余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

217.ローズ師匠

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「これ、なぁに?」

「角指。トラードが面白半分で手に入れた物だ。使う機会は無い」

「これは?」

「ただの口紅だ。毒が塗り込まれている事以外」


 これは?これは?と暗器についての説明をせがむ。ふむふむ、聞いてみるととっても楽しい。からくりが沢山あってわくわくする。

 見るだけならいいよという言葉を信じてじーっと見つめる。手は前に出さない。しっかりきゅっと握って引っ込めている。全神経を目に籠めてじーっと見つめるのだ。じーっ。
 そうして暫く眺めて、不意にハッと思い付いた。前触れとかは別にない。ただ、本当に突然思い付いたのだ。

 思い立ったら即行動。きゅっと緊張した面持ちでローズの方に体を向き直り、正座して声をかける。


「ローズ。お願いある…うぅん、あります」

「……何だ。突然」


 この言葉遣いもどうにかしないと。そうぼんやり考えながら、とりあえずはここからだと初めに浮かんだ願いを口にした。


「僕のお師匠さまになってほし…」

「拒否する」

「むっ!?なにゆえ!」


 ぐわっと前のめりになって問い掛ける。
 ローズは最後のナイフを布で拭きながら、こちらに一切視線を向けることなく淡々と答えた。


「暗器は玩具では無い。突発的な好奇心で手を付けて良いものじゃない」


 心なしか僅かな怒りが含まれた声音、その言葉にハッとする。
 タイミングと言葉が悪かったらしい。ローズはどうやら、僕が暗器に興味を持って突発的な行動に出たと誤解しているようだ。いや、確かに突発的には違いないかもしれないけれど。
 それでも、前々から考えていたことの師匠を探していて、たった今それに相応しい人物を見つけたというだけだからあながち突発的という訳でもない。

 慌ててふるふる首を横に振り、そういうことじゃないとあわあわ弁明。ローズが訝し気に目を細めた。


「暗器は、いいの。僕、ずっと強くなりたい。思ってた。その先生になってほしいの!」

「……」

「ローズのたいじゅつ?体術、すっごく強い。そういうの、習いたいの!」


 ローズは基本的に魔法を使わない。というよりは、魔法を使っているところをほぼ見たことがない。
 少なくとも暗殺業の任務では使っていないはずだ。信条やら何やらに強い信念を持つからこそ、そういうことにも細かい拘りがあるのかもしれないけれど。

 やっぱり嫌なお願いだったかな。すぐに拒否するって言われちゃうかな。
 そんな心配を抱えながら俯くと、ふとローズの溜め息が聞こえてビクッと肩を揺らした。


「……お前には戦闘の才能がまるで無い。無意味だ」

「くはっ!」


 むむっ、なんたる威力……とばたんしてきゅーする。
 しょんぼり…と膝に腕を回して項垂れると、今度はローズの呆れたような声が聞こえてきた。


「……侍従に聞けば良い。アレはお前の頼みなら何だって聞くだろ」


 それじゃだめなの!とふんすする。
 確かにシモンに聞けば直ぐに受け入れてくれるだろう。実際、そう思って剣術やら何やらを習ったことは何度かある。
 でも、だめだった。どうしたってシモンが相手だとお互いに甘えがやめられない。具体的に言うなら、シモンはどこかで優しくなってしまうし、僕もシモンだからという理由で甘えてしまうことが多々あった。

 けれどローズなら?ローズが師匠になってくれたら、きっと甘えなんて許されない。
 僕がわーんわーんと号泣してしまうくらいの訓練をしてくれるはず。そう思って聞いてみた次第。
 それを説明すると、ローズは数秒悩み込むような仕草を見せて黙り込んだ。


「……」

「っ……」


 縋るような視線を向けて待機。やがてナイフを拭き終えたローズが、僕の方に体をくるっと動かしてじっと見下ろしてきた。
 無言のままただ見据えられるのが何だか怖くて、そわそわ震えながら声を上げる。何か話さないと、震えを誤魔化すことが出来なくて。


「つ、強くなるだけじゃ、ないの。お勉強もしっかりする。れーぎさほー?もしっかり受ける」

「……」

「僕、変わりたいの。だからローズの力が、必要なの」


 ぷるぷる。内心泣きながらがくぶるで言葉を紡ぐ。

 僕は自分がまだまだだってことを思い知った。
 やっぱり強くならないと。もっともっと強くなって、賢くなって、お勉強もたくさんして、礼儀作法もしっかり学ぶ。
 今の僕より、一度目の僕の方がベテランお兄さんに近かった。あの時の記憶が薄らあるから、ベテランお兄さんになるのも簡単だって高を括っていたけれど。そんなことはなかった。

 一度目の僕と今の僕は違う。
 実際、一度目に出来たことが今の僕にとっては苦手なことになっているし、一度目に出来なかったことを今の僕はやっている。
 強く賢くなりたいのは今の僕。僕は今のローズから、強くなるための指南を受けたいのだ。


「……」


 ぐぬぬと涙目になりながらも、絶対に視線は外さない。
 この淡々とした、けれど威圧感のある強い視線から目を逸らしてしまえば、きっと例の無表情でまた拒否されると察したから。

 ぐっと正座して見上げること数十秒。やがてローズが諦めたように溜め息を吐いた。


「……任務が無い日だけだ。ついでに礼儀作法とやらも指導してやる」

「!ほんと!……ですか…?」

「……途中で投げ出すようなら二度と手は貸さないが」

「わかった!ぐ……わかりました!」


 わーいわーいとぴょんぴょん跳ねる。
 ローズに「……騒ぐな喧しい」と窘められるまで、るんるん気分でローズの周りをぐるぐるぴょんぴょん駆け回ってしまった。
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