余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

173.いい子いい子のむぎゅむぎゅ

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「むにゃむにゃ…はっ!」


 聞き心地の良い低音で語られる過去の話。
 途中までふむふむと真剣に聞いていたはずなのに、ふと気づくと唇の端からつつーっと涎が垂れていた。慌ててふきふきして顔を上げると、じーっとこちらを見下ろす金色の瞳と視線が合ってぴしっと固まる。
 あわわ…と瞳を揺らしていると、パパは例の眠気を誘う低音で一言呟いた。


「……寝ていたな」

「ねてない。ぐーすか違う」

「いや…もごもご寝言呟いてたぞ。悪いな、お前に大人の恋愛事情は早かったか」

「む…!早くない。僕、お兄さん。恋愛ますたー」


 ほう…と愉快気に目を細めるパパに、咄嗟に嫌な予感を抱いてすっと視線を逸らす。これは揶揄われる流れだ、と思いわざとらしくこほんっと咳払いをしてみた。


「パパ、前世のことぜんぶ知ってたの?」


 明らかな誤魔化しに気が付いていただろうけれど、内容が内容なだけにパパは真面目な顔をして頷いた。とりあえず恋愛ますたーのくだりを誤魔化せたから良しとしよう。

 きょとんと尋ねながら、パパが語った過去の話を整理してみる。
 パパは魔塔主様と知り合いで、二人で協力してハッピーエンドを止めようとしていた。リベラ様とマーテルの因縁についても知っていて、それどころか自分の運命さえも把握していた上で受け入れようとしていた…といったところか。

 パパが語った前世の内容は、概ね僕が前世で見たゲームの内容と一致していた。
 まるで世界を客観的に俯瞰したかのような正確さは、明らかに一人称で見たものとは違う。魔塔主様から聞いたと言っていたけれど、そもそも魔塔主様は一度目の顛末をどうやって把握したのだろう。
 ゲームで見た内容が正しいなら、魔塔主様はマーテルによる魅了の支配が広がる前に亡くなったはずだけれど…魅了についても詳しく知る程なら、時系列がいまいち合わない気がする。


「全部ってわけじゃねぇ。魔塔主の記憶は神の目を介して見たものだ、流石に事細かに見ることは出来なかったらしいな」

「かみのめ…」


 既視感のある言葉、神の目。魔塔でも同じ言葉を聞いたけれど、それは一体どんな技なのだろう。
 ふむふむと悩んでいると、向かいの方からカタッと小さな物音が聞こえてきた。


「あの…さっきの、皇族にはマーテルへの信仰心が根付いていると云うのは…」


 レオが控えめに片手を上げて問う。
 僕の体に、少し外れていたペリースをぐるぐるまきまきと包み直したパパは、ひとつ頷いて答えた。


「あぁ。お前は生まれつきマーテルに毒されてたって事だ。そうは言ってもお前の代はかなりマシな方だがな」


 そう語るパパの瞳は少し寂しげだ。さっき話していた過去を思い出しているのだろうか。

 マーテルを信仰していないというだけで、肉親から冷たい目を向けられた幼少期。
 異常やらおかしいやら狂っているやらと、周囲から掛けられた酷い言葉というものは、案外ずっと忘れられないものだ。

 確かにパパの話を聞く限り、レオはあれでもかなり信仰が薄い方だったのかも。
 一度目を知る者としてはレオも中々だったと思うけれど、これがパパの代で起こっていたとすれば、あれ以上の悲劇が生まれてしまっていたのかな。


「……?…何だちっこいの」

「ちっこくない。僕、お兄さん」


 こうして近くでじっと見なければ、絶対に分からないくらいの感情の変化。
 一定にも見えるパパの表情は、よく見ると少し歪んで悲しそうな色を宿していた。それに気づいた時、いても立ってもいられなくなって。

 ペリースの中から何とか片腕だけ伸ばして、よしよしと艶のある黒髪を撫でてみる。
 ちっこいだなんて不服な言葉をかけられたけれど、構わずよしよしわしゃわしゃと撫で続けた。


「パパ。いいこいいこ。寂しくない」

「……」

「パパ、ぎゅ。ぎゅーすれば、悲しくない」


 ぐるぐる巻きにされているからぎゅーが出来ない。もぞもぞしながら言うと、パパは数秒の沈黙の末に突然ガバッ!と抱きしめてきた。

 抵抗できない僕の体をむぎゅむぎゅ抱きしめ、うりうり頭に頬擦りして。急なむぎゅむぎゅに、あわわ…とされるがままだ。


「あわ、あわわ…むぐっ、むー…」


 力強い腕と胸板に挟まれる。
 ちょっと苦しいかもなーふむふむと思いながらも、どうしようも出来ないので、パパが落ち着くまでじっとすることにした。

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