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【聖者の薔薇園-プロローグ】
186.お見送り
しおりを挟む結局あのあと色々と話を楽しみ過ぎたのか、名残惜しさを覚えてしまった兄様達は学園へ戻る日を一日ずらすことにしたらしい。
最後の一日はたくさん遊んで、夜は三人で仲良く同じベッドで眠った。両隣からむぎゅっと抱き着かれるのは少し暑くてぬくぬくが過ぎたけれど、嬉しかったから結果おーらいだ。
そんなこんなで迎えた翌日。
兄様達のお見送りのため外へ向かうと、ロビーに下りたところでちょうど来客が現れた。
「やぁフェリ!来ちゃいました!」
「来るな」
「帰れ」
玄関ロビーでにっこにこの笑顔を浮かべて立つレオ。そんなレオに僕の後ろからブーブーとちょっと酷い言葉を浴びせる兄様達。レオはこういう状況には慣れっこなのか、兄様達の姿をそもそも視界に入れてないみたいにすたすた近付いて手を伸ばしてきた。
ぽーっとしていた頭がはっと覚醒して、レオの手から逃れるようにたったっと兄様達の後ろへ隠れる。ガイゼル兄様の長い脚からそろーりと顔を出して覗くと、レオはぴくっと一瞬笑顔を引き攣らせた。
「……フェリ。フェリに会いに来たのですよ。歓迎してくれないのですか…?」
「っ……」
「……悲しいです…フェリに会いに来たのに…こうして避けられてしまうなんて…私達は友達、でしょう?」
「ともだち…?」
そろりそろりと覗かせてた顔を思わず全て出してしまう。きょとんと目を丸くして問うと、微かに口角を上げたレオがにこーっと笑顔を更に深めて頷いた。
「えぇ!私達は友達です!だからもっと近づいても良いのですよ!」
たしかにそうか…!愕然としながらぴたりと硬直する。思考に雷がばちばちっと走った気分だ。
パパも友達ならぎゅーしてよし、と言っていたから大丈夫なんだ。そんな思考が一瞬本気で頭を支配した。けれど僕はかしこいお兄さん。二度も同じ手には引っかからないのである。
とたとたと兄様たちの間から歩み寄り、わーと両腕を広げるレオの元へ走る…のを途中でするるーっとUターンして戻った。
「……フェリ??」
困惑が混じった満面の笑み。再び同じ場所に戻り、兄様の脚からそろーりとレオの様子を窺う。
むむ、すんっと大人のよゆーを醸し出しつつ、罠に気付いた僕かしこいじゃろかしこいじゃろとどやってみる。途端に兄様達のなでなで攻撃が始まり、ぼさぼさになった髪をせっせと梳いた。
笑顔でぷるぷる震えるレオをじーっと見つめる。レオのことをまるで変質者に向けるような視線で射抜いた兄様達が、間に壁を作るように僕に背を向ける形で立ち塞がった。
「何の用だ。……何の御用でしょうか」
「無理ですよ?もう後戻り出来ないくらい素が出ちゃってましたよ?」
ガイゼル兄様に発するような低い声をレオに飛ばすディラン兄様。相手が皇太子であることに数秒遅れて気付いたのか、特に焦る様子を見せることなくさらーっと口調を戻した。誰が聞いても手遅れだけれど。
流石のレオもディラン兄様の手遅れすぎる誤魔化しには本気で困惑したのか、笑顔を崩して眉の下がった真顔で思わずツッコんでしまっている。ディラン兄様はすんとしていていつでもクールなディラン兄様のままだけれど。
「というか、ここに来る目的なんて一つに決まっているでしょう?学園に戻る前にフェリチャージする為に決まっているじゃないですか」
「なーに"当然だが?"みたいな顔してんだテメェ!フェリチャージは俺らだけの特権だっつーの!」
「強欲にもフェリの恩恵を狙いやがるのは止めて頂きたいです」
そもそも、ふぇりちゃーじとは一体全体なんなのか。むぎゅむぎゅで何かを溜めることができるのかな…僕にそんな特殊能力が…?
