余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

201.わんちゃん(前半シモンside)

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「俺はシモン様の味方です!!敵じゃないです!!」

「いや、普通に怪しいんですが…」

「シモン様は俺ら闇属性の憧れなんです!なんたって最強の黒騎士ですから!!」

「黒騎士…?」


 さっきから一体何を言っているんだコイツは。大ファンだの黒騎士だの、意味が分からない。
 闇属性ということで警戒心は多少薄れたが、それでもこの男が敵である可能性が消えた訳ではない。だが…この光り輝く漆黒が嘘を吐いているようにも見えない。

 とにかく、事態は一刻を争う。さっさとフェリアル様の元に戻る為にも、この頭のおかしいストーカーから情報を聞き出さなければ。
 誓約の繋がりが切れていたこと、当然フェリアル様も気付いていただろう。あの状況で俺との繋がりが絶たれて、きっとフェリアル様は悲しんでしまったはずだ。俺を心配して涙すら流してくれたかもしれない。
 そんなフェリアル様を長く放置しておくことなど到底出来ない。最低限の事情を聞くだけ聞いて、早いところ転移してしまおう。


「どうして俺を攫ったのかだけ手短に説明してください。下らない内容だったら殺します」

「あぅッ…その蔑むような表情…お美しい…!!好きですシモン様!俺のものになってください!!」

「殺します」

「わっすみません!今説明しますっ!しますから!!」


 荊の如く影を伸ばして男の喉元に突き付ける。貫いてしまいたかったが、何とか寸前で堪えてやった。フェリアル様の為でなければ理性などとうに搔き消えていた事だろう。
 影を突き付けたまま続きを促す。男…グリードは犬のような尻尾を揺らして……って、尻尾?


「……?何ですかその尻尾は。そういう趣味でもあるんですか」

「え?いやいやこれマジですよ!マジの尻尾です!ちゃんと生えてます!!」

「は?」

「俺、獣人なんで!隣国から来ました!犬獣人のグリードです!!」


 数秒硬直する。やがて我に返り、瞳を見開きながら思わずグリードの髪を鷲掴んだ。
「あふっ…そんなッ乱暴な…!」と恍惚に頬を染める馬鹿は完全スルーで、やけに目立つなと思っていた癖毛をじっと見つめた。


「これ…癖毛じゃなくて耳だったんですね…」

「あっ、すみません!寝起きで来たんで!ちょっと癖毛と耳、分かりにくいですよね」


 へへっと無邪気に笑う姿はどこか憎めない。犬獣人だからだろうか、人間よりも本能的な愛嬌が段違いだ。
 というより、獣人自体初めて見たからか妙な感覚がある。隣国は人間と獣人が共存しているとは聞いていたが、本当に存在していたとは。


「……犬にもなれるんですか?」

「犬の姿ってことですか?もちろんなれますよ!犬の方が人族には見慣れてるかもですね」

「じゃあ犬になってください」

「え?」

「何だかやっぱり長くなりそうなので、もうあなたを連れて戻ります。その代わり俺の許可無く人の姿になったら殺します」


 何故かブンブンッと忙しなく揺れる尻尾。一体何がそんなに嬉しかったのか。かなりキツイことしか言っていないと思うのだが。

 軽くドン引きしつつ影を広げ、グリードに視線を向けて影を指さす。普通の人間なら影の中に入るなんて恐れて出来ないだろうに、グリードは犬に変化した途端、躊躇いなく影に飛び込んだ。
 何処か狂っている者でないと、闇属性には選ばれないのかもしれない。そう思えるほど、グリードを含め今まで会った闇属性は皆イカれていた。


「はぁ……何なんだ、本当に……」


 兎に角、あの犬野郎がフェリアル様を前にして少しでも妙な真似をしたら即刻殺そう。そう密かに誓って影に飛び込んだ。




 * * *




「フェリ。せっかく着替えたお洋服、汚れちゃうよ」

「……」

「フェリ。なにもそんな格好で待たなくたって、シモンは来てくれるんじゃないかな」

「……む」


 確かにそうかもしれぬ…と心が揺れる。
 ぺたりと床に張り付いた姿勢のまま顔を上げ、正面にしゃがみこんで顔を覗き込んでくるライネスと視線を合わせた。

 よしよしと頭を撫でられ、しょぼんとなりながら起き上がる。ぺたんと座り込んで眉を下げ、まだかなーと影をつんつんしてみた。


「しもん……」

「シモン遅いねぇ」

「しもんおそい…なにか、あったのかな…」

「何かあっても、シモンならきっと返り討ちにするから大丈夫だよ」


 つんつん。ぺしぺし。ぺちぺち。
 影を撫でたりぺちぺちしたり。ライネスとお喋りしながらシモンを待っていると、不意に影がへにゃりとおかしな動きで変形し始めた。
 ライネスと一緒にぴくっと肩を揺らす。影は立体的に動き、やがてぽふっと何かが飛び出した。



「わんっ!!」

「……!」



 ぱちぱち。まん丸に見開いた目を瞬く。
 思わずぽてっと尻もちをつくと、影から飛び出てきたそれが勢いよく僕の膝に乗り上げてきた。

 ぺろぺろ、ぺろぺろ。ほっぺや鼻を舐めてくるそれをぷにゃっと引き剥がし、そーっと優しく抱っこして覗き込む。見慣れた茶色の毛並みに、たまに緑から変化する漆黒の瞳。
 まさか……!と青褪め、ライネスにあわあわと視線を向けた。



「しもん、わんちゃんになった!!」


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