余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

210.大作戦決行の日(後半ローズside)

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 その日から、シモンによるグリードの修行が始まった。と言っても日常が何か変わったわけではなく、シモンは僕の散歩やお庭いじりに付き合ってくれるしお昼寝の時の護衛もしてくれる。そんな中、グリードだけが外へ出る頻度が多いというだけ。
 言ってしまえば、以前との変化は正直何もない。夕方くらいにへとへとで帰ってくるグリードを出迎えて、三人一緒に過ごせるのは夜の間だけだ。

 ちなみにシモンは、侍従の仕事について色々なことをグリードに経験させると言って実行していたけれど、湯浴みの手伝いだけは絶対に譲らなかった。
 これだけはとっても難しいから、シモン以外出来ないんだって。確かに、一人で湯浴みをしようとして溺れかけた前科を持つ身としては何も言えない。手間をかけさせて申し訳ない…。

 そんなこんなで数日が経ち、ある日の朝。
 僕はシモンとグリードを呼んでふふんと頬を緩め、本日の重大任務を発表するべく宣言した。


「重大任務、すいこーする」

「重大任務…!?なんすかそれ超楽しそうですね!!」


 シモンは流石シモンというべきか、どうやら任務の内容を察しているようで特に大袈裟な反応は無い。それよりもグリードがとってもキラキラ顔だ。瞳が星みたいにキラキラしている。
 そんなに楽しみなのねとふむふむしつつ、どどやぁと大発表。最近色々なことがあったけれど、それでも忘れなかったわくわく任務だ。


「その名も…びっくりさぷらいず大作戦!」






 たくさん練習したアップルパイ。シモンとグリードの手を借りながら何とか作り上げ、それをシモンの影に大事にしまってシュタイン領にある孤児院へ。

 何だか以前よりも向けられる視線が柔らかくなっていることにきょとんとしながら中へ入る。ここ数日で送っていた誕生日パーティーの飾り付けについての手紙を読んでくれたのか、孤児院の内装はパーティー仕様に様変わりしていた。
 多彩な色の風船にレースやリボンの装飾。子供たちが笑顔で動いている姿に、どうしてか目頭が熱くなった。
 今日のサプライズ。大本命のローズのことも、こうして笑顔にさせることが出来るだろうか。


「あ、フェリちゃんいらっしゃい!来てくれてありがとな」

「こんにちは、トラード。ぷれぜんと、持ってきた」


 奥の部屋に入ると、トラードが忙しない様子で何やら資料を確認していた。どうやらパーティーの準備の合間にシュタイン伯爵の側近としての仕事もこなしているらしい。

 トラードは持っていた資料を机に置くと、プレゼントという言葉に反応して嬉しそうに微笑む。誕生日なんてどうでもいいと言いながら、ローズのお祝いには全力らしいトラードに頬が緩んだ。
 自分には無頓着でも、やっぱり『家族』には尽くしてしまうみたいだ。


「ローズの好きなもの。たぶん、アップルパイ。だから作ってきた」

「アップルパイ……?」


 実はトラードとは手紙のやり取りが続いていて、パーティーの日程やら飾り付けの仕方やらを調べて書いて送り合っていた。
 トラードはローズの好きなものについて探っていた。けれどトラードでさえローズに聞いても『特に無い』の一言ばかりで、結局ローズの口から好きなものを聞き出すことは出来ず…。
 結果的に、ライネスの証言と僕の直感を信じてアップルパイを作ることに決定したという次第。それをトラードに伝えると、トラードはぽーっとアップルパイを見つめて黙り込んだ。

 その瞳に微かな柔らかさと、懐かしいものを思い返すような何かが籠っているような気がして。思わず「トラード…?」と呼びかけると、直ぐにハッとしたよう反応が返ってきた。


「あぁ、悪い。いや…何となく、ローズってアップルパイ好きそうだなって思って。あんまり思い出せねーけど…そんな感じする」


 柔く緩んだ表情にほっとする。トラードがそう言うなら、きっとそうなのだろう。

 アップルパイを影の中にしまいつつ振り向いて、後ろで護衛をしていたシモンとグリードに向き直る。ふむ…と二人をじっと見つめて、うむうむと頷いた。


「グリードは、会場のみんなと飾りつけのお手伝い」

「えっ!俺も姫の護衛したいです!何で俺だけ子供の相手しなきゃいけないんですか!!」

「グリードもふもふ。子ども、もふもふだいすき。もちべーしょんあっぷ」

「あ、そういう理由…」


 シモンがにっこり笑って「流石フェリアル様!すごいです天才です!」と褒めてくれる。シモンから見ても僕の判断は名案だったようだ。ふふん、どどどやぁ。

 もふもふがあるだけで気分が晴れる。もふもふに触れるだけで気持ちが幸せになる。だからこそ、仕事に疲れた時のために傍にもふもふを呼ぶだけで心の安寧に繋がるのである。
 僕もお庭いじりで腰が痛くなってきた時、疲労回復の為にウサくんやクマくんに手伝ってもらうことが多々ある。今後はその中にグリードも入ってきそうだ、もふもふ。


