余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

193.むっつり神官お兄さん

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 いいてんきだなー。

 崩壊した壁から見える空は晴天。吹き荒れた強風は数秒で収まり、とっても平穏な空気がゆったりと流れる。部屋の中に流れる空気は酷く冷え切っているけれど。
 壁をどかーんと壊して現れたのは三人。真っ黒なオーラを纏うライネスとローズと、それからトラード。


「えぇ!ちょっ、はぁ!?何だそのけしからん恰好は!?」


 凍り付いた空気を溶かすように、初めにわっと声を上げたのはトラードだった。
 無言のライネスに抱き上げられている僕をぴしっと指さし、まん丸に目を見開くトラード。ふっと見下ろし、改めて見るとかなりだめな格好だなとなるほど納得。
 ちょっぴり肌が透けている白いワンピース…これを着て外に、人前に出ることは出来ない。部屋着だとしてもぎりぎりご遠慮するくらいのあぶないワンピースだ。

 とりあえずぎゅっと自分を抱き締めて手前を隠すと、ライネスがこれまた無言でジャケットを脱いで僕に羽織らせてくれた。ありがたやーと思いながらそそくさ腕を通し、ありがとうを伝えるためにそろりと見上げる。
 見上げて、ぎょっとした。ライネスの顔にはいつもの優しい笑顔がなくて、代わりにどんよりと暗い陰を帯びた無表情が浮かんでいた。


「らいねす…?あ…ありがと…?」

「……」


 とにかくお礼は言わねば、と思いそーっと声をかけてみる。けれどライネスは返事をしてくれず、一瞬ぴくりと顔を顰めるだけだった。

 それが悲しくてしょんぼりと眉を下げる。ぽやぽや連れ去られて結局自力で脱出することもできなかった僕に呆れているのだろうか。よわっちくて嫌いだって、思ってしまったのだろうか。
 悲しい…ライネスに嫌われるのは、とっても悲しい。しょぼぼんしながらふにゃりと俯くと、ほんの僅かだけぎゅっとする腕の力が強くなったような気がした。


「神聖な儀式に割り込むなどなんて不敬な!哀れな悪魔共め…!」


 ふと聞こえた叫び声に振り返る。視線の先ではさっきまでベッドにいたはずのお兄さんが、床に尻餅をついて怒りの形相を浮かべていた。
 あくまども…?きょろきょろ見渡し首を傾げる。見る限り、この場に居るのはお兄さんと僕とライネス、そしてトラードとローズだけだ。悪魔なんていない。見間違えちゃったのかな。


「……哀れな悪魔はお前だクソ野郎」

「かはッ…!?」


 動きは全く見えなかった。気付くとお兄さんが口から血を吐いて、地面に跪き何度も咳を繰り返していた。その正面にはローズが立っていて、こっち側には背を向けているから表情は分からない。
 ただ、その背から痛いくらいに感じる殺気で呼吸が少しだけ浅くなる。見えない圧力で体が押し潰されそうになった。


「ガキを強姦する屑が一番クソだ。聞いてんのかクソ野郎。お前のことを言ってんだ」


 ドカッ、ボコッ、と何度も響く鈍い音。ぷるぷる震えながらその光景を呆然と見つめていると、近くにいたトラードがドン引きした様子で「うへぇ…」と呟いた。

 どうやらこの手のローズの暴走には慣れっこのようで、特に臆することなく近付いてローズの肩をぽんと叩く。至って軽快な口調で「あの子の前だろ。抑えろ」と語ったトラードの言葉で、ローズの暴力がぴたりと止まった。


「……これは死んでいい人間だ。処分対象だ」

「まぁそりゃそうだけども。それは後でやろうぜ?な?今はフェリちゃん優先」

「……」


 ローズがスッと立ち上がる。トラードとのひそひそ話で何か納得できることを言われたようだ。
 踵を返してすたすた部屋の中を周り、静かにその様子を窺う僕達の元に戻るなりすんとしたいつもの無表情で語りかけてきた。


「何があったか説明しろ。奴の処分方法を考える」


 なるほど。事情聴取求む、ということか。それならばっちこいでござるとこくこく頷く。
 ライネスの腕の中で手足を駆使し、なんとか身振り手振りで状況を今までの状況と流れを三人に説明することにした。ぐったり倒れるお兄さんからは、今はとりあえず目を逸らしておくことにする。


「ゆーかいされた。起きたらべっど。お洋服ワンピースなってた。お兄さんとことこ。ふとももふにふに。腰なでなで。足ぱかーん。大ぴんち!お助けがきました」

「うーんわからん」


 トラードの反応になぬっ!と戦慄する。この詳細な説明で伝わらないとはなんたることか…。
 しょぼぼーん…と沈んでいると、ふと体がぷるぷる震え始める。僕は特に震えていないから地震かな、なんて思ってはっとする。震えていたのはライネスだった。

