129 / 423
【聖者の薔薇園-プロローグ】
173.いい子いい子のむぎゅむぎゅ
しおりを挟む「むにゃむにゃ…はっ!」
聞き心地の良い低音で語られる過去の話。
途中までふむふむと真剣に聞いていたはずなのに、ふと気づくと唇の端からつつーっと涎が垂れていた。慌ててふきふきして顔を上げると、じーっとこちらを見下ろす金色の瞳と視線が合ってぴしっと固まる。
あわわ…と瞳を揺らしていると、パパは例の眠気を誘う低音で一言呟いた。
「……寝ていたな」
「ねてない。ぐーすか違う」
「いや…もごもご寝言呟いてたぞ。悪いな、お前に大人の恋愛事情は早かったか」
「む…!早くない。僕、お兄さん。恋愛ますたー」
ほう…と愉快気に目を細めるパパに、咄嗟に嫌な予感を抱いてすっと視線を逸らす。これは揶揄われる流れだ、と思いわざとらしくこほんっと咳払いをしてみた。
「パパ、前世のことぜんぶ知ってたの?」
明らかな誤魔化しに気が付いていただろうけれど、内容が内容なだけにパパは真面目な顔をして頷いた。とりあえず恋愛ますたーのくだりを誤魔化せたから良しとしよう。
きょとんと尋ねながら、パパが語った過去の話を整理してみる。
パパは魔塔主様と知り合いで、二人で協力してハッピーエンドを止めようとしていた。リベラ様とマーテルの因縁についても知っていて、それどころか自分の運命さえも把握していた上で受け入れようとしていた…といったところか。
パパが語った前世の内容は、概ね僕が前世で見たゲームの内容と一致していた。
まるで世界を客観的に俯瞰したかのような正確さは、明らかに一人称で見たものとは違う。魔塔主様から聞いたと言っていたけれど、そもそも魔塔主様は一度目の顛末をどうやって把握したのだろう。
ゲームで見た内容が正しいなら、魔塔主様はマーテルによる魅了の支配が広がる前に亡くなったはずだけれど…魅了についても詳しく知る程なら、時系列がいまいち合わない気がする。
「全部ってわけじゃねぇ。魔塔主の記憶は神の目を介して見たものだ、流石に事細かに見ることは出来なかったらしいな」
「かみのめ…」
既視感のある言葉、神の目。魔塔でも同じ言葉を聞いたけれど、それは一体どんな技なのだろう。
ふむふむと悩んでいると、向かいの方からカタッと小さな物音が聞こえてきた。
「あの…さっきの、皇族にはマーテルへの信仰心が根付いていると云うのは…」
レオが控えめに片手を上げて問う。
僕の体に、少し外れていたペリースをぐるぐるまきまきと包み直したパパは、ひとつ頷いて答えた。
「あぁ。お前は生まれつきマーテルに毒されてたって事だ。そうは言ってもお前の代はかなりマシな方だがな」
そう語るパパの瞳は少し寂しげだ。さっき話していた過去を思い出しているのだろうか。
マーテルを信仰していないというだけで、肉親から冷たい目を向けられた幼少期。
異常やらおかしいやら狂っているやらと、周囲から掛けられた酷い言葉というものは、案外ずっと忘れられないものだ。
確かにパパの話を聞く限り、レオはあれでもかなり信仰が薄い方だったのかも。
一度目を知る者としてはレオも中々だったと思うけれど、これがパパの代で起こっていたとすれば、あれ以上の悲劇が生まれてしまっていたのかな。
「……?…何だちっこいの」
「ちっこくない。僕、お兄さん」
こうして近くでじっと見なければ、絶対に分からないくらいの感情の変化。
一定にも見えるパパの表情は、よく見ると少し歪んで悲しそうな色を宿していた。それに気づいた時、いても立ってもいられなくなって。
ペリースの中から何とか片腕だけ伸ばして、よしよしと艶のある黒髪を撫でてみる。
ちっこいだなんて不服な言葉をかけられたけれど、構わずよしよしわしゃわしゃと撫で続けた。
「パパ。いいこいいこ。寂しくない」
「……」
「パパ、ぎゅ。ぎゅーすれば、悲しくない」
ぐるぐる巻きにされているからぎゅーが出来ない。もぞもぞしながら言うと、パパは数秒の沈黙の末に突然ガバッ!と抱きしめてきた。
抵抗できない僕の体をむぎゅむぎゅ抱きしめ、うりうり頭に頬擦りして。急なむぎゅむぎゅに、あわわ…とされるがままだ。
「あわ、あわわ…むぐっ、むー…」
力強い腕と胸板に挟まれる。
ちょっと苦しいかもなーふむふむと思いながらも、どうしようも出来ないので、パパが落ち着くまでじっとすることにした。
595
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。