「もふもふ、お願いできる…?」

「仰せの通りに!!」


 わんちゃんの姿に変化し、わんわんきゃんきゃん鳴きながら走って部屋を出て行くグリード。何だかんだ言ってノリノリみたいでよきよき。

 グリードがいなくなったことで心なしか静かになった部屋の中、トラードがすっと切り替えて「それじゃあ…」と切り出した。


「俺はアイツ呼んでくるから。準備しててくれ」

「りょーかい!」




 * * *




 路地裏に追い詰めた標的にナイフの切っ先を向ける。
 無様に失禁しながら命乞いをしてくる豚をじっと見下ろすが、同情心など一切湧いてこなかった。


「たっ、頼む!見逃してくれ!もう人攫いなんてしねぇよ!真っ当に生きるからっ、助けてくれっ!!」


 何処までいっても屑は屑なのだと、無いはずの心が冷え切ったような感覚に驚いた。俺は今…苦しんでいるのだろうか。この屑が犯した過ちを思い返し、胸を痛めているのだろうか。

 男は裏ではそれなりに名の知れた商人。恵まれない家庭で育ったガキを攫い、他の屑共に売ったり性奴隷にしたりと悪逆の限りを尽くした正真正銘の屑野郎だ。
 邸に乗り込んだ時、この屑は弛んだ脂肪を曝け出しながら寝台の上にいた。両隣に幼いガキを添えて。
 逃げ足だけは早い男を一度見逃しつつ二人のガキに声を掛けたが、反応が無かった。

 嫌な予感を隠しつつ寝台に上がり、そして柄にもなく息を吞んだ。
 後ろの孔を痛々しく腫らした少年達は、光を失った瞳を開いたまま静かに脈を終えていた。


「……真っ当に生きる…?よくもそんな戯言が吐けたものだ」


 足裏で男の口を強く塞ぎつつ、先ずは両手に短いナイフを突き刺す。何の罪も無い幼い体に最も触れたであろう汚らわしい肉を、兎に角早々に潰したかった。

 くぐもった悲鳴が聞こえるが、今更制裁を止める気は微塵も無い。
 瞳孔をこれ以上ない程に見開き汗を滲ませる、そんな汚らわしい顔を視界に入れるのが不愉快で、踏み潰すように片足に力を籠めた。
 忙しなく抵抗する両足が鬱陶しい。後ろ手に二本のナイフを取り出し投げると両足に突き刺さり、激しい痙攣の後に漸く鬱陶しい抵抗が収まった。

 地面に磔にされたような姿。穢らわしい豚には似合いの末路だ。


「……あぁ…そうだな…豚には豚がお似合いだ」


 足を離してしゃがみ込む。鼻やら口やら、顔中の穴という穴から液体を零すその姿に僅かに表情を歪めた。取り敢えず、靴の新調は今この瞬間確定した。

 浅い呼吸を繰り返す屑の顔面に一発拳を沈め、気を失う寸前で無理やり此方側に戻す。
 たったこれだけで気絶しようなど貧弱な男だ。あのガキ共はこんな暴力など非にならない拷問を受け、必死に耐えたというのに。
 豚には豚を。理性の無い獣には、同じく理性の無い獣を与えるしか救いは無いだろう。


「豚だろうと犯す奴は犯すだろう。お前のような汚らわしい肉体でも、少しは役立ててくれる人間が居るんじゃないか」

「っひ…ぁえ…え…」

「安心しろ。四肢が無くとも穴が残っていれば問題無い」


 最早声を発することすら出来ないのか、豚が縋るように伸ばしてくる手を払い除ける。
 どうやら刺された手の痛みが麻痺しつつあるらしい。これ程までに早く精神が馬鹿になるとは思わなった。大きいのは図体だけで、矮小な精神の持ち主だったようだ。全く面白くない。
 出来ることならもう少し苦しめてやりたかったが…仕方ない。どの道この屑は地獄に堕ちる。逃亡の可能性を排除しておく為に、やはり四肢は切断しておいた方が良いだろう。

 後は…あの邸に残ったままのガキ共を回収しなければ。


「よっ、ローズ」

「……」


 不意に背後から聞こえてきた声。今度は何だと憂鬱になりながらも振り返ると、そこには心なしかいつもよりウザったい表情を浮かべたトラードが立っていた。


「仕事お疲れー。後処理に部下呼んだから、早く行こうぜ」

「……何処に」

「どこにってお前!はぁ…ったく、やっぱ忘れてたんだな…今日が何の日か」


 一体何のことだ。首を傾げて問い返すが、トラードは面倒そうに「まぁいいや」と呟き何故か俺の手を引いた。本当に、一体何なんだ。


「来れば分かる。取り敢えずついてこい!」

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