そわそわ。僕、実は強きゃらかもそわそわ。
そんなことを頬を染めながら考え、秘めたる力を確かめるべくかめかめっとした後にはーっ!と吐き出してみる。うーむやっぱりないのかな…なにも起きない…。
しょぼぼんする僕の傍らで、三人の少し物騒な会話がすらすらと続いていく。
「つーか何かお前…ちょっと見ねぇ間に性格変わったか?前よりウゼェ」
「あぁ。何かウザいな。何故だろうか」
兄様達の表情は本当にはてなで溢れている。純粋な疑問の色しかないことに当然レオも気が付いたようで、ほんの少しだけ額にぴきっと青筋を入れたのが何だか怖かった。
けれどそれは何かを思い出した様子を出すとすぐに収まり、むしろるんるんと上機嫌なオーラを纏い始める。
何処となく勝気な色を瞳に滲ませたレオがふふんと二人に宣言した。本当に唐突に、僕がびっくりぎょうてんしてあわわっとなるくらいに。
「私、フェリにプロポーズしましたから。これからは積極的に行きますのでよろしくお願いしますね」
数秒遅れて「……は??」という地を這うような低い声がロビーに響き渡る。
ディラン兄様のものかガイゼル兄様のものか明確には分からないけれど、二人のうちどちらかの声だということだけは確信を持てた。
レオにぷろぽーずされた瞬間のことを思い出してぽぽっと頬を染める。兄様たちはそんな僕の表情を見てレオの言葉が本当だと悟ったのか、途端に般若のようなオーラを纏ってレオにギッと強い視線を向けた。
「……学園では背後にお気を付け下さい」
「……夜道にも気を付けろよ」
「殺害予告ですか…?」
兄様達のぴりついた殺気を前にして流石に笑顔を引き攣らせるレオ。
背後と夜道の心配をしてあげるなんて二人は優しいなふむふむと思いながらそそくさ前に出て、手を伸ばしてもぎりぎり触れられないくらいの距離でレオに話しかけてみた。
「レオ。学園、がんばって。応援する」
「フェリ…!じゃあ最後にぎゅーしてくれますか?」
「むぅ…」
それはできないのだよと眉を下げる。見るからにしょぼぼんするレオに胸が痛んだ。
そんなレオでもお構いなしに、兄様達は容赦なく「さっさと行け」「フラれたんだから諦めろ」と辛辣な言葉を投げかける。レオはそれらを全て聞き流すようにふにゃりと微笑み、力無く呟いた。
「でも…どうしましょう…フェリのぎゅーがないと頑張れません…私はきっと学園で落ちぶれてしまいます…フェリチャージをしなかったばかりに、きっと最底辺まで…」
「むむ…」
それはいけない。頭で考えるよりも先に体が動いた。
僕のせいで頑張れなくなってしまうなら、それは僕が何とか解決しなければならない。そう思いとたとた駆け寄ると、背後から「あっ、おい馬鹿!」「成長…していない…」とちょっと失礼な言葉がぽんぽん飛んできた。
レオの前に立ってふれーふれーとエールを送ってみる。不安になってもらわなくても、どんな時でも無防備にぎゅーしちゃいけないことは忘れていない。
少し離れた場所でふれーふれーしてどどどやっとしていると、やがて光の速さで近付いてきたレオがむぎゅーっ!と僕を抱き締めて腕の中に拘束してしまった。
「ふにゃっ!」
「ふふ。捕まえましたよフェリ」
「むぅ…つかまってしまった…」
なんたる想定外。これはレオに一本取られたでござると戦慄く。
兄様達の「馬鹿だろあのチビ」「アホなところも愛らしい」というとっても失礼な言葉が背後から聞こえてくるけれど、それはかれーに無視だ。きっと聞き間違いに違いない。
むぅ…と不貞腐れながら腕の中にぽすっと収まっていると、鼻歌を紡ぎそうなくらい上機嫌な様子のレオがふふんと立ち上がった。
「それじゃあ、私はこれで。学園で再会しましょうね二人とも」
「ちょっと待てやコラ。なにさらっとチビ持ってこうとしてんだ置いてけ」
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