余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
214 / 423
【聖者の薔薇園-開幕】

249.合流(ガイゼルside)

しおりを挟む
 

「敵の数が少なくなってるな」

「熊を恐れて逃げ出したんだろう」


 曲がり角から顔を覗かせる。さっきよりも気配の薄い神殿内部に疑問を抱いたが、ディランの言葉で納得した。
 あのクマ、アホっぽくて実力は信頼出来ないが存在だけでも十分な威圧になるのか。あとは本当にアホなことを仕出かしてハリボテがバレないよう祈るばかりだが…まぁ、あの兎が居る限り問題ないだろう。

 とにかく、こうして神官達が自主的に神殿から離れてくれるなら好都合。コソコソ隠れながらの移動も面倒だと思っていたところだ。
 誰もいないことを確認して堂々と廊下に出る。ちょうどこの辺りがギデオンとチビが分かれた場所らしいが…見渡す限り、チビの姿はどこにもない。
 手がかりと言えば、この辺りに倒れる多くの聖騎士達。これだけの数を倒して進んでいるなら、チビと行動を共にしている人間はかなりの実力者に違いない。


「ギデオン。フェリはどちらへ進んだのですか?」

「はて…そこまでは確認しておりません」


 無表情できょとんと首を傾げる馬鹿。皇太子が額に青筋を浮かべて「どうして君は肝心なところで無能になるのです」と問うが、当の馬鹿はクソ真面目な表情でぱちくりと瞬くだけだ。

 そんなところだろうと思っていたから特に驚きは無い。最早ギデオンには何の期待もしていないから別にいいのだ。
 それよりも今考えるべきはここからの動き。左右どちらに行くか…ここを間違えば、せっかくここまで辿り着いたというのにまた離れてしまう可能性がある。


「殿下。匂いでフェリの痕跡を辿るというのは」


 そんな時、ふとディランが口にした言葉。全員がハッと硬直した。


「すみません。鼻が良いこと…忘れていました」

「てめぇの能力だろうが。忘れんなアホ」


 てへっと頭をつく皇太子に苛立ちが湧く。ぶっ叩きたい衝動を何とか堪えて拳を引っ込め、さっさと匂いを確認しろと催促した。
 初めからこの方法を選んでいれば、わざわざギデオンとチビが分かれた場所まで来る必要なかったんじゃないか。一瞬そう思ったが首を振った。ここに来て思い出せたならそれでいいだろ。

 皇太子が左右を向いて何度か匂いを嗅ぐ。犬みてぇだな、とは言わなかった。流石に不敬か。


「ふむ…」

「何か分かったのか?」

「えぇ。ですが何者かに強くマーキングされているようで…断片的な位置情報しか読み取れません」


 マーキング?嫌な言葉に顔を歪める。
 どういうことかと問い質すと、皇太子は自分でもよく分からないと困ったように眉を下げた。困惑しているのはコイツも同様らしい。


「フェリの匂いに、別の者の匂いがこびり付いているのです。まるで同化するように…。匂いが混ざり合ってしまっているので、嗅ぎ分けも上手くいきません」


 マーキングということは、誰かが意図的にチビに自分の気配を塗りたくったってことか?そう問うが、皇太子はどうも納得がいかないような顔をして曖昧に首を傾げるだけ。

 どうやらマーキングは匂いという意味だけでなく、相手への強い感情でも成り立つものらしい。
 例えば最も多いのは、恋情。そいつを慕うあまり自分の匂いやら何やらを押し付け、他者の本能的な警戒心に訴える。こいつには手を出すなと。
 つまりマーキングというのは、執着の証拠。意図的でなくとも執着心が強ければ無意識にマーキングしてしまうこともあるらしく、本人には自覚がないということも多いようだ。


「……よく分かんねぇけど、フェリの場所の詳細は読み取れねぇってことだよな?ならどうするよ、手掛かりゼロだぞ」

「ま、まぁ確かに詳細は分からないのですが…断片的には読み取れますので!匂いを辿れる場所までは案内出来ますよ」


 少し悔しそうに力説する皇太子。人並み以上のプライドを持っているからか、自分の能力が役立たないという状況に我慢ならないらしい。
 こいつのプライドとかはどうでもいいが、チビの場所が少しでも分かるならそれで良い。匂いが消える前にと急ぎで向かうことになった。


 向かうことになったものの、その匂いが残っている場所に近付くにつれ雰囲気が物々しくなる。
 床に伏せる聖騎士の数が多くなっているのだ。これだけ増えれば、この先にある匂いの残る場所を見るのが少し躊躇される。チビは本当に無事なのか?
 嫌な音を立てる鼓動を無視して皇太子の後を追うと、やがて広い場所に出た皇太子が思わずと言ったように立ち止まった。


「おい、どうしたよ。着いたのか?」

「…えぇ。着いたには、着いたのですが…」


 歯切れの悪いその姿に焦れて皇太子の視線の先を覗く。天井の無駄に豪奢なステンドグラスから射し込む日の光で、その場の至る所に広がる赤が鮮やかに映えた。

 倒れているのは今までとは比べ物にならない、数十人の聖騎士。
 その中心に座り込む一人の男と、その男に抱き寄せられるようにして眠るもう一人の男。この場の全員が純白の騎士服を着ていることも相まって、全身黒づくめの二人の男が異様な雰囲気を纏っているようにも見えた。
 よく見ると、その二人の男がいる場所には一際多量の血が広がっている。あれだけの血、もし一人のものなら出血多量でとっくに死んでいるだろう。


「おや。彼らですよ、行動を共にした二人組は」


 不意に声を上げたギデオンの言葉に「は!?」と目を見開く。
 奴らがチビに手を貸した二人組?驚愕で動きを止める中、ディランだけは特に驚く様子もなく淡々とその二人組の元へ歩み寄った。

 慌てて後を追うと、その足音に気が付いたらしい臙脂色の髪の男が振り返った。
 眼帯と乱れた髪で表情はよく分からない。だが気のせいだろうか、僅かに見えた目元が、微かに赤く染まっているような気がした。


「あれ?ディランくんじゃん!おひさー」

「どうしてここにいる」

「うん?どうしてってそりゃ、君達の助っ人に来たに決まってんじゃん?」


 男はそう言うと、わざとらしくニカッと胡散臭い笑顔を浮かべた。

しおりを挟む
感想 1,721

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。