余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

閑話.フェリアルまっちょ化計画!(終)

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「本当に大丈夫ですか…?転びませんか…?蝶々追いかけませんか…?」

「大丈夫。ころばない。蝶さんおっかけない」

「うぅ…不安です…心配です…」


 とっても心配そうなシモンをよしよしと撫でて、さっき話し合って決めた訓練内容を実行すべく動き出した。

 訓練所をぐるっと一周。サムさんは僕の緊張を解すためなのか「本当は百周くらい余裕でするんですけどね~」と面白い冗談を言ってくれた。

 とにもかくにも、まずは体力づくり。体力が絶望的な状態では、模擬戦闘どころかまともに剣を振るうことも出来ないらしい。
 僕には僕専用の聖剣、きのくんがいるけれど、実践となるときのくんは少し危うい。きのくんだとすぐに叩き切られてしまうらしいから、実戦用の第二の相棒と出会うべく体力づくりに励もうという心意気。

 きのくんはシモンに預け、ぐるっと一周のスタート地点に立つ。
 準備おっけーとサムさんにキリリッとした顔を向けると、微かに心配の色を滲ませた顔でサムさんがこくっと頷いた。


「それじゃあ行きますよー。はい、よーい…」


 どん!!という声と共に走り出す。しゅばばーっと光の速さで駆け抜ける僕を見て、サムさんとシモンが何やら戦慄の表情を浮かべた。


「え……お、おそ…っんん、こほんッ。きゃわわですフェリアル様!頑張ってください!」

「絶望的に運動のセンスが無いな……」


 走るのに必死だから声は聞こえないけれど、きっと僕のあまりの速さに感動しているのだと思う。
 えっへんと上機嫌に足を動かし、二人がすごいすごいと褒めてくれる様を想像しながらゴールに急いだ。

 とたとた、とたとた。
 風を切るようによいしょよいしょと走り、一周の半分を過ぎた頃。やがて近くなってきた二人の姿、そしてシモンの「フェリアル様!もう少しです!」という励ましに、ほんの一瞬ふっと気が緩んでしまった。
 やったやった、もうちょっとだ。そんな呑気な気の緩みを見せた途端、突然視界がぐらりと傾いた。一瞬時が止まったような感覚の後、ずてんっ!という鈍い音が遅れて聞こえる。


「わぷっ…!」

「フェリアルさまぁぁ!!」


 すってんころりん。足を滑らせてするっと傾いた体は、顔から勢いよく地面に倒れた。

 手も足も伸ばしてちーんと倒れる僕…を見て驚愕と絶望の入り混じった声を上げるシモン。ドタドタと獣のような足音が轟いたかと思うと、がしっと体を掴まれて抱き起された。
 ぐるんっと回った視界に映り込んだのは、目を大きく見開いたシモンの顔。いつもより丸く大きくなって見えやすくなった瞳には、おでこと膝からつつーっと血を流した僕の姿が映っている。

 わぁ、怪我しちゃったなぁ。まだ状況把握の追い付かない頭でそんなことをふわふわ考えていると、目の前にあるシモンの表情があわわわ…!と絶望一色に滲んだ。
 例えるなら、ムンクの叫びみたいな顔。


「あ…あぁ、あぁぁ…!!フェリアル様のお顔が…!可愛い可愛いご尊顔がぁぁ!!」

「シモン。おちついて。だいじょぶだから」

「ぐあぁぁ!!」


 ど、どうしよう。シモンが狂ってしまった。完全に自我を見失っている…。

 ぐあー!と叫びながら時折涙すら浮かべるシモン。正直、ほんのちょっとだけ怖い。
 とっても悲しそうなシモンを見ると僕まで何だか悲しくなってきて、潤んだ瞳と震える声で「なかないで…シモン、いいこいいこ…」と頭をなでなでする。
 おでこからたらーっと伝ってくる生暖かい感触を気にも留めず撫で続けていると、ふいに近付いてきたサムさんが僕の横に膝をついた。

 僕のおでこに指を当ててじーっと何かを確認すると、やがてほっとしたように息を吐く。


「傷は浅いみたいですね。手当てすればすぐに治りますよ」


 膝の傷も同じように確認して頷くサムさん。どうやら転んで出来てしまった傷は、全て大した怪我ではないらしい。

 よかったよかったと安堵して、ぎゅーっと僕に抱き着くシモンをむぎゅぎゅっと抱き締める。だいじょぶだよーと教えてあげると、目元を真っ赤に腫らしたシモンがぶわっと号泣し始めた。


「うぅ…よかった…よかった…重傷だったら今頃腹を切っているところでした…」

「……うん?おなか、きる…?」

「えぇ。責任とけじめをつけないと。あ、腹の前に指ですよね。はは、すみません」

「……」


 シモンがやーさんみたいなことを言っている…。
 現代だったら真っ黒いスーツに拳銃を忍ばせているんだろうなぁ…とえらく細かい描写まで浮かぶくらいには、今のシモンのやーさんっぷりが本物に見えた。

