余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-開幕】

222.はじまり(後半???side)

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「フェリ!私もいますよ!」


 突如聞こえてきた声。ディラン兄様をつんつんしていた手を止めて「む?」と振り返る。
 兄様達しか乗っていなかったはずの馬車から、不意にすたっと降りてきた三人目。にっこにこの笑顔で手を振ったのは、以前よりも背が伸びてキラキラが増した皇子様だった。


「レオ!」


 ぱっと立ち上がってスタスタ駆け寄る。思わずぴょーんと飛び込むと、レオはにこにこ笑顔でわーっ!と全身を受け止めてくれた。むぎゅーうりうりすんすん。

 むぎゅむぎゅしながら考える。それにしてもレオはどうして公爵邸に来たのだろう。普通なら家に…皇宮に直帰だと思うけれど。久しぶりだし、家族にも会いたいだろうに。
 アランもきっと寂しがって、レオが帰ってくる今日はとっても楽しみにしているはず。そう思うと何だかそわそわし始めて、一言言ってあげようと口を開く直前レオの背後に大きな影が現れた。

 影を追って顔を上げる。そこに立っていたのは最後に会った時よりも更にがっしり大きくなったギデオンだった。
 相変わらず黒いフェイスベールで顔半分を隠していて、それに加え無表情だから感情が読みづらい。スッ…と静かに膝をついたかと思うと、何やらはっきりとした声と煌めく瞳で問い掛けられた。


「お久しぶりですフェリアル様。精通は済みましたか」


 空気がぴしっと凍る。それにきょとんとしながら答えようとした直前、ある約束を思い出してハッと口を閉ざした。
 笑顔のまま硬直するレオの腕の中からんしょんしょと抜け出し、スタスタとディラン兄様の元へ。ちょいちょいつんつんと起こして、あのねあのねと真剣に答えた。


「僕、まだ精通してません」

「……?あぁ…そうか…?」

「駄目だチビ。それ困惑するだけだからよ。もうちょい脈絡を明らかにしろ」


 みゃくらく…うーむ難問でござる…。
 起きて早々急なことを答えてしまったからか、ディラン兄様はぱちくり瞬いて首を傾げてしまった。呆れ顔のガイゼル兄様にふむふむ頷くけれど、良い案が思い浮かばない。
 精通に関しての報告はディラン兄様が最初、という約束をしていたからギデオンには答えられなかった。ディラン兄様、きちんと約束覚えてくれてるのかな…そわそわ…。

 とりあえずディラン兄様に一番に伝えたことだしギデオンの問いにも答えよう。そう思いふふんと振り返りぎょっとした。
 ギデオンが無表情のまま苦しそうに呻いている。原因は十中八九、背後からニコニコ笑顔のシモンにチョークスリーパーなるものを仕掛けられているからだろう。


「ぐ、ぐぐ…」

「おやおや俺としたことが。変質者の侵入を許してしまうとは何たる失態」


 ニコニコ顔の額に青筋が浮かんでいるような気がするけれど、気のせいだろうか。
 ギデオンとシモンは仲が良いんだなぁふむふむと思いながらスタスタ近寄る。チョークスリーパーごっこをしているギデオンにふふんと答えてあげた。


「ギデオン。僕、精通してないよ」

「そう、ですか…っぐ…すみません、ちょっと助けて頂いても…」

「む…?シモン。ギデオンちょっぴり苦しそう。力こめすぎかも」

「あれ?そうですか?全然力籠めてないんですが…意外と軟弱なのかな??」


 チョークスリーパーごっこって、かなり危険な遊びみたい。力加減を間違えてしまったら一大事になる可能性もあるらしい。ちょうど今のギデオンみたいに。
 でもギデオンのご主人様であるレオは何も言っていないし、何ならシモンに「君は有能な従者なんですねぇ」と言ってにこにこしている。レオ余裕そうだし、ギデオン大丈夫みたい。よきよき。

 改めてすたすたーっと兄様達の元に戻り、むぎゅっと抱き着いてうりうり。


「おかえりなさい。兄様」


 ただいま。二人がふんわり笑って抱き締め返した。




 * * *




「神託が下ったようですね」


 柔らかな微笑みを湛える大神官ケルサス様。
 聖者様に最も近い人間であり、神殿の最高神官。我々の絶対君主。

 あの皇太子に並ぶ光属性の最高覚醒者である彼の元に、つい先程女神から秘密裏の神託が下った。下った神託は二つ。それもどちらも重大な内容だ。
 一つは聖者様の覚醒について。近い内に聖者様が覚醒し、帝国に幸福を齎す。そして二つは、そんな帝国の安寧を妨害する悪魔についてだ。

 ケルサス様が優美に頷き、純白の神官服を靡かせ振り返った。


「マーテル様の神託に従い、我々は悪魔を滅しなければなりません」


 プラチナブロンドの長髪が揺らめく。艶やかなそれは、射す光の全てを吸収するように輝いた。
 女神像を背にしたケルサス様は、跪く聖騎士達に告げる。始終穏やかな笑みを崩さず、神の如く儚げな相貌で。


「女神は嘆いておられる。我が子同然の光属性覚醒者、レナード皇太子殿下までをも誑かした重罪人が…邪神と共にこの神殿を脅かそうとしていると」


 聖騎士達の間にざわめきが沸き起こる。何と嘆かわしいことだと、各々思い思いに。
 この場に存在する全ての者が、これから帝国に巻き起こる悲劇と、それを覆す救世主の覚醒に鼓動を高鳴らせていた。聖者様が悪魔の子を裁き、信者の信仰は益々強くなることだろう。神殿は更なる力を得るのだ。

 緩む口元を手の甲で抑え、微笑むケルサス様に小さく頷いた。
 仰々しく腕を広げ、跪く聖騎士達に強く命じる。神殿が全てを手に入れ、この帝国の絶対的地位を確立する未来を夢見て。



「悪魔の子、フェリアル・エーデルスを直ちに神殿へ連行するのです!」


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