 ライネスは鬼の形相で震えながら、僕が着る真っ白なワンピースを忌々しげにキッと睨み付ける。ぱちくりする僕を見てへにゃりと眉を下げると、泣きそうな子供みたいな顔でうりうりむぎゅむぎゅ抱き締めてきた。
 そこでようやく、黙りこくっていたライネスの声が解放される。


「無理やり押し倒されて怖かったね…つるすべな腰を撫でられふにすべな太腿を揉まれ…挙句に正常位で足を割り開かれ可愛い窄みを犯されそうになったんだね…ッ!」

「ちゃんと理解してんの凄いけどちょっとキモいな」


 ズバッと辛辣なことをトラードに言われても特に動じないライネス。むしろむぎゅむぎゅを強めて嗚咽を漏らした。自分事のようにショックを受けているみたいだ。やさしい。


「ごめんねフェリ…私がちゃんとフェリを守っていればこんなことには…ッ!!」

「うぅん。ライネス悪くない。僕、ぽやぽやしてたせい。心配と迷惑かけた。ごめんなさい」

「迷惑なんかじゃない!私はぽやぽやフェリが大好きなんだよ…!だから私がぽやぽやなフェリを守るのは当然の義務なんだよ…!」


 ちょっとよくわからないけれど、とにかくそういうことらしい。ライネスは責任感が強くてとっても良い人なんだなぁとふむふむした。

 心配はたくさんかけてしまったけれど、迷惑とは思っていないらしい表情に心がぽかぽかする。よかった、ライネスに嫌われてしまったのではなかったんだ。ほっと一安心。
 僕のことを大好きと言ってくれた。僕もライネス大好き。だから、なかよし。嫌いじゃないし不安もない。ふむふむ、よきよき。


「ちゃんと抵抗したんか?流石にぽやぽやしてたらヤられましたーとかは駄目だよ危ないよ」

「うむ。ほーむらん、まきまき、ぺちぺち。いっぱい抵抗した」

「やべぇ全部わからん」


 辛うじてぺちぺちだけは何となく分かる、と神妙な面持ちで呟くトラード。しょぼぼーん…これも伝わらないなんて…むねん…。


「くッ…悪魔共!私のてんっ…その少年を返しなさい!その子には闇が憑いています!私が光により浄化して差し上げるのです!」


 ダメージから回復してふらふら立ち上がるお兄さん。
 くわっと叫んだお兄さんの言葉に、三人が同時にぴきっと青筋を浮かべたのが見えた。それと、何かがぷっつん切れる音も。


「私の精液を内側に注いで浄化してやるよ~ってか?アホかてめぇ!俺より俗物的で煩悩塗れの神官とか初めて見たわ!!」

「救いようのないクズ」

「来世にすら期待出来ないレベル」

「そ…そこまで言う…?」


 あまりの容赦の無さにお兄さんの素がぽろっと出てしまっていた。ちょっぴりかわいそう。


「くッ…何なんですかぁ!いいじゃないですかぁ!ぶっちゃけ神官なんてムッツリしかいませんよ!好きな体位だって神に祈り捧げながら余裕で語り合いますぅ!」

「えぇ…」

「何だこいつ」


 わーわー号泣しながら叫ぶお兄さん。ほんとうにかわいそうだ…とっても苦しそうだし悲しそう…。
 ライネスは大困惑しているしローズは侮蔑の眼差しを容赦なく突き刺しているし、本当にお兄さんがかわいそうに見えて胸が痛くなってきた。
 何か悲しいことがあったのだろう。お兄さんをここまで追い詰めるような何かが。

 あわれ…としっとり視線を向けていると、ふとトラードが茶化すような声でお兄さんに絡み始めた。


「ちなみに好きな体位は?」

「正常位でらぶらぶセックスに決まってるでしょうが!すきすき言って一緒にイクんですぅ!だいしゅきホールドしてもらう予定だったんですぅ!そういう計画だったんですぅ!」

「拗れ童貞かよ。一番めんどいやつだこれ。なんで神官が悪魔の子に惚れてんだよマーテル一筋じゃねーのかよ」

「いやマーテルとかぶっちゃけどうでもいいです…周りがすごい崇めてるから何となくノってるだけで…そもそも私光属性じゃないので…ほんと信仰心とかマジでないっす…」


 本当に心底興味無さそうに語るお兄さん。意外な回答に三人も一瞬黙りこくって、やがて揃ってはてなを浮かべた。
 神官なのに、光属性ではない…?

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