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【聖者の薔薇園-プロローグ】
160.もふもふと来客
しおりを挟むうとうと。ベッドに座って本を読んでいると、ふと頭がこくりと揺れ始めた。
熱も大分下がってきた日のお昼時。冬と春の間みたいな、ちょうどいいぽかぽかが眠気を誘う。ふるふると慌てて首を振り、重い瞼をかっと開いた。
今、物語はとっても良いところに突入したばかり。
騎士様が敵をばったばったとやっつけて、ついに囚われのお姫様のもとに辿り着いた。ここまでたくさんの困難が騎士様を阻んだから、感動と喜びが絶えることなく湧いてくる。
もうちょっとだ、がんばれーと応援しながらも、僕も敵…眠気に必死に対抗する。騎士様が頑張っているのだから、僕も頑張ってこの壁を乗り越えるのだ。
むむ…とページを必死に捲っていると、ふいに部屋の扉がこんこんとノックされた。
ノックすると同時に問答無用で入ってくる様子がないから、来客はどうやらシモンではないらしい。兄様たちはそもそもノックをしないから別として。
「はい、どーぞ」
ちょうど展開が盛り上がってきた物語から名残惜しくも視線を逸らし、本をぱたりと閉じて顔を上げる。
同時に扉を開けて入って来たのは、予想外の人物…いや、人ですらなかった。
もふもふ、とふわもふの足でとことこ歩いてくる、長い耳が特徴的なお友達。瑠璃色の瞳をくりくりと輝かせたぬいぐるみのウサくんは、なぜかクマくんを豪快に俵担ぎして近付いてきた。
「フェリくん。このクマがフェリくんのチーズケーキつまみぐいしようとしてたぴょん。食べる口がないのにお馬鹿さんぴょん」
「この失礼なウサギはなんだクマ!許せないクマ!クマをお馬鹿さんっていったクマ!」
「フェリくんのおやつを盗むようなお馬鹿クマだぴょん。お馬鹿さんにきまってるぴょん」
ウサくんは可愛い見た目に反して、意外と力が強いらしい。ばたばたと暴れるクマくんをぴくりともせず担ぎ続けている。
ぱちぱちと瞬いて二人を見つめ、仲が良さそうな二人にくすくすと笑みが零れた。同じぬいぐるみ同士仲良くなれたみたいでよかった。
心なしかウサくんの方が上の立場っぽく見えるけれど…きっとそういう遊びなのだろう。クマくんもばたばた楽しそうだし、よきよき。
「ウサくん、おしえてくれてありがと。クマくん。クマくんはぬいぐるみだから、チーズケーキたべられないの。もふもふが汚れちゃうだけなの…」
「う…わかってるクマ…ごめんなさいクマ…」
「ごめんなさいできるクマくん。とっても偉い。賢い。いいこいいこ」
「…!ふんっクマ!当然クマ!クマは偉くて賢いクマだクマ!!」
なでなで。クマくんの丸い耳を撫でると、しょぼんと元気のない毛がぶわぁっともっふもふになった。
クマくんのもふもふ加減はその時の気分に左右されるから、情緒が不安定なクマくんはもふもふだったりしおしおだったりと常に手触りが違う。今は褒めたから、数秒前のしおしおと違いもっふもふになっている。
むぎゅーっと抱き締めてもふもふを堪能し、すんと佇んでいるウサくんも一緒に抱き上げた。ウサくんはいつも冷静に見えるけれど、顔に出ないだけで意外と寂しがり屋さんなのだ。
「ウサくんもよしよし。いいこいいこ」
「フェリくん優しいぴょん。フェリくんいい子いい子ぴょん」
長い耳がぴくぴく動く。二人分のもふもふに顔を埋めてうりうりしていると、不意に扉が再びこんこんとノックされた。
今度はノックの主の正体が一瞬でわかる。とりあえず挨拶挨拶っという軽いテンション感の「失礼します」が聞こえたと同時に、問答無用で扉がガチャリと開かれた。
「フェリアル様、来客が……って、えっ。少し目を離した隙に天国が爆誕してるんですが…??」
颯爽と入ってくるところまではかっこよかったのに、僕達の様子を視界に入れるなりぶわっと鼻血を吹き出したシモン。
そろそろ本格的に出血が心配になってきた頃。割と致死量の分は軽く出血している気がするけれど、ぴんぴんしているからきっと大丈夫なのだろう。
「シモン。もふもふいっぱい。シモンも、もふもふする?」
「うーん…俺はどちらかと言うとフェリアル様をすんすん嗅いでむぎゅむぎゅしたいですねぇ…」
「すんすん?むぎゅむぎゅ?うぅん…うむ、する。すんすんむぎゅむぎゅする」
「たぶん何一つ分かってませんよね」
ばっちこいだよーとキリリッとした顔で頷くと、シモンはにこにこしたままふるふると首を振った。
心外だ。ちゃんと分かっている。すんすんってして、むぎゅむぎゅってする。そういうことだろう。
「すんすんとむぎゅむぎゅは後で堪能するとして……フェリアル様、第二皇子殿下がお見舞いにいらしてますが、通しますか?」
「……うん?アラン……?」
「えぇ。それに何やら、フェリアル様にご相談があるようで」
「会う……!つれてきて……!」
淡々と言っているけれど、皇子を普通に待たせるシモンがなんというか、本当に強い。
普通はどんなに具合が悪くても会うのが当然だろうに、と思いながら慌ててこくこく頷く。手遅れかもしれないけど、なるべく待たせないようにしないと。
シモンはにこっと笑ってひとつ頷き、すたすたと部屋の中に入ってきた。
あれ、行かないのかなと首を傾げると、やって来たシモンは笑顔のままクマくんとウサくんを持ち上げる。
首根っこを掴まれて連行される二人は、もふもふを為す術なくだらーんとさせて、普通のぬいぐるみにみたいになっていた。
「離してクマ!クマを捨てた先輩大嫌いクマ!」
「不服ぴょん。このクマと違ってウサは静かな偉い子なのにぴょん」
「はいはい。お話の邪魔になるので、見てるだけで気が散る喋るぬいぐるみさん達は別室で遊んでましょうねぇ」
確かに、視界の端でちらちらとぬいぐるみが動いたり喋ったりしていたら、普通はなんだなんだと困惑するだろう。
僕はもう慣れているからそうはならないけれど、初めて見る人は怖いよねとうんうん納得する。
子供をあやすような声音と口調で語ったシモンは、二人をわしっと鷲掴みしたまま部屋を出ていった。
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