでは留まらずライネスやローズもやってきた…?
 なんというミラクルだろうか。前回のことを周知させろ、手に入れた情報を伝え合えと言わんばかりの奇跡だ。
 それにしてもクマくんが何だって?と思いながらも思考を逸らす。クマくんはあとだ、それよりも今は考えなければならない重要なことがたくさんある。


「いっかい、みんなで集合する」

「えぇ。俺もそれが良いと思います。情報を纏める為にも。…それに、彼らにも覚悟を決める時間が必要でしょうし」


 覚悟。僕やシモンがしたみたいな、今世を変える覚悟。
 前世の悲劇を突然告げられ、更に今世を背負う覚悟まで背負わせる。考えてみれば、僕はみんなにかなりの重荷を押し付けてしまっているような…。

 いや、それも聞いてみないと分からない。
 シモンが話してしまったものはもう仕方がないのだから、あとはみんなの結論と気持ち次第。それまでは、どんな口出しもするべきではないだろう。
 僕とみんなが考える幸福は違う。気持ちも違う。押し付けはダメ、押し付けはダメ…と考えていると、不意に視界がぐらぐら揺れ始めた。


「む……?」

「あぁフェリアル様。流石に限界ですか」


 嬉々とした声が聞こえたかと思うと、こくりこくりとする僕をシモンが突然軽々と抱き上げた。
 急になにを、と思ったけれど、おかしなことに体が全く思うように動かない。シモンに全体重をぐでーんと乗せながら、うとうとする瞼を必死に押し上げる。


「いつもならおやすみの時間なのに、とっくに過ぎてますもんね。眠いですよね。いいですよここで眠って。俺がぽんぽんして運んであげますから」


 ぽんぽん、ぽんぽん。
 背中を優しく撫でられ、まんまと眠気は酷くなっていく。
 むにゃむにゃと開いたり閉じたりする口が、知らず知らずのうちにシモンの首元をはむはむとしていることには気付かなかった。如何せん、眠気が脳の八割を既に占拠してしまっていたものだから。


「う、う、うわー…!食べられてる…!きゃ、きゃわっ!是非ともそのまま骨まで食らってくださいフェリアル様…!!」


 何やら静かに悶絶するシモンには何となく気付いたけれど、最後はやっぱり眠気に逆らえなかった。


「む…くっきー…むにゃ…はむはむ…」


 起きてる。起きてるよ。ぜんぜん、眠気に負けたわけじゃ……って、あれ…クッキーだ。
 さっき話のあとにもぐもぐしたはずの、ルルのクッキー。どうしてこんなところにあるんだろう…あれ、こんなところって…僕いま、どこにいるんだっけ?

 まぁいいや、クッキー食べよう。なんて思いながらあむあむ食べている途中、なぜか耳元では絶えず何かを堪えるような呻き声が響き続けていた。





 ───
『攻略対象file5:狡猾な魔塔主』章完結

 次章に続きます
しおりを挟む
感想 1,721

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。