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【聖者の薔薇園-開幕】
247.熊と兎(ガイゼルside)
しおりを挟む唖然とした空気が流れる。
でけぇ図体で蹲りながら沈む熊の姿が異様で硬直する中、初めに動いたのは兎だった。
折れていた長い耳をピンと張り、毛並みをふわっと逆立てる。ぽてぽてとその場を一旦離れたかと思うと、助走をつけて走り出し熊に勢いよくドロップキックをかました。
兎より何倍もでかい体がどすっと倒れる光景、中々カオスだ。
「ぶべぁっクマッ!!何しやがるこの腹黒ウサギ!!」
その辺のガキでも大人でも、全員泣いて逃げだしそうなガタイの熊。ドスドスと地団駄を踏むと軽い地震が起こって床が揺れる。
兎はそんなリアルすぎる熊相手でも物ともせず、ふんっとそっぽを向いて辛辣な言葉を浴びせた。
「挨拶代わりぴょん。こんなんで倒れるとか、そのでかい体は飾りぴょん?」
「キーックマ!!相変わらずムカムカするクマ!!」
ドスドスと暴れる熊。体は兎の言う通りアレだが、動きが幼稚だからかあまり怖くはない気がしてきた。何というか、威圧感的なものが一切ない。オーラがゼロだ。
それにしても、コイツ例の熊だったのか。チビが大事にしてるっつーぬいぐるみ…それが燃えちまって兎が悲しんでたんだな。
さっきまであれだけ熊のボロを抱いて震えていたくせに、今は淡々とした態度で熊と接している。ピクピクと嬉しそうに揺れる丸い尻尾が感情を噓偽りなく表しているというのに、兎はツンとした態度を貫いていた。
コイツも中々に面倒な性格をしている。呆れながらも苦笑した。
「そのくらいデカかったら、もう簡単に燃やされないはずぴょん。精々周りを見て動けぴょん。ちんたらしてるから燃やされたりするんだぴょん」
「なんだとクマ!クマは悪くないクマ!ガシッと頭掴まれてぼわっと燃やされたんだクマ!どうしようもねークマ!」
「掴まれる前に躱せって言ってんだぴょん。のろまクマはほんとお馬鹿ぴょん。ウサがいないと何にもできないどうしようもないクマだぴょん」
ドスドス地団駄を鳴らす熊とツンとそっぽを向く兎。会話の内容はアレだが、一応普段通りのアホ共に戻ったようで何よりだ。
僅かながらもほっとしつつ本題に戻る。クマとウサギは無事だった。こっちの問題は解決だ。あとは最大の目的であるチビを何とかしねぇと…。
やかましく騒ぐデケェのとちっこいのを背に話し合いを始めた。
「さて、何やらそちらの問題も片付いたところで…フェリの話に戻りましょうか」
軽く手を叩いて切り出す皇太子に頷く。
これからどうするか。チビを助ける、というのが第一の目標だが、そもそもチビの目的が何なのかを把握しねぇとこっちの動きも定まらない。
神殿から脱出しようとしているのか、はたまた…。ギデオンに問うが、具体的な目的は聞き出していないらしい。こういう時だけ無能なのがクソ腹立つ。
「あー…まぁとりあえず、ギデオンがチビと別れたっつーとこまで行くか?」
チビに繋がる手がかりと言えばそれくらいしか無い。チビの足跡を追う、その程度だ。
他の連中もこれには異論が無いようで、特に反対されることなく次の動きが決まった。ギデオンがチビと別れた場所、そこまで行けば新たな手がかりが見つかるだろう。
ようやく次の動きが決まり、早速行くかと踏み出そうとした直後。
不意に廊下が騒がしくなりハッとする。どうやら長い間ここに居座り過ぎたらしい。この辺りの騒ぎを聞きつけた神殿連中共が駆け付けてきたようだ。
ざわざわと喧しく駆け込んでくる数人の神官と聖騎士。数はそれなりだが倒せない程でもない、が…出来ればこんなところで油を売るのは避けたい。
どうするべきかと考え込んでいると、ふと目の前にデカい図体が立ち塞がった。まるで自分を盾か壁にでもするように。
「ガオー!!クマッ!」
「ガオーは熊じゃないし語尾にクマついちゃってるぴょん。しっかりしろぴょん」
「ちょっと黙ってろクマ!精一杯怖そうにしてんだから余計なこと言うなクマ!!」
熊なんだか獅子なんだかよく分からん声を吠えるクマと普段通りの兎。
一体何事かと目を見開いていると、クマの姿を視認した神官と聖騎士共が突然慌て出した。
「なっ、なぜ熊がここにっ…!?」
「それもこれほど大きな個体…初めて見たぞ…ッ!!」
「おいッ…逃げないと食われちまうんじゃないか…!?」
恐怖の滲んだ声にそういうことかと納得する。
俺達の中ではこいつが例のアホクマであることを前提に理解しているから恐怖はないが、こいつらのようにただの熊として認識する連中にとっては恐怖の対象でしかないだろう。
元々、熊は野生動物の中でも警戒対象として最上位に位置するほど危険な動物。森やら山やらで鉢合わせたら真っ先に逃げろと国が警鐘を鳴らす程だ。下手をすれば下級の魔物よりも恐れられるほどかもしれない。
それが実際こんな場所にいて、それもこれだけデケェ個体なら尚更恐怖心は掻き立てられることだろう。
何故これだけデカいかと言えば、捕獲史上最も大きな個体、という名目で飾られていた標本がクマの体になったからというだけの話なんだが。
「お前ら、ここはウサ達に任せて先に行けぴょん」
クマの背に乗りこちらを振り返る兎。ゴリゴリの死亡フラグを語ってしまっているが大丈夫だろうか。
とは言えその提案が有難いものであることも事実。ディランと皇太子の二人と顔を見合わせ、数秒逡巡してから頷いた。
兎に視線を向けて答える。
「分かった。兎、テメェも精々気を付けろ。お前らが消し炭にでもなったらチビが悲しむからな」
「ふん。お馬鹿クマみたいな醜態は晒さないぴょん」
「クマは見るからに強いクマだから問題なしクマ!人間達はみーんな恐れおののいて逃げること間違いなしクマ!」
ドヤ顔しながら息巻く二体に溜め息を吐いた。
これだけ楽観した雰囲気を見てしまえば、こいつらなら大丈夫かと根拠のない信頼をしてしまっても仕方ない。
呆れながらも「頼んだぞ」と声を掛け、クマが神殿連中に襲い掛かった一瞬の隙をついて部屋から抜け出した。
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