余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-終幕】

282.億劫な日常(ガイゼルside)

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「隊長、スラム街で何かあったみたいですよ。空から人が落ちてきたとか何とか…」

「……あそこはいつでも何かしら起きてんだろうが。落ちてきたのもどうせ鳥とかじゃねぇのか」

「もー、やる気無さすぎですよ隊長。就任したばっかなんだしやる気見せないと。実力だけじゃ部隊のトップは務まらないんですから」


 下っ端隊員のくせに一丁前なことを言う副官の男。
 入団当初から散々暴れたことが原因で周囲からは恐れられていたが、コイツだけは俺相手にも臆せず発言してくる。舐めた口調の奴だが、それなりに気に入っている後輩だ。この男は将来大物になることだろう。

 とは言えそんな後輩の言葉が当然響くかと言えばそうでもない。
 実力を買われて最年少で隊長職まで上り詰めたは良い。だが守るものが傍に居ない今、やる気なんて湧く筈もない。与えられた任務は熟すが、それだけだ。
 あいつが剣を振るう俺をカッコいいと言ったから。だから俺は誰よりも強い騎士を目指したというのに。


「ほら隊長、いつまでも寝てないで見回り行きますよ」


 ソファの背側から顔を覗かせる副官。そろそろ小言を聞くのも飽きたからと起き上がり、億劫な体を叱咤して腰を上げる。

 正直なところ、国民がどうなろうとクソほどどうでもいい。それはついでで、アイツを守りたかったからこそ騎士になろうと誓ったのだ。
 いつまでもちっこくて弱っちいアイツが安心して街を歩けるように。その為だけの努力と存在意義。だから、アイツがいなくなるなんて想像もしていなかった。俺達はずっと一緒なのだと、根拠のない未来を信じ込んでいた。

 今はただ祈るだけ。
 何処かで生きているという証拠が少なからずあるから、俺は消えずにここにいる。アイツがいつか帰ってきた時、俺が居なければ泣き虫のチビはきっと涙を流すから。
 これは罰だ。前世を思い出した今なら受け入れられる。弟を捨てたクソみたいな兄に、輪廻を経てようやく罰が下されたのだと。
 この苦痛と後悔を乗り越えれば、いつかアイツに再会することが出来るのだろうか。


「あれ?隊長、飾り紐千切れかけてますよ」


 ふと副官が紡いだ言葉でハッとする。剣の柄を見ると、そこに結んだ古びた飾り紐が確かに切れかかっていた。アイツの瞳の色が混ざった、懐かしい日々を思い起こす飾り紐が。


「それずっと付けてますもんね。お気に入りなんですか?」


 茶化すような声を聞き流す。気に入ってるとかそんなことは関係ない。チビから貰った物は身に着けて当然だ。


「てかそれめちゃくちゃ素朴ですよね。隊長って一応公爵家のご令息なんだし、この機会にもっと良いやつ買えば……って、痛ッ!!なにするんですか!!」


 クソみてぇな戯言を吐く副官をぶん殴る。いきなり何を言い出すのかと思えば、自殺願望か?この飾り紐に価値を見出せないとは愚かな奴だ。
 苛立ちで完全に目が覚める。寝る気も起きず仕方なしに歩き出すと、コブの出来た頭を抱えた副官が涙目で追ってきた。


「ったくもう…ただでさえ団長候補に挙がってんですから言動には気を付けて下さい!あんまり暴力的だと候補から外されるかもしれませんよ!」

「興味ねぇ」

「またそうやって…!大体隊長はいつもいつも…──」


 また面倒な小言が来る、と顔を歪めた直後。詰所の入り口が突然勢いよく開かれた。
 駆け込んできたのはこの時間の巡回を任せたはずの隊員。何故か青褪めた顔で息を切らすソイツが叫ぶように声を上げた。


「隊長!十一部隊の副隊長から緊急の報告が……!!」


 十一部隊。つい半年前にスラム街に設立されたばかりの新部隊だ。
 隊長と副隊長は例の暗殺者達。奴らから緊急で報告が来るなど珍しい。思わず怪訝に首を傾げると、隊員は一枚の紙切れを震える手で渡してきた。
 それを受け取り折られた中身を開く。たった一文、小さな紙の真ん中に並んだ内容に息を呑んだ。


「隊長……?」


 副官の声で我に返る。くしゃりと潰れた紙切れをポケットに押し込み、無言で詰所を出て馬に飛び乗った。
「隊長!?」と再びかけられる呼び掛けに振り返り、困惑を表情に滲ませて追ってきた副官の肩をぽんと叩いた。


「隊長代理、後の任務は全てお前に任せる。それと今直ぐディランに十一部隊の詰所に来いと伝令を送ってくれ」

「は、はぁ!?ちょ、急に何言ってんですか!!」

「頼んだぞ副官。信頼してるぜ」

「こういう時ばっか都合良いこと言いやがって…!!」


 千切れそうな飾り紐を柄から取ってぐっと握り締める。
 頬を染めるチョロい副官を背に、スラム街までの道を全速力で駆け抜けた。

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