余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-開幕】

246.魔石の行方(ガイゼルside)

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「やっと見つけたぜ…!!」


 何故か淡々と神官を痛め付けるギデオン。その様子を冷酷な笑みを浮かべて見据える皇太子。
 ようやく見つけた目的の皇太子を視認し、思わず声を上げた。


「おや。ガイゼルにディラン、と…ウサさん。お久しぶりですね」


 にこやかに手を振っているが、足元にはあられもない格好の神官が横たわっている。一体何があったのか心底気になるところだがぐっと堪えた。そんなことに興味を抱いている場合じゃない。

 なるべく神官を気にしないよう皇太子に近寄る。一応怪我もなく無事だったらしい。個人的にはどうでもいいが、重傷やら魅了済みやらだと面倒だったので安堵した。
 神官を甚振って遊べる程の倫理観を保っているなら、魅了に堕ちている可能性は無いと判断していいだろう。


「助けに来てくれたのですか?嬉しいです」

「そんなんじゃねぇ。てめぇが神殿に好き勝手されっと面倒だからだよ」


 ニコニコと相も変わらず胡散臭い笑顔の皇太子を引っ叩く。ふざけてる場合か。
 皇太子は確保したが、肝心のチビが見つかっていない。手がかりと言えば初めに入ったあの部屋。三人組と逃げたようだが、その三人組が誰なのかすら分かっていないのが現状だ。
 心当たりと言えば皇太子くらいだったが、どうやらこの場にチビはいないらしい。

 不意にディランが皇太子に近付き、同様の疑問を尋ねた。


「殿下。フェリを見掛けませんでしたか」

「フェリ?見ていないよ。ちょうど私も探しに行こうと思っていたところで…──」

「フェリアル様なら、先程廊下で別れたばかりですが」


 進展の無さそうなディランと皇太子の言葉を、ふと淡々とした口調のそれが遮った。
 感情という概念を捨て去ったようなギデオンの声音。硬直したのはギデオン以外の全員。

 にこやかな笑顔に青筋を浮かべた皇太子が振り返る。ギデオンの胸倉を鷲掴むと、口角をヒクヒクと痙攣させながら問い掛けた。


「何故それを早く言わないのです…」


 怒りを堪えるような震える声と手。
 ギデオンが少しズレたフェイスベールを直しながらぱちぱちと瞬く。どうして皇太子がキレているのかさっぱり分からないとでも言いたげだ。
「聞かれなかったので」とクソ真面目に答えるギデオンに皇太子が額を押さえた。一連の流れで皇太子の普段の苦労が窺える。

 ここまで問題のあるイカれ野郎を何故傍に置くのか甚だ疑問だが、ギデオンの実力が指折りであることは事実。剣の腕に自信がある俺でも、コイツと殺り合えば無傷でいられないという確信がある。
 危険の多い皇太子だからこそ、内面的な問題を後回しにしてでも実力を優先しなければならないのかもしれない。


「はぁ…とにかく、フェリを追いましょう」


 呆れた様子で溜め息を吐く皇太子。足元の神官を邪魔と言いたげに蹴り飛ばして歩き出す姿に若干引いた。
 さっきは同情したが、見方が変わった。この皇太子だからこそこの護衛が選ばれたのではないだろうか。ある意味似合いの組み合わせだ。

 ドン引きの表情を何とか抑えて後を追おうとした時。ふと兎がとことこと皇太子に駆け寄り、小さく跳ねながら腕に抱えたボロを差し出した。


「ん?どうしました?」

「皇太子。これ直せないかぴょん?ぬいぐるみぴょん」


 あぁそれ、ぬいぐるみだったのか。今更理解して頷いた。
 兎の大事なぬいぐるみなんだろうか。首を傾げながらも様子を窺っていると、兎の目線になるようしゃがみ込んだ皇太子が申し訳なさそうに眉を下げた。


「私が傷を癒せるのは人間だけなのです。お役に立てず申し訳ありません…」


 皇太子の答えにたちまち兎の長い耳が折れる。またもやしょんぼりと伏せられた耳を見て、やけに騒がしい感情を抱いた。分かり易い落ち込み具合がチビと重なったからだろうか。
 どうにも落ち着かず辺りを見渡す。壁際に飾ってある趣味の悪い動物の標本を見てハッとした。
 暗い空気から抜け出して壁際に駆け寄る。兎を呼んで標本に指をさし、ドヤ顔で語ってやった。


「新しいぬいぐるみやるよ兎!獅子とか鳥とか色々あるぜ!」

「ぬいぐるみというか、ほぼリアルの動物そのものでは?」

「流石にフォローが下手過ぎるぞガイゼル」


 人が全力で空気和らげてやってるってのに散々な言い様の馬鹿共。
 余計なことを言うディランと皇太子を睨み付けて黙らせる。兎は折れた耳をピンと伸ばしてこっちに駆け寄って来た。ほらな、やっぱ俺のフォローは成功だったんだ。

 真っ先に駆け寄ったのは熊の標本の目の前。熊が好きなんだろうか。
 これにするか?と尋ねようとした瞬間。ふと兎が震え始めたのを見て息を呑んだ。さっきと同じ泣いているかのような反応。突然どうしたのかと慌てていると、兎は震えの混じる小さな声で何やら呟いた。



「もうこれじゃなくてもいいから…うごいてほしいぴょん…」



 ボロをぎゅっと抱き締めて呟く兎。一体何の話だと困惑する。
 兎が熊の標本にそっと触れた直後、それは起こった。


「うおっ!」


 突然ポケットが光り出し、慌てて手を突っ込み中に入っているそれを取り出す。
 中身はさっき拾った例の魔石。なぜ急に反応したのかと驚いていると、魔石はひとりでにカタカタと動いて宙に浮かんだ。呆然と固まっている間にもそれは縦横無尽に動き、やがて標本の熊の前でピタリと止まる。
 すっと溶け込むように心臓付近に消えた魔石を見てあんぐりと目も口も大きく開いた。

 標本が瞬く間にリアルな状態に変化する。
 毛並みが生きているかのようにもふっと靡き、中身が形成されていくように筋肉やずっしりとした雰囲気が出来上がった。まるで本物の熊のように。
 やがてそれは、本当に動き始めた。




「なんじゃこりゃクマ!!このクマぜんっぜん可愛くないクマ!!」



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