余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-開幕】

235.大嫌い

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 予想外の展開に内心あわわである。どういうことだってばよ…。
 ぱちくり瞬きながらぴしっと硬直。聖者がこちらに伸ばした手を反射的にぺしっと払うと、綺麗な顔がくしゃっと歪んで黒い色を宿した。


「なんでっ、どうして僕を拒むんだ…っ!何千年待ったと思ってる…!もう限界なんだよ…!!」


 子供が駄々を捏ねるみたいな、そんな癇癪と酷い泣き顔。
 ぼふっとベッドに沈み込んだかと思うと、聖者は僕を下敷きにしたままシーツに顔を埋めて泣き出してしまった。衝動を抑えた控えめなものでもなく、思いのままに吐き出すように号泣する聖者。嫌悪感よりも困惑が勝って眉を下げる。
 子供の姿の時ならともかく、今の聖者は成人男性の姿をしているから視界の威力も桁違い。大人の男性がベッドに伏せて号泣する様はかなり異様だ。

 下敷きになったままじっと待っていると、やがて落ち着きを取り戻した聖者がゆっくりと起き上がる。
 その間もぽつりぽつりと涙が落ちてきて、僕の頬やら額やらに零れたそれをごしごし拭った。号泣は収まったけれど、まだまだ涙は止まらないらしい。


「最初に見初めたのは僕なのに…お前が僕を見てくれなかったのが悪いんだ…全部お前のせいなんだ…」


 号泣が収まったかと思うと、今度は何やらぶつぶつと低く呟き始める。この情緒の不安定さは一体何なのだろう。本当に、マーテルはまるで成長を知らない子供みたいだ。
 神様だから、人間が想像出来ないくらい長い時を生きてきたのだろうけれど。リベラ様とは違って、マーテルは生まれた時から成長せず、体だけが大きく成長したみたいな違和感がある。


「……フェリアルは優しいもんね。情が湧いたら、絶対離れられないよね」

「……?」


 ぶつぶつ呟いていた聖者が不意にゆったりと口角を上げる。涙を流したまま微笑む姿は流石神と言うべきか、計算し尽くされた美しい容姿も相まって酷く神秘的に見えた。

 聖者の手が僕の腕をなぞって下がっていく。お腹に手を当てて動きが止まり、かと思うとそこを緩く撫でられた。
 途端に擽ったさを感じて身を捩る。聖者の腕に両手を当てて何とか退かそうとしたけれど、人間の力とは思えないほどその腕は動く気配がなかった。

 困惑の表情を浮かべながら顔を上げると、ゆったり微笑む聖者と視線が合う。聖者は僕を見下ろし、悦の滲んだ声で小さく呟いた。



「……子を孕めば、僕を見てくれるのかな」



 やんわりと撫でられるお腹。
 流石にそれほどの決定的なセリフを聞いてしまえば、鈍臭い危機感も本気を出して警鐘を鳴らすというもので。


「こ、こども…?」


 本当に、どういうことなのか。
 子を孕む?僕が…?聖者は、僕と子供を作るような行為がしたいと思ってるの…?
 何故。どうして。聖者の真意が理解出来ずに混乱していると、聖者はその手で僕の服を捲り上げて緩く笑った。
 直にお腹をゆるゆると撫でられ、更には唇を寄せて淡く口付けられる。

 ぞわわっと、冷たい嫌悪感やら不快感が背筋に走った。


「ここに僕の子を孕ませてあげる。お前は優しいから、自分の子は愛さざるを得ないでしょ?」

「は、っ…?」

「そうしたら、きっと僕のことも愛してくれるよね」


 ぴくっ。あわ…とあんぐりした表情のまま硬直すると、聖者は微笑みを崩さず服の中に手を入れた。
 ぞわわっとした感覚のままに手を払おうとした瞬間、視界の端から何かがぴゅーんと飛んでくる。

 ぺしっ!と聖者の頭を蹴飛ばしたそれは、僕の横に倒れ込んだ聖者を見てのしのしぽてぽてと怒った様子で地団駄を踏んだ。



「きめークマ!この変態野郎!ふざけるなクマ!」



 もふもふぽてぽて。
 丸い耳と尻尾をぴくぴく痙攣させて、怯えた様子を見せながらも僕を背に守ろうとする小さな体。
 上半身を起き上がらせてじっともふもふの背を見つめると、やがてのろのろと聖者が起き上がった。

 飛んできてくれたヒーロー…クマくんは、その様子にぷるぷる体を震わせながらも強く語る。


「な、なに勝手に被害者ヅラしてんだクマ!きめークマこえークマ!泣きたいのはご主人様だクマ!なんでてめーが泣いてんだクマ!」

「……」

「この変態野郎!なーにが子を孕めだクマ!ふつーにきめークマ!鳥肌ぞわぞわだクマ!」


 鳥肌なんて立たないもふもふの体を自分で抱き締めるクマくん。
 きめークマきめークマ!とあわあわ叫ぶ姿を見る限り、本当に心底きめークマ!と思ったのだろうと察しがつく。

 聖者は何も言わずにのろのろと体を起こし、かと思うと無言で腕を伸ばしてクマくんの頭をがしっと鷲掴む。
 呆然としていた意識がようやくハッとして、咄嗟に「クマくんを離して!」と聖者の腕に縋り付いた。


「クマッ!痛いクマ!離せクマ!!」

「……仮初の命を得ただけのゴミ屑の分際で…」


 バッ!と体を振り払われて後ろに倒れ込む。僕が離れたと同時に、聖者は何か呪文のようなものを低く呟いた。



「ゴミはゴミらしく、焼け死ね」



 その瞬間、視界を炎が支配する。
 ぼうっと聖者の手から現れた炎は、瞬く間にもふもふの体へ移って燃え広がった。


「……は…」


 徐々に真っ黒焦げになり、鷲掴まれた頭からぽろぽろと灰になって零れ落ちるもふもふのそれ。

 ものの数秒でボロボロになったそれを乱暴に放り投げると、聖者は満足気に口角を上げた。まるで本当に、要らないゴミを処分した後みたいな清々しい表情で。
 震える体でのろのろと動いて、灰になったそれも形が残っている部分も無意識に掻き集める。
 地面に伏せるようにしてその全てをぎゅっと抱き締めると、ようやく実感が追いついてきた。


「ク、クマくん…?」


 何も言わない。動かない。
 もう、動かない…?


「さぁフェリアル、ゴミは処分したよ。僕と子作りしよう?僕のこと、ちゃんと愛せるようになろうね」


 背後から包み込むように抱き締められる。
 耳元で囁かれる言葉が不快で、不快で。滲む視界とクマくんの灰に零れ落ちる雫を認識した途端、今まで感じたことが無いくらいの激情が湧き上がった。

 悲しい、悔しい。どれも違う。
 烈火の如く胸の内に燃え上がるその感情の正体は。


「……ぃ」


 蚊の鳴くような声。聖者が首を傾げて耳を寄せてくるのをいいことに、深く息を吸って大声で叫んでやった。




「お前なんてっ…大ッ嫌い!!」



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