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【聖者の薔薇園-終幕】
290.じぇっとこーすたー
しおりを挟むどーどーと宥めて数分。ようやくちょっぴりだけれど正気を取り戻したシモンは、窓際で僕をむぎゅむぎゅ抱き締めたまま完全に静止してしまった。
ふときょろきょろ見渡してみると、いつの間に出て行ったのかウサくんの姿が何処にも見えない。シモンの錯乱ぶりに流石のウサくんもドン引きしてしまったのだろうか、ぽてぽてと逃げるもふもふを思い浮かべてしょんぼり眉を下げた。
何だかんだ自由なウサくんだから、単純に待つことに飽きてしれっと出て行ってしまった可能性も否めないけれど。
「シモン、落ち着いた?」
「……すみません。うっかり本音が零れて心中の提案をしてしまいました」
本音なのね、という不躾な反応は返さない。こういう時はそうなのねふむふむと頷くだけで留めるのが良いのだ。
とは言え、ずっと一緒と約束したから心中は別に悪い提案じゃない。シモンはただ約束の範疇で心中と口にしただけだ。たぶんだけれど、シモンは本当に僕の死と共に命を絶ちそうだし……。
なんて、年齢を考えるとシモンが先に亡くなってしまう可能性大だから、その場合はどうしようかなーという考えはその時になってからでもいいか。うむ。
「うむ。じゃあ窓しめよう?兄様たちに怒られちゃう」
「えぇー……このまま旅しません?」
「しない。シモン、めっ!」
ふにゅっと頬を摘まんでメッをすると、シモンはしゅんと唇を尖らせて「ハイ……」と頷いた。うむ、素直でよろしい。
機嫌を直してもらうためにむぎゅーと抱き着いて頭をよしよし。すんすんくんかくんかという激しい呼吸の音を聞いてよきよきと頬を緩めた。匂いを嗅ぐのは機嫌が直った証拠だ。
満足気に頷いてシモンから離れようとした瞬間。ふと窓の向こう……見下ろした先に広がる庭園を見てぴたりと硬直する。じっと見つめた先には、綺麗な翠色の瞳があった。
「あ……」
真ん丸に見開かれた瞳。ずっと見ていたのだろうか、こちらを見上げて固まっていた彼は、僕が気付いたと察するなり焦燥した様子で踵を返して去ってしまった。
それを淡々とした様子で追うフェイスベールの彼も同様に。やがてハッと我に返り、しょんぼりするシモンに慌てて声をかけた。
「シモン!庭にいく!ここからおりて!」
「え?でもついさっき閉めろって……」
「うそついた!」
「う、嘘ついた!?よく分からないけど……うーんまぁ可愛いからいっか!おります!」
早く。早く彼を追わないと。去る直前に見えた彼の表情が頭から離れない。
困惑を一瞬で吹き飛ばしたシモンが躊躇なく窓を超えて飛び降りる。普通なら地面に落ちてぐしゃあぺしゃあとなるところだけれど、超人的な身体能力を持つシモンはジャンプと同じ軽さでスタッと軽快に着地した。
まだ微かに見える後ろ姿を指さして「追いかけて!」と指示すると、シモンはあいあいさーと頷いて影の上を滑り出した。走り出したのではなく、滑り出したのだ。
「じぇっとこーすたーだ!」
「ジェット……?」
高速で滑るシモンに抱き着いてわーわーと声を上げる。
時折緩急があったり物凄い速さで滑ったりするのがジェットコースターみたいでとっても楽しい。ジェットコースターは乗ったことがないからアレだけれど、たぶん乗ってみればこんな感じに違いない。うむ。
「ぴゃー!」
「うーんなんだこれ。まぁ可愛いからいっか!」
影をレールにして滑るジェットコースター。
何だか楽しくなってきたから、入り組んだところを指さし「次あっち!」と指示して難関コースも楽しんでみた。うーむよきよき、スリル満点。
「シモンじゃんぷ!」
ぴょーんと飛ぶシモンに「ぴゃー!」と抱き着く。まるで空を飛んでいるみたいな感覚にわーい!と両腕を上げた直後、不意に地上に見えた呆然とした表情にハッと我に返った。
「シモンすとっぷ……」
地上に下りてききーっと止まるシモン。ちょうど彼らの目の前に着地したみたいで、正面にはあんぐりと目も口も開いたレオと相変わらず無表情のギデオンが立っていた。
「……」
「……えぇっと」
無言で固まる僕を見て困惑気味に声を上げるレオ。
乱れた髪を何も言わずに手で撫ぜて抑えて、シモンの腕の中からんしょんしょよっこらせと脱出。ぴたっと下りてとてとてとレオに近寄る。それと同時に後ろからシモンが手を伸ばして、後頭部のぴよんっと飛び跳ねた髪をさり気なく戻してくれた。
沈黙が流れて数秒。覚悟を決め、キリッとした表情を浮かべて真剣に話しかけた。
「レオ。逃げちゃうレオ探してた。しっかり追いかけてやっと追いついた」
「遊んでましたよね……?」
「追いついてよかった。よきよき」
「楽しそうに遊んでましたよね……?」
キリッと見上げて感動的に両腕を上げる。やっと会えたからお祝いのぎゅーをするのだ、むぎゅー。
何だか納得行かない顔をしているレオがぎこちなく僕を抱き上げる。ちょっぴり気まずい空気の中、僕達はむぎゅーと感動の再会を果たした。
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