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【聖者の薔薇園-終幕】
295.公爵家の三兄弟
しおりを挟む部屋に戻ってぬくぬく。ディラン兄様とガイゼル兄様に挟まれるようにしてソファに沈み、シモンが用意してくれたホットミルクをごくごくと飲み込む。
ぷはーっと飲み干したコップをそそくさと回収され、手持ち無沙汰になった両手はぎゅっと兄様達の大きな手の中へ。鎖やら枷やらという明らかな拘束はせずとも絶対に離さないという強い意志を感じる……。
することもなくぼんやりしていると、窓から差し込む夕暮れの暖色の光のせいか突如眠気が襲ってきた。
ぽわぽわと瞼を上げたり閉じたり。こっくりこっくりする頃には、何故か両隣の兄様達が僕を見下ろしてぐぬぬと悶絶していた。一体どうしたと言うのだろう。
「むにゃ、むにゃ……」
「眠いのかチビ。抱っこしてゆらゆらしてやろうか?それとも抱き枕になってやろうか?」
「すやぁ」
「あ、寝やがった。可愛すぎだろこのヤロー」
眠気を覚まそうにも体が動かない。ぽわぽわゆらゆらーっと揺れていると、何故か隣のガイゼル兄様にわしゃわしゃと撫でられ抱き締められぐわんぐわんされてしまった。
やがてぴたっと止んだ動きが気になりちょっぴり目が覚めて瞼を上げると、そこには今にもディラン兄様にぼこぼこにされそうなガイゼル兄様がいた。この短時間に一体何が。
「馬鹿が。気持ちよさそうに眠っているのに邪魔するな。可愛い寝顔を拝めないだろ」
「起こすつもりは無かったんだよ悪かったって!ちっとばかし構っただけじゃねぇか……」
一日何回喧嘩をすれば気が済むんだこの二人は……なんて呆れ顔をしつつ二人の間でぱっと万歳して喧嘩に割り込む。メッと仲裁すると、二人はつーんとしながらも渋々互いから手を離した。
「フェリ。この馬鹿は放置して兄様と一緒に添い寝して眠ろう。兄様が子守唄を歌ってやる」
「あ?ふざけんなチビは俺と寝るんだ!子守唄だって俺が歌う!絵本だって読んでやる!」
せっかく止めたのにまたまた喧嘩を始めてしまった二人。どこからツッコめば良いのやら、とにもかくにもそもそもおかしいところから指摘するしかないだろう。
子守唄だとか絵本だとか。まさか兄様達はまだ実感していないのだろうか。実は僕がもう十三歳だということを。
「にいさま、にいさま。子守歌も絵本も大丈夫です。僕は一人で寝ます」
「あっ!?なんでだ!!」
ものすごいびっくりした様子のガイゼル兄様。そんなに驚愕だったかな、今の発言。
ディラン兄様もぴしーっと固まっているし、何だかあまり良い空気ではなさそう。わなわな震えるディラン兄様とびっくり顔ガイゼル兄様。二人に衝撃を感じさせてしまったことにしょんぼり眉を下げつつ、二人に分かるようにゆっくり説明してあげた。
「僕、もう十三さいです。大人です。子守歌は子供に聞かせるものです。絵本も、大丈夫。僕、もう小説を読むお年ごろなのです」
「お年頃って、お年頃って……きゃわっ!」
悶絶するシモンの声が聞こえたような気がしたけれど、たぶん気のせいなので聞き流した。
問題は兄様達だ。子守歌はいらない、絵本も大丈夫。そう語った時の二人の表情は唖然としていて、なんだか悪いことを言っているような気持ちになった。
何も言わない二人に不安になって、そわそわと指を絡めて沈黙に耐える。やがてようやく動いたかと思うと、兄様達は揃ってとさっと膝をついてしまった。なにごと。
「もう、絵本は必要ない……?子守歌も……?」
「ちょっと前まで抱っこっつってベッドに潜り込んできてただろうが……」
「ビー玉みたいに小さくて、歩くことすらままならなかったというのに……」
「喋るのも笑うのも下手くそだったってのに……」
しくしく、めそめそ。唐突に繰り広げられる思い出話にあわあわしてしまう。
ちょっと前までと言いながら、二人はとっても昔の話をしているような気がする。ビー玉みたいに小さかったのも歩くことすらままならなかったのも、喋るのも笑うのも出来なかったのも、全てがもう十年以上前のことだ。
「あぅ、あの……にいさま……」
しゅん……と子犬みたいな目を向けてくる兄様達。あうっと庇護欲を刺激され、そわそわしながら小さく答えた。
「い、一緒に寝る……今日は兄様たちと、一緒のベッドで寝る……」
ぱぁっと晴れる表情。しょんぼり膝をついていたはずの兄様達が勢いよく立ち上がり、キラキラした瞳で僕をひょひょいっと抱き上げた。うーむ、何だか一本取られた気分だ。
ディラン兄様にむぎゅむぎゅ抱き締められ、ガイゼル兄様にもわしゃわしゃいい子いい子と頭を撫でられる。これじゃあ十年前から何にも変わらない。
「二年ぶりに会えたんだからな、これから二年は一緒に寝ねぇと埋め合わせになんねぇよな」
「本来であれば二年でも足りないところだが仕方ない。一先ず今後二年で妥協するとしよう」
それはつまり、今後二年は公爵家から出られないということでは……。
なんて浮かんだ考えはすぐにぶんぶんっと振り払った。にっこにこの兄様達にそんな指摘は到底出来ない空気だったのだ。
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