余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-終幕】

288.影と彼の愛の行方(後半レナードside)

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「フェリアル様!」


 あわわっという混乱と共に落ちてくる焦燥混じりの声。
 ちーんと倒れる体を誰かに抱き起され、ぐらぐら揺れる脳に頭痛を感じながら必死に瞼を上げた。

 視界がぐわんぐわんと揺れている。痛みのせいか熱い額に冷たい手のひらが添えられ、気持ちいい感覚にゆるりと目を細めつつぱちくり瞬いた。
 やがて明確になった視界の中。ドアップに映った緑の瞳にぎょっと硬直する。乱れた茶髪がさらりと流れて、それが頬を撫でた感触でハッと我に返った。


「し、しもん……?」


 名を紡いだ瞬間ゆらりと揺れる瞳。同時に滲んだ雫で緑の瞳が潤んで、今にも泣きそうな表情に胸がきゅーっと締め付けられた。

 震える大きな手が頬をふにゅっと包み込み、柔くふくふくと撫でた後に泣き顔がくしゃりと歪む。むぎゅっと強く抱き締められあわあわと瞬くと、不意に頭上から小さな嗚咽が聞こえてぴたりと動きを止めた。
 恐る恐る視線を上げた瞬間、上から零れ落ちてきた何かがぽたりと頬に当たる。拭っても拭ってもそれは絶えず零れ落ちてきた。


「っ、ぁ……」


 微かな嗚咽の後、何度か口を開閉したシモンは結局何も言わずに唇を引き結ぶ。
 何も言わないシモンに僕もそっと口を閉ざして、震える体をただそっと抱き締め返した。



 * * *



 扉の向こう側から聞こえる嗚咽。中を覗くまでもなく分かる、あの子の確かな気配。
 号外を読んで慌てて転移で戻ったはいいものの、先を越したシモンに続いて入ることは出来無さそうだ。完全にあの二人の世界になってしまっている。
 仕方なく静かに踵を返して廊下を歩くと、傍についていたギデオンに淡々と尋ねられた。


「入らないのですか?お目当てのフェリアル様は本当に戻ってきたようですが」

「あの空気で割り込める訳ないでしょう馬鹿ですか?感動の再会を邪魔するほど恥知らずでも鬼畜でもありません」

「殿下だって感動の再会でしょうに」


 すかさず返された言葉に黙り込む。それを言い返せないと察したらしいギデオンは、フェイスベールの下で一体どんな表情を浮かべたのか。スッと目を細めて相変わらず無感情の声音を吐いた。


「なるほど、恥をかくのが怖いのですね。魂を繋いだ唯一無二の侍従とただの友人の皇太子。あの後に再会を果たしたとしても、あれだけ感動的なムードにはならないでしょうし」

「説明要らないので。私が一番良く理解しているので黙って下さい」


 わざわざ文字に起こして詳細を話す辺り、この変態は私の情けない判断を面白がっているに違いない。
 無表情で揶揄われるのは割といつものことだが、流石に今されるのはかなりダメージが大きい。実際それが正しいのだから尚更だ。

 シモンとフェリの再会の様子を見て思い知った。どれほど脈が薄いのか。
 一番あの子へのアプローチに尽くしていた自信があったというのに、あれ以上に感動的な再会を果たす未来が全く見えなかった。
 シモンと同じ土俵に立つことすらそもそも間違っているのかもしれないが、そのシモンに贖い切れない仕打ちをした張本人である自覚がある故に尚更キツイものがある。


「正直……無理ですよね?そもそも前世でシモンに非道な仕打ちをした時点で……ぶっちゃけ私、そもそも可能性すらありませんでしたよね?」

「突然弱気になってどうしました?謎の無敵モードの時はプロポーズまでしていたでしょうに」

「やめて。やめてください」


 容赦ない追撃にダメージが更に増す。この男が励ましなんてするはずもなかったと、弱っていた心を叱咤して平静を取り戻した。


「はぁ……一応片想い歴は最も長い自信があるのですが……」

「一番片想い歴が長いのは例のメンヘラ神でしょう。ざっと数千年の片想いですよ」

「それを出されたら終わりなのですが。片想い歴くらいは誇らせてくださいよ」


 それまで取られてしまったら、私は本当にこのフェリ争奪戦で何一つ突出するものが無い人間になってしまう。
 双子はそもそも家族という最大の勝ち要素を生まれ持っていて、シモンは言わずもがなフェリの唯一無二、ローズは恐らくフェリの一番の理解者で、そして従兄弟の公子、ライネスに至っては……。


「……私が一番地位は上ですし、年も近いし何より敏い。十も年上で鈍感で簡単に身を引いてしまうような気弱な人間より、よっぽど私の方が好条件なのに……」


 思わず零れた子供の愚痴のような情けない言葉は、やはりギデオンに容赦なく一蹴されてしまった。


「そういうところですよ。恋愛の基準を条件で見てしまうところ、モテない男の典型ですね。愛は一直線でしか無いのですよ殿下。どれ程魅力的な人間だろうと、最後は単純に相手を愛せる男に敗北してしまうのです」

「……私だって、単純にフェリを愛しています」

「貴方の愛は策略が絡み過ぎて複雑になってしまっている。あと単純に相性が悪いです。フェリアル様の好みは積極的で守ってくれるような人間ではなく、静かに包み込んでさり気なく背を押してくれる人間と見受けます」

「その助言、何故アプローチの最中に教えてくれなかったのですか」

「勝ち目の無い争いに本気で助言をするほど暇では無いので。助言は全て恋愛相談のテンプレートです」


 ぴくっと笑顔の仮面に亀裂が入る。
 あぁ本当に、この男は気に入らない。前世でもそうだった。悪事だろうと間違った事だろうと苦言一つ呈さず命令に従うくせに、肝心なところで意味深な視線を向けて不愉快を誘う。
 全て見透かしているような瞳が不快だ。見透かしていながら自分からは決して動かない淡白さも。

 だが……私はいつだって、この無情さに救われていたのかもしれない。


「だからと言って諦めるのは無しですよ殿下。せめて当たって砕けて下さいね」

「何様のつもりなのですか君は。言われなくとも当たりますが……砕けるつもりはありませんから」

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