 指は大事だから切っちゃだめだよ、と念のために約束しておく。
 僕が転ぶ度にシモンの指が危機に瀕するなんて、僕の方がまともに出歩けなくなりそうだ。


「うぅん…」

「フェリアル様?どうしました?そんな可愛い顔をして……う…ぐぅ、可愛いお顔が…っ」


 ぐぬぬ…と苦い顔をするシモンに、ふと湧き上がった気持ちをそのまま伝えた。


「僕…やっぱり剣術やめる」

「えっ、ど、どうしてですか…?」

「シモンの指と、おなかと命、ぜんぶとっても大切だから…」

「っ…!フェリアル様…!!」


 剣術をして強くなったとしても、守りたいみんなのことを守れないんじゃ意味が無い。
 それには当然シモンも含まれているから、シモンがぼろぼろになってしまうなら、無理に剣術を習う必要は無いのではと思えてきた。

 ぱあっと嬉しそうに顔を輝かせるシモンをなでなでして、サムさんの方を静かに振り返る。
 しゅん……と肩を落としながら、ごめんなさいと頭を下げた。


「サムさん。ごめんなさい。わがままいっぱい……」

「良いんですよ。挑戦して、合わないなと分かったんですからそれで十分です。フェリアル様はよく頑張りましたよ」


 えらいえらい、とよしよし撫でられて目頭が熱くなる。
 僕の急なわがままに巻き込まれたというのに、サムさんの表情はとっても優しくて温かい。こういうところはシモンそっくりだ。

 泣いて感覚が機敏になったせいか、不意に膝と額がじくじく痛み出す。
 それほど大きな怪我ではないし、むしろ小さな傷だけれど、それでもなぜか鈍く痛んだ。

 無言で瞳をうるうるにして、唇をきゅっと引き結んで。ぽろぽろと大粒の涙を零す僕を見た二人は、一瞬ぎょっとしながらも直ぐに僕を抱えて立ち上がった。
 抱き上げたのはシモン。心が落ち着く甘い匂いが首元から漂って、すんすんすると体からふわぁっと力が抜けた。


「大変です副団長!フェリアル様は泣くと破壊級に可愛くなってしまう体質を持っているんです!早くしないと尊死しますよ!」

「何言ってんだ馬鹿……と言いたい所だけど確かにマズいな。可愛すぎる」


 シモンの首にすりすりと顔を擦り寄せる。
 ふと顔を離すと、首に真っ赤なそれがついてしまっていることに気がついてあわあわ慌てた。
 大変。シモンの首に血をつけちゃった。慌てて手でごしごししてみるけれど、血は拭うどころか更に広がってしまう。


「あわ、あわわ……」


 あまりに混乱していたから、頭上で繰り広げられる二人の会話は当然聞こえなかった。


「え…な、なんか…マーキングされてるんですが……」

「シモンは僕のもの~ってことじゃないか?良かったな」

「ぐぇっ!そ、そんな!俺はとっくにフェリアル様のものなのに……ぐへ、ぐへへ」

「変態出てるぞ」


 慌ただしくどたどたと、訓練所内にある医務室へ向かう。

 その後はひたすら額と膝を手当てして、ガーゼやら包帯やらで何だか痛々しい姿になった僕を、シモンが大袈裟すぎるくらいに心配してくれた。
 見た目はこんなだけれど、傷自体は小さくて浅いので何も心配はいらない。
 それでも、シモンを不安にさせてしまったことには少し心が痛んだ。

 よしよし、とシモンをなでなでして、何か元気になることを……と考えてみる。


「シモン。おやつ、チーズケーキがいい」

「……!勿論です!スペシャル仕様のチーズケーキをご用意させていただきます!」


 今日のおやつの時間。何にしようかなと悩んで答えを口にすると、シモンは嬉しそうに頷いた。


「シモンも、いっしょにたべるの」

「一緒ですか!やったぁ!」

「サムさんもいっしょ。迷惑かけたから、おわび」

「副団長も一緒ですか……やったぁ」

「あからさまに棒読みになるのやめろ」


 ぺしっとシモンをひっぱたくサムさん。二人の様子をほわほわと眺めて、やっぱりいつも通りが一番だと頷いた。

 分かりにくい強さは無いけれど、僕は剣術で得られるものとは別の力で強くなろう。そうして、その別の力でみんなを守るのだ。
 名案にこくこく頷いて、それがいいと納得した。


「きのくんにも、お水あげる」

「そうですねっ!聖剣様にもおやつをあげましょう!」

「え……木の枝にまで慈愛を……?」

「木の枝じゃないです聖剣きの様です!」

「あ、そ、そうか……」


 僕の代わりにぷんすかしてくれたシモンにむぎゅっと抱きつく。
 シモンは出会ったばかりのきのくんのことも大切な仲間として認識してくれるみたいだ。うれしい。


「またすってんころりんしたら駄目なので、邸までは抱っこで行きましょうね」

「うむ。ぎゅ」

「はぅ…きゃわすぎ…。ぎゅ、しましょうねっ。ぎゅーっ」


 ぎゅっと抱っこでよしよしされる。
 思っていた一日とは大分違う展開になってしまったけれど、シモンとサムさんと僕、そしてきのくんの四人でチーズケーキをもぐもぐ出来るようになったから良しとしよう。

 ふわふわと満足気な僕を見下ろし、シモンはまるで自分事を喜ぶかのように、ふにゃあっと嬉しそうな笑顔を浮かべた。

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