余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

176.愛し方とプロポーズ(レナードside)

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 夢を見た。あまりに残酷で、受け入れ難い夢だ。
 最も大切なものを自ら踏み躙る己の姿。正しい愛で守ると誓ったあの子を、夢の中の自分は歪んだ執着で傷付けていた。

 光と闇の葛藤の中、一度目の私は光を選んだ。生まれた時から根本に植え付けられた正しさの固定観念が、闇を選ぶことを許さなかった。
 手遅れになる前にあの子に出会えなかったことが、結果的に最悪な結末を招いた。それが一度目の最大の罪。最大の誤り。一度目も今回のように早いうちに出会えていれば、何かが変わっていただろうか。

 本当の正義はどちらなのか。光か闇か。聖者か、あの子か。
 元々この世界の頂点は闇で、そして光とも上手く共存出来ていた。全てが崩れたのは、光と運命を司る女神マーテルが、闇と時を司るリベラに反旗を翻したことが発端だ。
 そもそも、マーテルは何故リベラを陥れたのか。本当にただ、リベラの全てを奪いたかっただけなのか。それにしては、数千年にも渡る執着は些か度が過ぎているような感覚が否めない。

 一度目の私は、そんなマーテルの執着の理由を知っていた気がする。
 それはきっと…私とマーテルが何処か似ていたからだ。その時の私は誰よりも理解していた。
 執着や愛は、時に有り得ない方向へと捻じ曲がることがあるのだということ。その形は酷く歪で、原形を留めない時は自分でも自覚することが出来ないのだということ。

 マーテルの目的は、きっとマーテル自身もよく理解出来ていない。この推測が正しいなら、もしかすると。
 全ての人間の愛を欲したマーテルだが、本当は有象無象の愛になんて興味無かったのではないだろうか。そう錯覚していただけで、マーテルが何より欲した愛の持ち主は、きっと…──





 * * *





 自分勝手なことを言っている自覚はある。フェリが息を吞む瞬間を目に焼け付けて、内側に残っている前世の自分が歪んだ悦びに浸るのが分かった。
 たとえ感情の色が暗くても、フェリの思考が私で埋まることが嬉しくて。

 フェリの中で固定された価値観や思考。それらを揺らすようなことを言えば、きっとフェリは真剣に悩んでくれる。フェリは大切な人間を…私を傷付けることをきっと良しとしないから。
 どんな選択なら、どんな判断なら私を傷付けずに済むだろうかと、今のフェリはそんなことを真面目に考えてくれているはずだ。

 許されようが許されまいが、本当はどっちだって構わない。フェリがどんな判断を私の罪に下そうが、私の中では行動は一つに決まっている。

 今世の私はフェリを守り、聖者を倒す。それだけだ。前世の自我を僅かに抱えた状態で、それでもなるべく、正しい愛でフェリを守りきる。


「ゆ…ゆるさない…って言えば、レオ、苦しいのなくなる…?」


 恐る恐る尋ねてくる姿が愛らしい。泣きそうなほど。思わず、涙が溢れてしまいそうになる愛おしさが湧き上がる。

 魅了に支配されていたから、なんて言い訳だ。こんな天使のような存在を一目見て、それでも悪だと判断し糾弾するなんて。魅了に支配されていたとしても、誰だって一瞬でフェリの純粋な清らかさを見抜くだろうに。
 皇族に根付いた信仰心も魅了も多々ある原因の一つでしかない。一番はただ、私が愚かだったというだけだ。


「……いいえ。ずっと苦しいままです。フェリの恨みがあっても無くても、私自身の罪悪感や自己嫌悪は永遠に消えません」

「っ……」


 フェリの瞳に大粒の雫が滲む。少し意地悪しすぎたろうかと反省して、落ち込むフェリをそっと抱き締めた。
 腕の中にすっぽり収まる小さな体。まだ色々と早すぎるだろうなと分かっていても、自覚した想いは溢れるばかりで行き場に困る。すぐにでも吐き出したい衝動を抱える中、その相手は今目の前にいるというこの状況。

 我慢するには、想いを自覚なしに抱えた時間が長過ぎた。


「フェリがずっと傍に居てくれるなら、この苦痛も少しはマシになるかもしれませんね」


 フェリがはっとしたように顔を上げる。瞳に輝く期待に苦笑して、なんて真っ直ぐな子なのだろうと少し心配になった。私のような人間に、今までよく丸め込まれず無事に過ごしてきたものだ。


「ずっといっしょ!レオ、悲しくない!」

「……」


 また…そんなことを簡単に言って。私の言葉の意味をちゃんと理解出来ているのだろうか。
 ずっと傍にというのは、文字通りの意味でしかない。ずっと私の傍に。離れることなく、永遠に。私だけのフェリになるという意味であることを。

 きっと、分かっていないだろうな。傍から見ればバレバレだろう私の想いも、他でもないこの子だけは気付かないままなのだろう。


「本当に?ずっと傍に居てくれますか?」

「うん。ずっといっしょ」


 きりっとした顔のフェリが愛おしくて堪らない。
 自分が何を言っているのか、自覚せず…今まさに男の腕に抱かれている最中だと言うのに、警戒の一つもしないなんて。

 …本当に、愛らしい。


「そうですか」

「うん」

「それじゃあ、結婚しましょうか」

「うむ…む?」


 ふわふわ纏っていた空気をようやく硬直させたフェリに、いつもの満面の笑みを浮かべて首を傾げた。

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